2012 Fiscal Year Research-status Report
自己治癒における改変機構の解明と次世代自己治癒セラミックスの創製
Project/Area Number |
24760093
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
長田 俊郎 横浜国立大学, 共同研究推進センター, 特任教員(研究教員) (50596343)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 自己治癒 / 改変期 / セラミックス / マルチスケール |
Research Abstract |
生命体の主な構造用部材である緻密骨が持つ改変期を含む自己治癒機能を次世代航空機エンジンの静翼等の候補材である酸化物系セラミックス基複合材に発現し、その信頼性を抜本的に改善することが本研究の目的である。本年度は、人体の緻密骨におけるき裂治癒;反応期、修復期及び改変期に類似した機能を持つ可能性を有する、アルミナ/炭化ケイ素複合材の改変期を含む自己治癒の強化機構の解明を試みた。具体的には、H24年度計画に従い、1300℃及び1時間の熱処理により予き裂を完全に治癒した試料のき裂治癒部に対し、独)物質・材料研究機構,微細構造解析プラットホームの共用設備である微細組織三次元マルチスケール解析装置(SMF-1000)を使用し、構造・組成・界面構造・結晶方位解析等を行った。加えて、高温その場観察顕微鏡を用い、炭化ケイ素の酸化によるき裂治癒挙動の観察を行った。その場観察の結果、約1130℃において酸化物は融解することが確認された。これはSiCの酸化が大きな発熱を伴うことが要因である(反応期)。更に、EDS定量分析の結果、き裂治癒部の組成はSi : Al : O =40: 8 : 52の組成であった。従って、酸化物の融解は、大きな発熱に加え、SiO2と母相であるAl2O3との局所的な反応により融点が1700℃から1587℃まで低下した結果である。この様な液相の生成はき裂面間の空隙の完全な充填に大きく寄与すると考えられる(修復期)。また、装置中のTEMを用いた観察の結果、き裂治癒部はシリカにAlが固溶した急冷組織であるAlminosilicateであった。過飽和固溶体の生成により治癒部は室温において十分な強度を発現すると結論づけられる(改変期)。この様な治癒反応の素反応および治癒部の組成解析は、次世代自己治癒材料の設計に大きく寄与するものと期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度は,改変期を含む自己き裂治癒の解明に最も重要な,き裂治癒部の直接観察・分析手法の確立を試みた.微細組織三次元マルチスケール解析装置(SMF-1000)を用い,FIB-SEMによる酸化物による治癒面間充填の3D-SEM像,炭化ケイ素の酸化により生成した治癒物質により,き裂面間は完全に充填されていることが確認された.また,同装置に装備されるTEM/EDSを用いた酸化物の組成の解析と高温その場観察装置の併用により,治癒物質による充填や高強度な治癒部の生成には母材であるアルミナと二酸化ケイ素の反応がきわめて重要であることを確認した.これら反応は,緻密骨の自己き裂治癒における反応期,修復期および改変期に対応する,複数の素反応に分類されることが明らかとなった.この成果は最終年度に実施予定である次世代自己治癒セラミックス設計指針の構築に対し,極めて有意義なものである.従って,H24年度の研究目的はおおむね達成できたと考えられる.一方で,自己治癒の対象としている,ビッカース硬度計で導入した予き裂は,熱処理による引張り残留応力の開放により,き裂面間の幅が減少するため,申請時の予想よりも狭く,60nm程度であった.このため,申請書に記載したFE-SEMを用いたEDSやEBSDは勿論のこと,微細組織三次元マルチスケール解析装置(SMF-1000)を用い分析であっても,治癒物質の詳細な構造および治癒部/母材間の界面構造の同定は困難であった.従って,更に高い分解能を有し,界面構造解析を得意とする原子識別電子顕微鏡を用いた分析を行うために,FIBによる観察用試料を作製した.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に作製した観察試料を用い,原子識別電子顕微鏡により治癒物質の詳細な構造および治癒部/母材間の界面構造の同定を行う.また,生成したき裂治癒物質とき裂周辺のヤング率や硬さ等の分布をナノインデンテーション法も用い測定する。本年度より申請者はこれら装置を保有する独)物質・材料研究機構に異動し,それぞれの分析に対し優れた実績を挙げている,三留正則MANA研究者および大村孝仁副ユニット長のアドバイスを得ることが可能なため,より円滑な研究が実現可能である.このような手法を用い、H25年度は計画に従い自己き裂治癒による強度回復に及ぼす治癒部の特性変化の影響を調査する。治癒物質の特性は時間とともに変化し、その組成・構造や治癒部/母材間の界面構造は治癒温度により決定される。従って、温度:900℃~1500℃において、一定時間き裂治癒処理を施した強度回復率0%~100%の試料を作製し、治癒部特性の経時変化を直接観察する。強度回復率は室温三点曲げ試験で判定する。ここで、高温・大気中での治癒反応は極めて活性で、炉の昇温中に強度回復率が100%に達する恐れがあり、強度回復率の調整は非常に困難なことが見込まれる。従って、申請者が既に提案している酸素分圧の影響を含むき裂完治速度式を参考に、酸素分圧を意図的に低下させることで、各温度での強度回復率の調整を行う。前年度および今年度取得予定のき裂治癒部の3D-SEM像,治癒部およびその周辺のヤング率・硬さ,および界面構造を参考に,汎用有限要素法(ANSYS)用いた有限要素法の実施を試みる.これには,所属部署の渡辺育夢主任研究員のアドバイスを得ることで正確な解析を実施する.以上より,自己治癒によるき裂先端の特異場(応力拡大係数)の消失挙動を解析し,実験・解析の両面から自己き裂治癒:炎症期・修復期・改変期による強度回復モデルを構築する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品・消耗品費としては主に、焼結体作製用消耗品、強度試験用消耗品、熱処理用消耗品、分析用試料加工費を計上した。本年度は購入予定であった物品が,大学に異動したことにより安価に購入可能であったため,余剰金は繰越金とさせていただいた.次年度は再び異動となるが,異動後の所属機関においても複合材粉末の混合および複合材の曲げ試験が実施できるように,H24年度繰越金は主に物品費として,卓上ボールミル(ポット回転ミル)および曲げ試験冶具の購入に使用する予定である.更に,国内・外国旅費は主に国内で毎年2回開催される日本金属学会秋・春期大会、および今年度6月にベルギーで開催予定の第4回自己治癒材料国際会議に参加のために最低必要な交通費等として計上した。また,横浜国立大学の高橋教授および中尾准教授との打ち合わせおよび同研究室が所有する装置の使用等のための交通費として使用する予定である.
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