2013 Fiscal Year Research-status Report
高速窒素拡散を利用した低温窒化プロセスによる高強度純チタンの創製
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24760090
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
菊池 将一 立命館大学, 理工学部, 助教 (80581579)
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Keywords | 窒化 / チタン / 疲労 |
Research Abstract |
純チタンは、耐食性および比強度に優れている反面、摩擦摩耗特性に乏しいため、工業分野では窒化処理を施した後に使用されることが多い。しかしながら、純チタンに窒化を施した場合、窒素の拡散により表面が硬化するにも関わらず、疲労強度が低下するという問題がある。これは、窒化工程時にチタンの結晶粒が粗大化し、脆弱な窒素化合物層が形成するためである。 そこで当該年度は、純チタンの微視変化挙動に及ぼす窒化処理温度の影響について系統的な検討を加えた。その結果、窒化処理温度の増加に伴い、純チタンの結晶粒径が増大する傾向が認められた。また、表面窒化層の観察・分析も行い、600℃以上の窒化処理により窒素化合物が形成されること、処理温度によって窒化層の結晶構造が変化することを明らかとした。具体的には、温度が低い場合にはTi2Nが、温度が高い場合にはTiNが形成され、低温で窒化処理を施すことにより純チタンと同程度のヤング率を有する表面層を形成することができた。以上から、純チタンの疲労特性改善が期待される窒化処理温度(600℃)を見出すことができた。 次に、純チタンの疲労特性に及ぼす低温窒化プロセスの影響を評価するため、4点曲げ疲労試験(応力比0.1)を実施した。その結果、通常窒化材(850℃)は未窒化材よりも低い疲労限度を示したのに対し、600℃窒化材は未窒化材と比較して高い疲労限度を示した。その要因について表面分析結果を基に考察し、低温度域で行う窒化プロセスの有用性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、純チタンの微視変化挙動および疲労特性に及ぼす窒化処理温度の影響について系統的な検討を加え、低温窒化プロセスによる純チタンの疲労特性改善メカニズムを明らかとした。 純チタンの微視組織変化については、窒化の改質効果が発現する処理温度を明確化し、耐摩耗性・耐疲労性の双方を改善可能な「低温プラズマ窒化プロセス」を確立することができた。その際,単に窒化処理温度を低下させると窒素の拡散速度が減少する点を考慮し、結晶粒微細化プロセスと複合化することにより窒素拡散速度を増加させ、窒化層の形成を可能にした。学術的課題の抽出・解決の過程を通して、新しい表面改質プロセスを確立するという当初の目的は達成できたと考えている。 また、結晶粒微細化プロセスを導入したことにより,結晶粒径の異なる試験片を複数作製できたため,窒化チタンの疲労特性に及ぼす結晶粒径の影響についても検討を加えることができた。その結果,表面窒化層の組成が同じである場合にも,その直下に存在する結晶粒の大きさに依存して疲労強度が変化する傾向が認められ、新たな検討課題を抽出することができた。さらに、結晶粒微細化プロセスの種類(冷間圧延,メカニカルミリング)によって、窒化工程時における結晶粒の粗大化挙動が異なり、本プロセスの実用化を見据えた工業的指針も得ている。 疲労特性の評価については、現在も4点曲げ疲労試験を継続中であり、長寿命域における実験データを取得しつつあることから、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も600℃の低温窒化プロセスを施した試験片を中心に、4点曲げ疲労試験を実施していく予定である。また現在は「未窒化材」(窒化を施す前の試験片)と比較しているが、窒化処理時の熱影響を考慮すると同温度で真空加熱した試験片が比較材として適切であると考えられる。純チタンの疲労特性に及ぼす加熱および表面窒化層の影響をそれぞれ明確にすることにより、低温窒化チタンの疲労破壊メカニズムの全容解明を目指す。 また、疲労試験後には走査型電子顕微鏡を用いた破面観察を行っているが、今後は3次元破面解析を行う予定である。その際,結晶粒の微細化に伴う破壊形態の変化や表面窒化層の有無も考慮に入れて考察を行う。また、き裂の発生・進展挙動にも注目し、破壊経路解析やき裂進展速度の評価を行う予定である。 さらに、実用的観点から低温窒化プロセスの最適化を行うことも予定している。具体的には、さらなる低温化を図り、脆弱な窒素化合物層が形成されない処理条件を探索する。また、疲労強度のみならず延性の確保も目的とし、前処理の結晶粒微細化プロセスを制御することにより粗大結晶粒を含むネットワーク微細結晶組織を形成させ、高疲労強度・高延性チタンの創製を目指す。得られた知見を統括し、実用的観点から低温窒化プロセスによる純チタンの真の高強度化を達成する条件を導き出す。
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Research Products
(9 results)