2012 Fiscal Year Research-status Report
角度分散型顕微ラマン分光法によるサブミクロン空間分解能の応力マッピング技術の開発
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24760088
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
來海 博央 名城大学, 理工学部, 教授 (30324453)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 顕微ラマン分光法 / 角度分散 / 結晶方位測定 / 応力マッピング測定 / サブミクロン空間分解能 |
Research Abstract |
本研究は,単結晶の応力/ひずみ測定に限定的に適用されてきた顕微ラマン分光法を,レーザーの入射・検出方向を段階的に変えて測定する角度分散型顕微ラマン分光技術へ展開し,「単結晶から多結晶体まで適用できる数100nmの高空間分解能での応力/ひずみのマッピング技術の開発」を目的として行った. まず,角度分散型顕微ラマン分光装置の開発として,ナノレベルでZ方向へ移動可能な試料ステージ,ならびに70°傾いた状態で回転できるステージを構築するともに,焦点を微調整できる斜め入射機構の改善を行った.さらに,斜め入射-垂直検出に対するラマンスペクトル強度の変化について,偏光方向・結晶方位・入射角度・散乱角度・屈折率・試料角度を考慮した理論ラマン散乱強度式を導出し,構築したステージを用いて理論と実験の比較を行い,良い一致が得られた.これらの具体的な適用例として,顕微ラマン分光法によるアルミナ多結晶体の結晶方位測定を行った.斜め入射-垂直検出に対するA1g振動モードならびにEg振動モードのラマン散乱光のピーク強度の,結晶格子の回転から得られる変化を利用して結晶方位同定を行った.垂直入射-垂直検出の完全後方散乱型では不可能であったアルミナのa軸方向の同定に成功した.これにより,アルミナのc軸ならびにa軸方向が同定できることが明らかとなり,結晶方位が同定できることがわかった. 応力評価として,シリコン単結晶における応力/ひずみ評価を行った.(111)シリコンに対して偏光制御を行うことで三重縮退したシリコンのラマンスペクトルピークを分離した応力・ひずみ評価に成功した.特に,シリコン中に導入したき裂先端の応力場を測定した結果,き裂先端の特異応力場が得られ,(111)シリコン単結晶の応力成分の測定も可能となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で当初予定した,角度分散型顕微ラマン分光法による高空間分解能の応力マッピング技術の開発のフローによると,平成24年度に角度分散型顕微ラマン分光装置の開発ならびに基礎理論の展開を行い,平成25年の前期からは実応力マッピングとして,単結晶,多結晶体のモデル材料の応力評価を実施する予定となっていた.平成24年度の実施項目であった角度分散型顕微ラマン分光装置の開発においては,まだ一定角度のみの入射機構となっているため装置としては不完全ではあるが,その周辺機構に関しては順調に開発が進んでいる.また,斜め入射-垂直検出に対するラマンスペクトル強度の変化について,偏光方向・結晶方位・入射角度・散乱角度・屈折率・試料角度を考慮した理論強度評価ならびに顕微ラマン分光法を用いた結晶方位測定法の確立を行い,アルミナにおいてはすべての結晶方位が同定できることを明らかにした.また多結晶体のラマン応力定数の理論展開についてもアルミナについては導出できている.これらのことは当初予定していた平成24年度の計画通りに進んでいる.しかしながら,斜め入射角度の範囲や入射機構の最適化が進んでおらず,角度分散型顕微ラマン分光法による微小領域の多軸応力測定については実施されておらず遅れが出ている.この分を,平成25年度実施する予定であった,角度分散型顕微ラマン分光法によるシリコン単結晶の応力成分同定を実施し,(111)シリコンに関しては2次元応力成分の同定に成功している.(001),(011)シリコンに対しても既に理論展開が進んでおり,入射角度と検出角度の最適値の検討に入っている. 以上の事を鑑みると,平成24年度実施事項の一部が完遂していないものの,平成25年度実施事項を平行して進めたことで,最終目標に対しては大きな遅れもなく順調に進んでいるものと考えることができる
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画は,まず平成24年度に完成予定であった角度分散型顕微ラマン分光装置の開発を完成させる.特に,本研究の最大の特色である角度分散型入射機構の構築を完成させることである.既に斜め入射-垂直検出に対するラマン散乱強度理論については,偏光方向・結晶方位・入射角度・散乱角度・屈折率・試料角度をパラメーターとして導出されているため,これらのパラメーターを考慮した最適な入射角度範囲を検討し設定できるようになっている.試料ステージについてはナショナルインスツルメンツ社LabViewでの制御が行われているため,これらの制御システムに組み込む予定である. その後,「基本的な結晶構造を有する多結晶体のラマン応力定数の理論展開と実測定」を実施する予定である.理論の部分に関しては平成24年度において進めており,より効率的に進めることができると推察される.ここでは,本研究で提案するラマン応力定数を決定する. 次に「角度分散型顕微ラマン分光法による微小領域の多軸応力測定」を実施する予定である.結晶粒の大きいアルミナ多結晶体の切欠き試験片は現有しているため,前節内容ができれば,実施可能な内容となる.ここでは,試験片に導入した切欠き周辺の応力場を角度分散型顕微ラマン分光装置で測定し,その信頼性評価のため有限要素法解析と比較して,その妥当性を検証する.また(111)シリコン以外についても応力測定を実施する予定である. 最後に「サブミクロンスケール以下の結晶組織を有する材料の応力場の評価」として,確立した応力同定技術で遮熱コーティング(TBC)の未時効材ならびに熱時効材のトップコート層ならびに異常酸化(TGO)層等の残留応力測定を行い,その有用性を明示する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使用計画としては,平成24年度実施する予定であった角度分散型顕微ラマン分光装置の開発を完成させるところに主に使用する.この部分の構築が次年度となった経緯としては,本研究の最大の特色である角度分散型入射機構の構築を散乱強度理論に基づいて行っているために,その理論式の導出ならびに検証実験に時間を要したためである.しかしながら,平成24年度において角度分散型入射機構利用した場合のラマン散乱強度式を,偏光方向・結晶方位・入射角度・散乱角度・屈折率・試料角度をパラメーターとして構築しているため,これらのパラメーターを考慮した最適な入射角度範囲を検討し設定できるため,これらの装置の構築に次年度使用予定の予算を充当する予定である.そのため,これらの機構に必要な対物レンズ,誘電体ミラー,電動型偏光子ホルダーなどを購入し,システムとして構築する予定である. その他に,既に平成25年度実施予定であった項目についても同時に進めていたため,大きな遅れはなく,平成24年度に実施予定であった「基本的な結晶構造を有する多結晶体のラマン応力定数の理論展開と実測定」で使用予定であった安定化ジルコニア等を購入予定である.
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Research Products
(2 results)