2012 Fiscal Year Research-status Report
界面相互作用に基づくグラフェンへのスピン注入過程制御の研究
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24760033
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
大伴 真名歩 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 博士研究員 (20610299)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 六方晶窒化ホウ素 / グラフェン / スピン偏極準安定ヘリウム脱励起分光 / スピントロニクス / 表面科学 |
Research Abstract |
本研究では六方晶窒化ホウ素(h-BN)をグラフェン・スピントロニクスのトンネルバリア材料として用いることを目標とし、スピン・電子状態の評価を進めている。本年度は単層h-BN/Ni(111)のスピン偏極準安定ヘリウム脱励起分光(SPMDS)測定を行い、h-BNに非対称なスピン依存バンド構造が誘起されていることを確認した。フェルミ面付近での非対称率の向きは、Niの多数スピンの向き(フェルミ面付近のNiとは逆)であった。密度汎関数法(DFT)計算との比較から、主にNi上に配位した窒素原子のπ軌道が、Niの3d軌道と弱い軌道混成をしていることの効果であると考えられる。 さらにh-BN成膜中の基板温度が高いと、窒素原子がinterstitial位に抜け、窒素の原子欠陥ができることが確認された。さらにこのような窒素原子欠陥が存在すると、フェルミ面近傍の非対称率が低下することがSPMDSスペクトルから確認できた。この結果は、窒素原子欠陥によってh-BNのスピン偏極制御ができたことを示唆している。スピン非対称率が低下する原因としては、欠陥のdangling bondの局在スピンによる打消し効果と仕事関数の低下の2つが考えられ、今後メカニズムの検討を重ねる。 さらにh-BN/Ni(111)に原子状水素を曝露すると、SPMDSスペクトルとスピン非対称率が変化することが確認された。原子状水素曝露後のX線吸収微細構造(NEXAFS)スペクトル測定とDFT計算による構造安定性評価を行ったところ、今回確認された水素化h-BN/Ni(111)はホウ素原子が水素化した準安定構造であると考えられ、今後構造評価を試みる。また水素化したh-BN/Ni(111)ではNiの少数スピンの向きに偏極した準位があることも確認されたため、今後水素化によるh-BNのスピン偏極制御の可能性と有用性も検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の平成24年度研究計画では、以下の3点の目標を掲げている。①h-BN/磁性金属界面の磁性金属側に高い磁気モーメントを誘起できる系を探索、②h-BN/Ni(111)の窒素・ホウ素のK-edge XMCDの評価、③h-BN/Ni(111)のスピン偏極ヘリウム脱励起分光(SPMDS)である。このうち①は放射光施設のマシンタイムが限られていることとXMCD装置の問題により遅延している。しかし②は達成済みであり、③は窒素原子欠陥によるフェルミ面付近の偏極制御や水素化h-BNのスピン依存バンド構造の評価という、当初の計画を上回る成果を上げることができた。そのため③については『(1)当初の計画以上に進展している』という評価を与えることができ、①の遅れを併せても『(2)おおむね順調に進展している』と評価するのが妥当である。
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Strategy for Future Research Activity |
最優先に取り組む課題として、単層グラフェン(SLG)/h-BN/磁性金属(FM)積層構造の最表面(単層グラフェン)のスピン依存バンド構造評価がある。SLGと磁性金属の直接接合でもSLGにスピンが誘起されるが、同時に軌道混成によってディラク電子系も壊れてしまう。本研究ではh-BNをバッファ層とすることでディラク電子系の維持と交換ポテンシャルによるスピン偏極の導入の両立を目指しており、SLG/h-BN/FM積層構造のSPMDS測定によって、層ごとの相互作用を明らかにし、グラフェンの更なる高機能化を目指す。SLG/h-BN/FM積層構造の作製にはすでに成功しており、課題であった前駆体ガスの低ドーズ量合成にも成功している。これにより清浄な表面を持つ試料の作製が可能になっており、SPMDS測定が要求する表面清浄性をクリアできるものと考えている。 またh-BNを実際にトンネルバリアとして採用した際の、スピン注入効率の検討にも着手する。デバイス構造としては平面型だけではなく、フラーレン等をスピン輸送材料とした縦型素子も視野に入れ、本研究で見出されたh-BNのスピン偏極制御などの知見が、実デバイスに反映されうるものかどうかを調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額として41,657円が発生しているが、これは主に論文投稿料が必要なかったことによる剰余金であり、次年度早期に本研究の成果を論文発表する際の原資とする。次年度の直接経費として700千円が内定しているが、これらは各種消耗品の購入や、研究成果を学会発表する際の旅費として用いる。
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