2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24760026
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河内 泰三 東京大学, 生産技術研究所, 技術専門職員 (80401280)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 薄膜 |
Research Abstract |
Fe/MgO(001)薄膜の、界面及び、膜中の磁化方向と内部磁場の温度依存性について、放射光励起による57Fe核共鳴散乱法を用いて調べた。 57Fe層をプローブとした測定法であるため、二元真空蒸着装置を用いて界面、膜中の磁化測定用に56Fe/57Fe/MgO、56Fe/57Fe/56Fe/MgOという同位体の積層試料を作成した。成膜段階では、基板の清浄表面及び各成膜段階で、高速電子線回折法を用いて薄膜の結晶構造を決定した。次に放射光核共鳴散乱法を用いて、プローブ層である57Feの原子核近傍の内部磁場を観測し、放射光の直線偏光特性を利用して、界面及び膜中の磁化方向を決定した。さらに、磁化の大きさの温度依存性を調べた。 測定の結果、磁化の向きに関しては、Fe/MgO界面においては、面直磁化している結果が得られた。一方で、膜中においては、面内方向のFe[100]方位に磁化している成分が得られた。温度依存性を測定した結果、界面、膜中いずれも分子場近似での模型で2次元イジング模型に近い振る舞いをしている結果が得られた。さらに、界面のキュリー温度が、膜中よりも低くなっているという解析結果が得られた。 このFe/MgO(001)の系は、高いトンネル磁気抵抗比が得られたと報告のある系であるが、界面に着目した磁性の実験的報告は得られていなかった。今回の我々の実験結果は、膜中容易磁化軸については先行研究に一致した一方で、界面では面直に磁化していることを示唆する結果が得られ、界面磁性について新しい知見を得たと考えている。さらに、膜中と界面でキュリー点に隔たりがあることは、即ち相転移現象が、バルク層と界面層で異なるという事を示しており、界面磁気異方性の局在項の振る舞いがバルク項とかい離する可能性があることを示唆する成果を上げることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、実験装置に関しては、鉄の同位体56Feと57Feを交互に真空蒸着するための二元蒸着装置の導入を完了し、成膜しながら結晶構造を高速電子線回折装置により決定することが可能となった。次に、内部転換電子メスバウアー分光装置に関しては、エレクトロニクスの刷新および、データ解析、データ集積ソフトウェアを整備することにより安定した実験が可能となった。さらに、放射光核共鳴散乱実験装置においては、小型真空装置を導入したことにより、試料温度を調節しながら、真空中で試料温度を長時間保持した状態での放射光核共鳴散乱測定が可能となり、磁化の温度依存性を調べることが可能となった。本研究課題における平成24年度の実験装置整備としては目標を達成した。 次に、実験成果に関しては、Fe/MgO(001)薄膜の系を扱った。この系に関して、57Fe同位体をプローブ層とした核共鳴散乱法による分析を行うために、真空蒸着法を用いて56Feと57Fe同位体の積層膜試料56Fe//57Fe/56Fe/MgO(001)及び56Fe/57Fe/MgO(001)を作成した。鉄薄膜の結晶構造については、成膜過程において高速電子線回折法によりFe(001)/MgO(001)がエピタキシャル成長したことを確認した。Fe/MgO界面及び膜中の磁化方向は放射光核共鳴散乱法で決定した。膜中は先行研究と一致し、面内Fe[100]方位に面内磁化成分を確認した。一方で、界面においては面直磁化していることが判明し、いままで実験的に観測されていない情報を得ることができた。さらに温度依存性を測定した結果、分子場近似の範囲で、膜中も界面の二次元イジング模型に近い振る舞いを示し、キュリー点に関しては膜中よりも界面の方が低いという結果が得られた。Fe/MgO(001)の系に関して界面磁気異方性の解明という観点から、新しい知見を得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に扱った系は、成膜した薄膜と基板の界面において、結晶学的に面直方向と面内方向両方に、容易磁化軸を有する系であった。界面における磁化のバルクとの差異が、結晶学的に決まっているものか若しくは界面の存在自体が生み出している現象かを調べる為に、平成25年度は、成膜する鉄薄膜が基板に対し、面内方向にのみ容易磁化軸を有する系を扱う。具体的には、基板にサファイアAl2O3(0001)を用いて、平成24年度にMgO(001)上に鉄を成膜した条件と同様に、56Fe/57Fe/56Fe/Al2O3(0001)及び56Fe/57Fe/Al2O3(0001)試料を作成し、高速電子線回折により結晶構造を決定した後に、内部転換電子メスバウアー分光法で測定したのちに、放射光核共鳴散乱法を用いて、膜中及び界面の磁化方向を決定し、続いて磁化の温度依存性を測定する。 平成25年度半ばに、平成24年度のFe/MgO薄膜の界面磁化とFe/Al2O3(0001)薄膜の界面磁化に関して、国際会議で発表すると共に、並行して実験データをまとめて国際会議発表時期を考慮して、論文の形にまとめて投稿を行う。 続いて、表面磁気異方性に関する測定を行う。表面磁性を測定する為には、不純物吸着による結晶構造再構成、電荷移動等を受けない環境に試料が保持されていなければならない。従って、試料表面への不純物の吸着を防ぐためには測定中、放射光核共鳴散乱実験に用いている小型真空装置の真空度を、排気系を補強することにより超高真空まで向上させる。その上で、表面磁性を調べる為に、57Fe/56Fe/基板という薄膜試料を作成する。次に、表面においてFeの酸化状態を確認するために、内部転換電子メスバウアー分光法で異性体シフトを測定し、価数を確認したうえで、放射光核共鳴散乱法を用いて表面磁化方向の決定と、その温度依存性を行い、解析を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
放射光核共鳴散乱実験の為に年間3回合計30日間ほどの出張を予定しており、その出張旅費及び実験装置輸送費用を要し、合計40万円程を予定している。また、測定した実験データが学術的に重要であり国際会議で発表する意義が生じたため、平成25年9月にヨーロッパで開催される国際会議で発表することが決定している。その旅費に40万円程を使用する見込みである。実験には、Fe/Al2O3(0001)という試料を作成するためのAl2O3(0001)基板を購入に5万円程を予定している。57Fe及び56Fe蒸着用材料の追加購入を検討しており、合計で30万円程を予定している。放射光核共鳴散乱実験における磁化の温度依存性測定に用いているセラミックヒーターが消耗品で毎回交換の必要があり、年間で30万円程を使用する見込みである。放射光核共鳴散乱実験用の小型真空装置を超高真空環境に整備するための、排気系を整備するために配管、フランジ類に25万円程を予定している。合計で次年度使用額及び、平成25年度請求額を全額使用する見込みである。
|