2012 Fiscal Year Research-status Report
高速窒素拡散を利用した低温窒化プロセスによる高強度純チタンの創製
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24760090
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
菊池 将一 立命館大学, 理工学部, 助教 (80581579)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 窒化 / チタン / 疲労 |
Research Abstract |
純チタンは、耐食性および比強度に優れている反面、摩擦摩耗特性に乏しいため、工業分野では表面改質プロセスを施した後に使用されることが多い。なかでも、窒素雰囲気下で900℃程度の加熱を施す窒化処理は生産性に優れるため、純チタンの表面硬化法として広く利用されている。しかしながら、純チタンに窒化を施した場合、窒素の拡散により表面が硬化するにも関わらず、疲労強度が低下するという問題がある。これは、窒化時の熱影響によってチタンの結晶粒が粗大化、また脆弱な窒素化合物層が形成するためである。工業分野や関連研究分野では、窒化後の仕上げ処理により「弱部(窒素化合物層)を取り除く」アプローチが主流であるが、この手法では結晶粒粗大化による疲労強度低下を解決することはできない。 そこで本研究では、窒素の高速拡散を利用することにより、耐摩耗性・耐疲労性の双方に優れる純チタンの創製を可能とする「低温プラズマ窒化プロセス」の確立を目的とする。しかしながら、単に窒化処理温度を低下させると窒素の拡散速度は著しく減少するため、窒化層が形成されないことが予想される。そこで本研究では、窒化の前工程に強加工プロセスを施すことにより、純チタンの結晶粒を微細化させ、窒化工程における窒素の拡散を促進させることを想定している。また、最終的には、疲労強度のみならず延性の確保を目的として、強加工プロセス条件を制御することにより粗大結晶粒を含むネットワーク微細結晶組織を形成させ、高疲労強度・高延性チタンの創製を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、主に、微細結晶チタンの表面性状に及ぼすプラズマ窒化処理条件および結晶粒径の影響について検討を加えた。まず、冷間圧延およびメカニカルミリングを用いて、微細結晶粒を有する純チタンを作製した。なお、メカニカルミリングは種々の時間(0, 25, 50 ,75, 100時間)で処理を行い、結晶粒の異なる試験片を作製した。このように作製した微細結晶チタンに対して、3種類の窒化温度(500, 600, 700℃)、2種類の窒化時間(5, 20時間)の条件で窒化処理を施した。 その結果、結晶粒を微細化することにより窒素化合物層の厚さは増大し、表面硬さが上昇する傾向が得られた。これは、予め結晶粒を微細化することにより、窒素拡散速度が増大したためである。なお、このような硬さの上昇は、500℃の窒化処理では認められなかったことから、600℃以上の窒化処理が有効であることが明らかとなった。しかしながら、700℃の窒化処理を施した微細結晶チタン(冷間加工材)の場合には、結晶粒の粗大化が生じた。これに対して600℃窒化を施した純チタンには、依然として微細な結晶粒が存在していたことから、効果的に純チタンの疲労特性改善に寄与する窒化条件(600℃)を見出すことができた。 また、次年度に向け、疲労特性を評価するための4点曲げ疲労試験システムの構築も完了しており、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、600℃の低温プラズマ窒化プロセスを施した試験片を中心に、疲労特性評価を行っていく予定である。現在は、比較材である「未窒化材」(窒化を施す前の試験片)に対して、4点曲げ疲労試験を行っている段階である。「未窒化材」の疲労試験が完了した後、低温プラズマ窒化材に対しても疲労試験を実施し、窒化プロセス前後における純チタンの疲労限度の変化について検討を加える予定である。 また、疲労試験後には走査型電子顕微鏡を用いた破面観察を行い、純チタンの疲労破壊メカニズムに及ぼす低温窒化プロセスの影響を明らかにする予定である。その際,微細結晶チタンの3次元破面解析を行い、結晶粒の微細化に伴う破壊形態の変化と関連付けて検討する予定である。 さらに、実用的観点から低温窒化プロセスの最適化を行うことも予定している。具体的には、疲労強度のみならず延性の確保を目的とし、強加工プロセス条件を制御することにより敢えて粗大結晶粒を含むネットワーク組織(大部分は微細結晶粒組織)を作製する。これは、結晶粒微細化に伴う延性の低下を解決するためである。すなわち、微細結晶粒が高疲労強度を、粗大結晶粒が高延性を示す役割を担うことにより、高延性かつ高疲労強度を有する純チタンを創製する。その際、とくに粉末粒子径を変化させ、粗大結晶粒の最適面積率を明確にする。 以上のように、本研究課題では、実用的観点から低温窒化プロセスによる純チタンの真の高強度化を達成する条件を導き出す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費については未使用額が生じたが、これは次年度に国外研究機関と協力して本テーマを推進する予定であり、それに関わる旅費が新たに必要となったためである。また次年度は、低温プラズマ窒化プロセスの委託費(委託先:公益財団法人応用科学研究所)、4点曲げ疲労試験機のメンテナンス・改良費、試験片作製のための消耗品購入費(耐水研磨紙、コロイダルシリカ懸濁液など)を執行する予定である。
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Research Products
(5 results)