2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24760041
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
居波 渉 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (30542815)
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Keywords | 蛍光薄膜 / カソードルミネッセンス / ナノ光スポット |
Research Abstract |
本年度は、計算精度の向上と電子線透過防止膜の検討を行った。計算精度は、深さ方向の電子のエネルギー損失分布を導入することで向上させた。高加速電圧の電子線を蛍光薄膜に入射させると、電子の平均自由行程が長くなる。そのため、蛍光薄膜内で数回散乱しただけで、薄膜を貫通する。平均自由行程で決まる散乱点間の距離は長くなる。この距離が蛍光薄膜の厚さより長くなると、中点を決めることができなくなる。この問題を解決するために、深さ方向の電子のエネルギー損失分布を利用した。電子線のある侵入深さでのエネルギー損失を計算することができる。そのため、先ほど説明した発光点の位置である中点を決めることができないということはない。本手法を導入することで、高加速電圧の電子線に対しても計算精度を向上させることができた。 さらに、実際に蛍光薄膜を作製し、電子線による発光強度を測定した。蛍光薄膜には、ユーロピウムを添加したイットリウムオキサイド蛍光体を用いた。この蛍光体を窒化シリコン薄膜上に成膜した。作製した蛍光体の膜厚は50nm、窒化シリコンの膜厚は50nmである。作製した蛍光薄膜を走査型電子顕微鏡の中に入れ、電子線を照射した。その発光を集光し、光強度を測定した。入射電子線の加速電圧を1から10kVに変え、発光強度の加速電圧依存性を調べた。この実験と同様の条件で計算を行い、実験値と比較した。その結果、実験値と計算結果は一致した。加速電圧を高くしていくと、徐々に発光強度が強くなった。電子線の加速電圧4kVで光強度は最大となった。さらに加速電圧を高くすると、光強度は減少した。電子線の加速電圧が高いと、蛍光薄膜内で電子線が散乱せずに透過する。そのため、電子線は蛍光体を励起できない。したがって、発光強度は減少する。高加速電圧においても、計算結果は実験値と一致することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通りに、深さ方向の電子のエネルギー損失分布を導入することで、計算精度を向上させた。本手法を導入することで、高加速電圧の電子が入射した場合にも、計算可能になった。従来の方式の場合、発光点が蛍光薄膜の中心に発光点が集まってしまう。しかし、深さ方向の電子のエネルギー損失分布を導入した方法では、そのようなことはなくなった。そのエネルギー損失の分布に従い、発光点が分布する。実際に本手法と実験結果を比較した。膜厚50 nmのシリコンナイトライド基板に、膜厚50 nmのユーロピウムを添加したイットリウ ムオキサイド蛍光薄膜(Y2O3: Eu3+)を成膜した。電子線はシリコンナイトライド基板側から入射させた。蛍光薄膜で発生した光は、レンズで集光し、光電子増倍管で検出した。加速電圧を1から10 kVに変化させ、蛍光薄膜からの光強度を測定した。実験結果と計算結果は良く一致しており、計算精度が向上したことが分かった。電子線の加速電圧を高くしていくと、光強度は、徐々に強くなり、ピークができた後、減少した。計算結果から、電子線により励起された光子の数を比較する。励起された光子数は、加速電圧が高くなるとともに、増加する。そして、加速電圧4 kVでピークになる。さらに加速電圧が高くなると、減少していく。この結果より、蛍光薄膜内で励起された光子数が多いほど、発光強度が強くなることが分かった。また、発光強度は、蛍光薄膜の膜厚やそれを構成する元素から決まる最適な電子線の加速電圧があることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
電子線透過防止膜を検討する。蛍光体薄膜が薄い場合、電子線は蛍光体薄膜を透過することがこれまでの計算結果でも分かった。電子線励起ナノ光源の顕微鏡やバイオテクノロジーへの応用を考えると、電子線が蛍光体薄膜を透過し、試料に照射されることは試料が損傷する可能性があり良くない。そこで、蛍光体薄膜上に、電子線透過防止膜を成膜した場合について検討する。これを実現するために、多層膜構造を取り扱うことができるように、プログラムを拡張する。そして、光強度、スポットサイズがどのように変化するかについて評価する。さらに、計算だけでなく、実際に電子線透過防止膜を成膜した蛍光薄膜を作製し、計算結果と比較する。
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Research Products
(8 results)