2012 Fiscal Year Research-status Report
スピン偏極弾道電子放出顕微鏡による(GaMn)As電子構造と強磁性発現機構の解明
Project/Area Number |
24760006
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
加来 滋 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (80583137)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 表面 / SPM / 結晶成長 / 磁性 / ナノ / 高感度電気測定 |
Research Abstract |
GaMnAsヘテロ構造サンプルの表面に金属電極を作成し、探針と金属電極間に流れるトンネル電流でSTMのフィードバックを行う。一方、探針からのキャリアの一部が弾道的に試料内部に侵入し、量子井戸を通過したものだけが電流計で検出される。これをBEEM測定法と呼ぶ。本年度は、超高真空を破らずに一貫してメタル電極を作成するための蒸着機構と、蒸着源を超高真空を破らずに補充できるシステムの開発を行った。また、BEEM用のメタル電極蒸着のためのマスクも設置し、任意形状のマスクにいつでも交換できるような、可変システムを構築した。また、BEEM回路自体も本年度で完成させることに成功し、そのテストをGaAs(001)上のAuのサンプル系において行った。 GaMnAs量子井戸中の電子状態は強磁性相ではスピン分裂しており、これらを分離して測定するためには磁性探針を用いた、スピン偏極STMが必要であり、本年度はスピンSTMの構築に成功した。一般的なW針にFeを蒸着することで磁性探針を作成した。針が磁性を持っていることを確認するために、テストサンプルとして層状反強磁性のCr(001)膜を作成した。Cr(001)薄膜は、GaAs上のAu薄膜上に簡便に成長できるように結晶成長プロセスを新たに開発し、より簡便にSP-STM用の針のチェックを行えるシステムを開発できた。 また、これらの過程で、Au上のCr薄膜成長過程に関する新しい知見が多く得られ、本研究の基盤技術としても有意であると同時に、基礎物理的観点からも意義のある成果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の全体目標はGaMnAs量子井戸中の電子状態をスピン偏極STMとBEEM測定法により解明することである。そのため、初年度には、スピン偏極STMの立上と他システムと融合、BEEM測定回路の立上、BEEM用電極蒸着のための蒸着機構及びマスク機構の開発と設置を目標としていた。これらが本年度全て順調に達成された。また、STMの経年劣化箇所全てに対し完全な保守点検を行ったことで、STM全体の測定精度が向上することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
GaMnAsの量子井戸の電子状態を測定することで、強磁性の発現機構の解明に対して、有意義な知見を得ることを目的としている。初年度に測定器系統の準備はかなり進んだが、STMの探針-サンプル間距離を長時間安定に一定に保てるように、STMコントローラ側の改善を図り、より高精度に電子状態(STS)を測定できるように改良するつもりである。 一般的なWのSTM針を使い、(Ga,Mn)Asの電子構造測定を行う。(Ga,Mn)AsのεFが不純物帯に位置する場合は、不純物帯と価電子帯の両方の準位で弾道正孔が通過するが、εFが価電子帯に位置する場合には、不純物帯の準位を通過できず電流として検出できない。さらに、Tc前後を比較することで、強磁性相転移による電子構造の変化に注目する。特に、強磁性発現がp-d交換相互作用による場合は、p-d交換分裂が確認できると予測される。逆に2重交換作用による場合は、不純物帯と価電子帯が分離しており、価電子帯中の電子構造はGaAs(Mn濃度ゼロ)の電子構造をほぼ維持していると予測される。また、Mn濃度を変えて、定量的な変化を調べる。温度特性とMn濃度特性を調べる際、(Ga,Mn)Asの厚みを変えることで量子準位の深さを変えて、変化特性を見ることで、検出された電流がどの準位に対応するものなのかを判断する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
探針位置を高精度に制御するために、特に、長時間サンプルとの距離を一定に保てるように、より探針制御ピエゾに対する印加電圧を高精度に出力できるコントローラへの変更を予定している。出力電圧のノイズが少なく(S/N比が高く)、出力分解能が小さい方が測定上優位である。また、BEEM電流は最小でfAレベルと微弱であるが、現在のシステムでは50fA程度でしか測定が難しい、そのため、より高精度の電流電圧アンプ(10~11乗)クラスのアンプを購入したいと考えている。 尚、昨年度は、必要物品を可能な限り自作するなど、想定よりも少額で調達できたため、昨年度の未使用分研究費は本年度に上記研究計画のために合わせて使用する。
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