2012 Fiscal Year Research-status Report
超低消費電力の自己保持機能を有する導波路型磁気光学スイッチの開拓
Project/Area Number |
24760270
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
庄司 雄哉 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (00447541)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 光スイッチ / 磁気光学効果 |
Research Abstract |
本研究の目的は、光クロスコネクト技術(OXC: Optical Cross Connect)に有用な、中速で超低消費電力の導波路型光スイッチとして、自己保持機能を有する磁気光学スイッチの開拓研究を行うことである。OXCでは、電気的再生中継を介さずに光信号を伝送する形態が用いられ、光の経路を切り替える光スイッチがキーデバイスとなる。OXCで用いられる光スイッチは経路選択が主用途であるため、比較的低速で安定かつ低消費電力であることが重要視される。 本研究で提案する光スイッチは、磁気光学薄膜上に形成されたMZI型の磁気光学スイッチにおいて、導波路上部の磁気記録材料の磁化を書き換えることで印加磁界を反転し光スイッチ動作させる。磁気記録材料の不揮発性により自己保持機能が実現される。単パルス的な制御信号の印加によりそれ以降は無電力でスイッチ状態を維持するため、従来の光スイッチに比べ3~5桁の消費電力低減が見込まれる。 当初の研究計画におけるステップとして、1、磁気光学ガーネット上の光導波路と、マッハツェンダー干渉計光回路の製作。2、磁気記録材料なしでの導波路型磁気光学スイッチの動作検証と応答速度評価。3、磁気記録材料の集積と自己保持機能の動作実証。を掲げている。今年度は2の磁気記録材料のなしでの導波路型磁気光学スイッチの動作検証に成功した。磁気光学導波路上に形成した回路に電流を印加し、その向きにより光スイッチとしての経路が切り替わり、消光比10dB程度が実現された。導波路型磁気光学スイッチは世界的にも未開拓な領域であり、その動作実証に成功したことは大きな成果である。また、これらの研究と並行して、シリコンを導波層とする光アイソレータについて特性向上に成功している。これは、集積に適した構造検討における先行研究に該当し、本研究の光スイッチへの応用が期待される成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究実施計画では、1、磁気光学ガーネット上の光導波路と、マッハツェンダー干渉計光回路の作製。2、磁気記録材料なしの導波路型磁気光学スイッチの動作検証と応答速度評価。を掲げており、これらは概ね達成された。以下に詳細を記す。 1では、(CeY)3Fe5O12(Ce:YIG)を用いた磁気光学ガーネット導波路の損失評価を行った。2×2方向性結合器の作製を行い、等分岐回路(3dBカップラ)の最適化を行った。MZIの作製と消光比の評価を行った。 2では、磁気記録材料なしの光スイッチの試作を行った。電流により反平行な外部磁界を印加する制御回路を作製し、異なる向きの電流による光スイッチ動作を確認した。電流の向きに依存する違いであるため、熱光学効果ではなく磁気光学効果によるものであると断定できる。クロスポートにおいて10dB程度の消光比が実現された。 次に、Ce:YIGの磁化応答速度評価を行った。磁気記録材料なしの光スイッチに対し、電流による外部磁界の変調を行い、Ce:YIGの磁化応答速度を計測した。変調された光信号の計測に成功したが、光出力が弱く高感度の光検出器を用いねばならなかったため、光検出器の応答限界である数十マイクロ秒までの計測となった。磁気光学効果自体はこれ以上の速度で応答できると考えられ、デバイスの低損失化が必要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、前年度の未達成項目である磁気光学材料(Ce:YIG)自体の磁化反転の応答速度の評価を行う。これには、デバイスの低損失化とともに、光増幅器の使用により行う。 次のステップは、磁気記録材料の集積と自己保持動作の実証を目指す。 まず、磁気記録材料の選定を行う。要求特性は大きな残留磁化と比較的小さな保磁力を持つことである。当初はSmCoを考えていたがこれまでの調査によりFeCoを有力視している。これらの材料を実際に磁気光学回路上に成膜し外部磁界による磁化反転を評価する。磁気記録材料は、光導波路内の光信号に損失を与えない程度(~1マイクロメートル)に離して形成する必要があり、その距離でCe:YIGの磁化を十分に飽和させる残留磁化が必要条件となる。保磁力は小さい方が反転に必要な電流が小さくて済むと考えられる。 次に、光スイッチとしての自己保持動作実証を行う。まず永久磁石などによる外部磁界の反転により磁化反転を行い、光スイッチ動作と自己保持機能を確かめる。その後、電流回路を集積した光スイッチを作製する。電流印加による磁化反転を行い、書き換え時間の評価とともに消費電力を見積もる。これにより、当初の計画で予測している数マイクロワット程度の超低消費電力の光スイッチ動作を実証する。 これらの検討と同時に、実用上の観点から集積化に適したデバイス構造を検討する。具体的には、磁気光学材料をクラッド層として、導波層に半導体材料を用いて同様のデバイス作製を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の未使用額は42,720円と少額であり、これは研究経費を効率的に使用したためである。 次年度の研究の遂行に当たってはデバイス作製がメインとなる。光導波路、磁気、電気回路パターンの形成には柔軟な回路設計が可能な電子ビーム描画装置を用いる。従来の光露光装置を用いた場合、回路パターンのマスク形成ごとに時間と費用を要するのに対し、電子ビーム描画では毎回任意のパターンを設計・形成できることがメリットである。その他の実験装置、光学測定機器については、昨年度までの研究費でおおよそ準備が完了している。また、恒常的に実験で用いる高純度の試薬や、光学測定で用いる光ファイバなどの消耗品の購入も引き続き必要となる。よって、下記のように未使用額を含めた研究経費の計上を予定する。 設備備品等:導波路や磁気、電気回路作製のために用いる電子ビーム描画装置の使用料として1000千円(50千円×20回程度)を計上する。 消耗品等:高純度試薬等の消耗品の購入に100千円程度を計上する。 旅費等:成果発表のための旅費、学会参加費として、国内(5千円×2件程度)および海外(300千円×2件程度)を計上する。
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Research Products
(3 results)