2012 Fiscal Year Research-status Report
導電フィラー分散ポリマーコンポジットにおける導体-絶縁体相転移現象の解明と制御
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24750226
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
河野 昭彦 金沢工業大学, 基礎教育部, 講師 (40597689)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 導電フィラー分散ポリマーコンポジット / PTC特性 |
Research Abstract |
平成24年度は、導電フィラー分散ポリマーコンポジットのPTC特性に影響する因子を明確化する研究を実施した。PTC特性とは温度上昇により電気抵抗率が増加する特性(導体-絶縁体相転移)のことである。 第1の成果として、研究代表者らが以前に見出したフィラー充填率の変化による絶縁体相転移温度の変動現象はNi微粒子をフィラ―に用いた場合にのみ見られ、カーボンブラックやカーボンナノチューブ等の炭素系ナノ粒子では見られなかった。炭素系ナノ粒子をフィラーとするコンポジットの絶縁体相転移温度は、マトリックスポリマーの融点とほぼ等しかった。炭素系ナノ粒子は1次粒子径が小さいため、マトリックスポリマー中で隙間なく詰まりやすいと考えられる。したがって、温度が上昇しマトリックスポリマーの体積が膨張しても互いの接触が切れにくいと予想される(融点以下の温度)。この結果、マトリックスポリマーの融解に伴う大幅な体積膨張でのみ導電パスが切断するため、絶縁体相転移温度が変動しなかったと結論した。 第2の成果として、融解しないためPTC特性が発現しないと考えられてきた非晶性ポリマーが結晶性ポリマーに匹敵するPTC特性を示すことを初めて見出した。フィラーにはNi微粒子(平均粒径=2.5μm)、マトリックスポリマーにはポリメチルメタクリレートを使用し、Ni充填率を25vol.%程度に制御することにより、室温抵抗率が約8Ωcm、高温抵抗率が10E9Ωcm以上であり、抵抗率が急峻に立ち上がるPTC特性を実現した。これは、結晶性ポリマーからなるコンポジットのPTC特性と同等レベルである。非晶性ポリマーの体積膨張率は結晶性ポリマーに比較し小さく、かつ非晶性ポリマーは融解現象がないため大幅な体積膨張も示さない。このような非晶性ポリマーに対し、フィラーの種類や充填率を最適化することにより、良好なPTC特性を示すことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現状において、本研究はおおよそ予定通りに進展していると考えている。これは、以下の理由による。第1の理由として、コンポジットのPTC特性にはフィラーの種類が強く影響することを明確にできた。【研究実績の概要】の項には、フィラーの種類を変えたときの絶縁体相転移温度の結果のみを記述したが、その他にもフィラーの種類を変えることにより室温抵抗率や高温抵抗率の値が変化することが判明している。現状では、Ni微粒子を用いた場合が最も室温抵抗率が低く、かつ高温抵抗率が高いことが判明している。第2の理由として、非晶性ポリマー/Ni微粒子からなるコンポジットにおいて、結晶性ポリマーからなるコンポジットのPTC特性と同等のPTC特性が得られることを初めて示した。第3の理由として、上記結果を解明するために、平成25年度に実施予定であったトンネル伝導モデルを適用したPTC特性の解析にすでに着手した。第4の理由として、非晶性ポリマーからなるコンポジットのPTC特性の結果を論文にまとめ採択され(現在印刷中)、本研究の成果を情報発信できた。 一方、マトリックスポリマーの種類を変えた場合のPTC特性のデータの蓄積は、現状ではまだ不十分であると考えている。なお、平成24年度末に微量二軸混練押出機を導入しているため、貴重で少量なポリマーを使用してコンポジットを作製する準備は整いつつある。今後は、現在までに準備した装置等を使用し、コンポジットのPTC特性のデータ蓄積を継続して推進する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、以下の2つの研究を推進する。 ① PTC特性のメカニズム解析:平成24年度に引き続き、種々のポリマー/フィラーからなるコンポジットを作製・評価し、PTC特性のデータ蓄積を行う。これらのデータに基づき、コンポジットのPTC特性のメカニズム解明のため、モデル化と理論解析を実施する。研究代表者らは、フィラーの分散・凝集に関し、「フィラーはマトリックスポリマーの非晶部に局在化する」という仮説をすでに提案している。これより、フィラーはマトリックスポリマーの非晶部で濃縮され、見かけ上フィラー充填率が増加することになる。この仮説、フィラーの凝集・分散状態の直接観察データ、ポリマーやコンポジットの体積膨張挙動、および住田らが提案する格子モデル等のフィラー間ギャップを求める手法を駆使し、種々のコンポジットのPTC特性をトンネル伝導モデルを用いて解析する。また、本取組においては、高抵抗状態のコンポジットの抵抗率を測定するため、高抵抗率計(三菱化学アナリテック製 ハイレスタUP MCP-HT450)を一基導入する。 ②PTC特性の制御法の検討:ポリマー、フィラーの諸量および試料作製条件を最適化し、同一ポリマー、同一フィラーで絶縁体相転移温度を100℃程度変える手法を見出す。また、熱履歴を受けにくいポリマー(例えば非晶性ポリマー)を使用し、PTC特性の経時安定性に優れるコンポジットの簡便かつ安価な作製手法を見出す。 =研究遂行上の課題等について= 平成25年度の実施研究の中で、フィラー間のギャップを理論を用いて求めることが最も難しいと予想される。フィラー間のギャップの定量化が困難を極める場合でも、フィラーの凝集・分散状態の直接観察、ポリマーやコンポジットの体積膨張挙動の解析等は可能であるため、実験と定性的モデルによりPTC特性を定性的に解明することは可能と考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、PTC特性のメカニズム解析のために、高抵抗率が測定可能な高抵抗率計(三菱化学アナリテック製 ハイレスタUP MCP-HT450)を一基導入する。なお、導入時期は、年度初頭を考えている。その他、研究の進捗状況に応じて、遂行上必要となる実験消耗品、およびコンポジット作製のための材料(ポリマー、フィラ―等)を購入する。
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