2012 Fiscal Year Research-status Report
次世代超伝導応用装置用の高臨界電流特性をもつ高密度MgB2線材の作製に関する研究
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24760259
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
前田 穂 日本大学, 理工学部, 助手 (80610584)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 超伝導材料・素子 / 二硼化マグネシウム / 材料加工・処理 / 超伝導線材 / 格子欠陥 |
Research Abstract |
軽元素からなる二硼化マグネシウム(MgB2)は、約40 Kの高い超伝導転移温度を有するため、従来の材料では使用不可能な温度領域での超伝導応用、特に次世代の軽量で小型な磁気共鳴画像(MRI)診断装置への応用に大きな期待が持たれている。現在、この材料の実用化における主な課題として、作製方法の低コスト化と臨界電流特性の改善が挙げられている。そこで本研究では、MgB2線材の原材料として安価な結晶質の硼素粉末と粗大なマグネシウム粉末を使用し、磁場下の臨界電流密度を改善する炭素添加剤として安価なピレン粉末やリンゴ酸粉末を用いた。また、Cold High Pressure Densification(CHPD)装置の導入への取り組みと、この装置の加圧による高密度なMgB2線材の作製を図り、臨界電流特性の改善を試みた。 安価な結晶質の硼素粉末から作製したMgB2線材は、高価な非晶質の硼素粉末から作製した線材に比べて、4.2 Kの温度、8 Tの高磁場領域で半桁程度低い臨界電流密度を示し、従来の結果とほぼ一致するものであった。しかしながら一方で、もうひとつの原材料として、非常に大きいマグネシウム粉末を用いてその線材を細線加工することにより、この金属粉末を通電電流方向へ伸長させ、さらに、CHPD装置を用いて1.5 GPaの圧力で加圧することにより、MgB2生成時に形成される空隙の形と方向及び大きさを制御させ、MgB2コアの密度を高めた線材の作製に成功した。この線材は、高価な原材料粉末を用いて従来の方法から作製した線材と同等の臨界電流特性を示し、さらに炭素添加により高磁場領域の特性は著しく増大した。今後、改良したCHPD装置を用いて加圧の大きさを3.9 GPaまで増大させることにより、臨界電流特性のさらなる改善が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れている理由は、本研究に不可欠なCold High Pressure Densification(CHPD)装置の導入に、当初の予定よりも多くの時間を費やすことが必要となったからである。具体的に、日本で初めてCHPD装置を導入するために、オーストラリアのUniversity of Wollongongで拝見した従来の短尺線材用装置では、加圧時に線材をはめ込む超硬合金アンビルを用いたセルの一部にわずかな隙間がしばしば生じ、その結果、最悪のケースで線材の破壊に至るという欠点を、研究協力者から教えて頂いた。線材が破壊される頻度は稀であり、また、短尺線材用装置を早期に導入することが本研究の達成すべき課題の一つであったが、将来実用化に適した長尺線材用装置の導入を考慮した場合、この欠点を改善する方法を見出す必要があった。そこで、CHPD装置を改良するために時間を掛けて国内の成形機メーカーと試行錯誤し、現在、装置の製作可能な段階まで到達した。したがって、当初の計画よりやや遅れている。 MgB2線材作製を含めたその他の研究は、概ね順調である。特に、CHPD装置の導入の遅れによる試料作製への支障は、我々が作製した線材を研究協力者にCHPDの加圧を実施してもらうことで対応した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、次世代の超伝導応用に向けて、高密度な二硼化マグネシウム(MgB2)材料を作製し、その臨界電流特性を改善することが主な目的である。そのために、まず、早急に改良したCold High Pressure Densification(CHPD)装置を導入する。このCHPD装置は線材に対して、約3.9 GPaまでの加圧が適用できるように設計しており、さらに高密度なMgB2線材の作製が可能となる。このCHPD装置の組み立て及び正常動作の確認後、加圧の大きさを3.9 GPaまで増大させてMgB2線材を作製し、加圧の増大に伴う試料の組成・構造及び超伝導特性の変化を評価する。具体的には、走査型電子顕微鏡等を用いて、線材試料の巨視的・微視的観察を行い、従来のMgB2線材に比べ、空孔がどのように減少・排除されたのか評価する。その他に、粉末X線回折測定や輸送臨界電流測定及び磁化測定を行い、構成相及び結晶構造と臨界電流密度を含めた超伝導特性を評価する。さらに、現在、ワールドレコードの臨界電流特性を示すHyper Tech Research Inc.製のMgB2超伝導線に、CHPD装置を使用して、同様の工程を行い、我々の作製した線材試料との比較・評価を行い、低コストで最も有効な臨機電流密度の増大方法を明らかにする。 また、磁場下における臨界電流特性を改善する方法として、炭素添加によるMgB2格子への欠陥導入も非常に有効であることが知られているが、その格子欠陥の形成機構は明らかになっていない。そこで炭素添加したMgB2線材を原子レベルでの構造観察と評価を行い、MgB2格子に欠陥が導入する機構の解明と臨界電流特性の改善に最も有効であると考えられる均一に格子欠陥を引き起こす方法の確立を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の設備備品として、高密度なMgB2線材を作製するために必要なCold High Pressure Densification(CHPD)装置[特注品 (CHPDセル1つ、プレス機1つ)]を早期に設ける。このCHPD装置の導入にあたり、従来の装置を調査した結果、CHPDセル及びプレス機を改良する必要性が生じた。したがって、CHPD装置の性能を向上させるために購入費用が当初見込んでいた金額よりも大きくなってしまったが、本研究を推進するためにも改良したCHPD装置の導入に研究費を使用する。また、その他の設備備品として、ナノボルトメーターの購入に研究費を使用する予定である。この備品は、MgB2材料の超伝導特性を評価するために重要な電気抵抗及び臨界電流測定に必要である。 次年度の消耗品として、試薬(硼素粉末、マグネシウム粉末、炭素化合物粉末等)と金属管(ニオブ管、モネル管、鉄管等)等の購入に研究費を使用する。試薬と金属管は、MgB2線材の作製に必要な原材料である。また、線材試料の構造及び超伝導特性の測定に必要な消耗品として、研摩材、研摩用パフ、ガスボンベ(ヘリウムガスボンベ、アルゴンガスボンベ等)、水フィルター、液体ヘリウム、Cernox温度計等の購入に研究費を使用する。研摩材と研摩用パフは、電子顕微鏡による試料観察を行う前準備で線材試料を研磨するために必要である。ヘリウムガスボンベ、水フィルター、液体ヘリウム、Cernox温度計は、線材試料の超伝導特性を評価する装置である、臨界電流測定装置と磁気特性測定装置(MPMS)の運用に必要である。 以上の設備備品と消耗品に次年度の研究費を使用し、本研究を円滑に進めていく。
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