2012 Fiscal Year Research-status Report
電気化学的手法を応用した人工関節材料表面の吸着膜の機能評価
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24760122
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中嶋 和弘 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70315109)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 人工関節 / 蛋白質 / 吸着 / 摩擦 / 吸着膜構造 |
Research Abstract |
人工関節のトライボロジー特性に大きく影響する蛋白質吸着膜についての検討を行った.これまでに蛋白質吸着膜により摩擦摩耗特性が大きく変化することを報告しており,摩擦摩耗に対する最適な蛋白質吸着膜構造が明らかになっている.これらの構造は摩擦負荷時に蛋白質吸着膜がせん断を受けることにより摩擦に対して最適な膜構造を形成することが考えられる.この構造変化のメカニズムを明らかにするために,電気化学的手法を用いて摩擦負荷時の蛋白質吸着膜の挙動について調査を行った.試験片には超高分子量ポリエチレンとCoCrMo合金を用いた.潤滑液とCoCrMo合金の電位差(ポテンシャル)を測定することで,CoCrMo合金表面への蛋白質の脱吸着挙動を測定することが可能となる.蛋白質には生体関節液に含まれるアルブミンを用いた.蛋白質をPBS(pH7.4)へ添加した潤滑液と,コントロールとして蛋白質を含まないPBS(pH7.4)を用いた.蛋白質を添加することで,CoCrMo合金と潤滑液のポテンシャルは-0.45[V]から-0.40[V]へ上昇した.このことから,CoCrMo合金上に潤滑液に含まれるアルブミンが静的吸着したことが示された.また,摩擦を開始するとポテンシャルは全ての潤滑液中において減少した.ポテンシャルの減少はCoCrMo合金表面の還元を示しており,本試験ではCoCrMo合金の腐食・摩耗は考えにくいため,表面に吸着した蛋白質の剥離もしくは薄膜化を示す.アルブミンを含む潤滑液中では静的に吸着した蛋白質が摩擦によるせん断をうけたため,剥離していると考えられた.摩擦開始から1200秒後に摩擦係数が安定した.このときにはポテンシャルは一定の割合で増加していること,増加率はPBS中との違いがみられないことから,CoCrMo合金表面の蛋白質は脱吸着挙動が安定したと考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに表面の変化の計測に電気化学的手法は用いられておらず、世界で初めてin situで蛋白質の脱吸着挙動を測定することが可能となった.金属の酸化還元によるポテンシャルの変化と,蛋白質吸着膜によるポテンシャルの変化を分ることが可能であった.この結果により,蛋白質吸着膜の脱吸着について議論できるようになった.OCP測定で蛋白質吸着膜による表面の変化を測定することが出来た.これらの知見から表面での蛋白質の挙動,蛋白質吸着膜の構造変化について検討することが可能となった.
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Strategy for Future Research Activity |
生体関節液に含まれる蛋白質のうち,最も分子量が大きく,アルブミンと電気的特性,コンフォメーションが異なるγ-グロブリンを用いて昨年度と同様の試験を行う.それぞれの蛋白質を単体で含む潤滑液の知見から,それぞれの蛋白質の摩擦に対する機能,吸着構造について検討する.これまでに最も摩擦摩耗が低減する蛋白質吸着膜はこれまでに明らかとなっているため,2種の蛋白質を添加した条件において,摩擦摩耗に対する最適蛋白質吸着膜の構造,せん断強さについて電気化学的測定法から検討する. 蛋白質が摩擦により剥離する条件について,荷重をパラメータとした試験を行う.これにより,蛋白質が剥離する境界荷重が明らかとなる.この境界荷重についてアルブミン,γ-グロブリンそれぞれについて測定し,それぞれの蛋白質の吸着力について明らかにする.この蛋白質の吸着力の差異が摩擦摩耗に大きく影響すると考えられるため,それぞれの蛋白質の吸着力の差異を利用した,摩擦摩耗に対して最適な構造をもつ蛋白質吸着膜について同様の試験を行い,単一の蛋白質のみを含む試験との比較から,最適な構造を持つ蛋白質吸着膜について,せん断強さについて検討を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品として,摩擦試験用試験片,各種蛋白質,実験器具等を購入する.試験に使用するCoCrMo合金は医用グレードのASTMF75を用いるが,非常に高価な材料であるため,試験に必要な最小枚数を購入する. 繰越金はCoCrMo合金の購入に使用する.
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