2012 Fiscal Year Research-status Report
低磁場環境で動作する走査SQUID‐NMR顕微鏡の開発
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24760316
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮戸 祐治 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (80512780)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 原子間力顕微鏡 / 超伝導量子干渉素子 / 核磁気共鳴 |
Research Abstract |
本研究は、走査プローブ顕微鏡の機能により表面形状を取得するとともに、高透磁率のプローブによって、試料の局所的な NMR信号をSQUIDまで伝達・検出する、走査SQUID-NMR顕微鏡の開発を行っている。対象試料の多くが絶縁体であることから、プローブ・試料間距離制御には、音叉型水晶振動子を利用したAFMを適用し、本年度は、計画段階において行っていた振幅変調制御方式から、周波数変調制御方式に変更することで、SQUIDを動作させながら、高感度に表面形状を取得することに成功した。一方、大きなNMR信号を得るためには、静磁場の均質性が重要であるが、本研究計画では高透磁率のプローブを試料極近傍に配置するため、印加した静磁場の均質性が乱される可能性がある。そこで、走査SQUID-NMR顕微鏡のシステムの構築を進めるとともに、電磁界シミュレーションにより、プローブ直下の磁場均質性を評価した。その結果、均質性の点では計画段階の予想よりも高透磁率のプローブが存在することの影響が大きく、共鳴条件が満たされる領域がかなり限られることが示唆された。NMR信号を検出するには、現状の走査SQUID顕微鏡の磁場検出感度を向上させることが必要不可欠と分かったので、現状の構築系に対し、改善点を検討した。試料から発生した磁場がプローブを通り、rf-SQUIDに至るまでの磁気伝達効率をシミュレーションした結果、SQUID側のプローブ末端部での減衰が特に大きいことが明らかとなった。そこで、プローブとの磁気的結合を向上させるため、現在用いているrf-SQUIDを構造から見直すことにした。今回、レゾネータとSQUIDとを一枚の基板に集積したレゾネータ一体型rf-SQUIDの適用を検討し、一体型SQUIDの構造最適化を行った。現在、設計した一体型SQUIDを実際に作製し、評価を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
顕微鏡本体側において、高透磁率のプローブを音叉型水晶振動子に取り付けることにより、基本的な装置構成を構築して、原子間力顕微鏡の機能を実現し、真空下ではあるが、周波数検出方式によりプローブ・試料間距離制御を行えるようにした。一方、本研究の特色にもなっているが、高透磁率のプローブを用いたことによる印加静磁場の均質性への影響のため、プローブを介してNMR信号を検出するという点においては未だ成功していない。そこで、基本に立ち戻って、電磁界シミュレーションなどにより解決策を模索をしてきた。これまでに、走査SQUID顕微鏡の磁場検出感度を向上させる方針で、現在用いているrf-SQUIDを見直すことにした。今までは、rf-SQUIDを動作させるために、SQUIDとは別基板の誘電体基板レゾネータをフリップチップ配置して使用していたが、そのレゾネータ分の基板厚みによって、プローブ末端からの伝達磁場が減衰することが分かったため、計画段階になかったことではあるが、レゾネータ一体型rf-SQUIDへの変更を検討した。この際、プローブと一体型SQUIDとの静磁場の結合、およびリードアウトコイルとの一体型SQUIDとの高周波磁場の結合とが両方満たされる形状を電磁界シミュレーションから検討し、一体型SQUIDの構造最適化を行った。検討の結果、第一案として十分な共振感度を有すると考えられるレイアウトでフォトマスクを作製した。現在、これを用いて、一体型SQUIDを実際に作製し、評価を進めているところである。計画通りに進捗しているところもあるが、SQUIDによるNMR信号検出ということにおいては、やや遅れ気味という自己評価をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度に得られた結果を基に、開発した基本的な装置構成を改良する。計画通り、高透磁率のプローブを介して、NMR磁場信号をSQUIDによって検出する装置に発展させる予定であるが、磁性体であるプローブを用いると、試料直下の磁場の均質性が失われるために信号が弱まり、信号検出が大変難しくなることが示唆されている。そのため、SQUIDの感度を向上させることが重要で、プローブとSQUIDの結合を向上させることを目的としてレゾネータ一体型rf-SQUID の適用など、SQUIDの磁場検出感度を向上させる研究を進めていく。また、装置構成に対しても、別方式で目標を達成することも視野にいれて、基礎的な検討を引き続き行っていく。一方、走査SQUID顕微鏡において、試料に対する制限の少ないAFMの適用により、真空中で測定できるような機構を開発してきたが、真空中での測定には装置上の取り扱いが難しくなるという欠点があり、大気中で測定を実現することも重要になっている。そこで、SQUIDを真空中、試料を大気中にセットできるような機構を新たに開発する。こうしてプローブ顕微鏡としての動作とNMR信号検出とを両立させるためのシステム構成、およびAFM・NMR両方の動作シーケンスが行えるソフトウェアの開発も行っていく。実際の画像化に関しては、現実的な時間での測定は難しい可能性が高く、まずは1点の信号の検出を実現したい。また、磁場の不均一性によって実効的な横緩和時間が短くなっているため、分極磁場の印加に加え、スピンエコーなどの手法もパルスシーケンスに取り入れる予定であり、磁場の不均一性の問題を克服するために、基本に立ち戻って、研究を進める予定である。また、実施体制としては、研究代表者の他に、これまで他テーマとの兼任の学生がいたが、専任的に実験してもらう学生にも加わってもらう予定にしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず申請段階では、これまで所有していなかった電磁石の購入を計画していたが、研究代表者が所属する研究室において、別のプロジェクトの遂行上、電磁石が別予算から急遽、購入されることとなった。電磁石は予備実験的に使用することが目的であったこともあり、当初見積もっていた電磁石よりもポールピース間隔が短くなったものの、別プロジェクトの実験後、その電磁石によりSQUIDでの核磁気共鳴の信号取得を進めている。一方、本年度に開発を進めた結果、走査SQUID顕微鏡によりNMR信号を取得するには、現状の性能では十分でないということが明らかとなった。特にシミュレーションにより、プローブとSQUIDの間の磁気結合が大きく減衰していることが明らかとなったため、これまでに使用していたSQUIDを改良することが最優先課題となった。そのため、電磁石を購入しなかった分の予算により、計画段階になかったrf-SQUIDの改良を本年度より始めた。性能向上には新規の設計で多くの試作が必要となるため、電磁石分の繰り越した予算と合わせて次年度は研究を遂行していく。また、所有していたPXIシステムの性能アップデートのため、本年度に新たにPXI計測器プラットフォームを計上していたが、アップデート前に予備的にプログラム開発を行おうとしていたところ、当初動いていた従来システムがPCより突然、認識されなくなるトラブルがあった。原因不明のままではアップデートできないため、原因究明することにしたが、大変時間を要した。2度にわたり業者に原因調査・修理依頼した結果、制御ソフトウェアであるLabVIEWアップデートに伴い、ライブラリーがうまく動作しなくなったことが原因と判明した。相性の問題がわかったので、適切な機種を選定し直し、遅れたプログラム開発を取り戻せるよう、今年度行う予定の研究計画と合わせて実施する予定である。
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