2012 Fiscal Year Research-status Report
ロボットによる人間の技術の抽出とその転写と教示アルゴリズムの開発
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24760331
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
境野 翔 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (70610898)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 技術の抽出 / 動的接触制御 / 衝突制御 / ロボットタスクの抽象化 / 力制御 / 人間の同定 / 動特性同定 |
Research Abstract |
本研究ではまず、位置・力センシング可能な外骨格型ロボットアームを製作した。本ロボットは平面三自由度を有し、冗長性を含めた人間の腕の平面運動の抽出が可能である。本研究の成果は大別して二つあげられる。 第一に、外骨格ロボットを用いた人間の動特性の同定である。ロボットアーム単体での同定試験後に、人間にロボットアームを装着させて同定し、その差分より人間の動特性を同定する。本研究では、人間の腕の慣性行列、重力ベクトル、粘性摩擦、クーロン摩擦を同定した。これまでにも、解剖やX線照射などの大掛かりで被験者への負担が大きい医学的な手段や、画像情報を用いて推定する精度の低い手法、センサを人に操作させて同定するため十分な同定信号を与えられず複雑なモデルにできない手法、がほとんどであった。一方、外骨格ロボットを用いればアクチュエータが制御するため入力のPE性が保証され、複雑なモデルで人間を数式化しても高い精度で同定することが可能になる。人間の身体モデルの同定は、肥満や四肢の硬化の測定、臓器の診断、運動能力の定量的評価など、医療や介護、スポーツの分野に幅広い応用が可能である極めて重要な技術である。 第二は、人間の釘打ち動作の解析であり、肩から肘、手首への、エネルギーのスムースな伝達を確認した。特に、打撃直前に肩にブレーキ力をかけて逆に肘を加速させる重要な動作を確認した。これは人間が慣性行列の非対角項を陽に用いていることの証左であり、各軸を非干渉化する多くのロボット制御系とあきらかに異なった。この動きは、人間の手首の動作を拘束し二自由度の非冗長系とした打撃動作では確認されず、人間の冗長機構を用いたエネルギー効率の向上を、力情報を用いた事により初めて示すことができた。これにより、冗長性や慣性の干渉を陽に用いた新しいロボット制御系設計の指針を与え、衝突に代表される動的接触動作の制御への道を開いた
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究は、大別して二つに分けることができる。第一に、外骨格型ロボットを製作し、人間の環境との接触動作時の位置情報と力情報を同時に取得可能なシステムを構築すること。第二に、外骨格型ロボットを用いて、人間が環境を操作するときの技術を位置情報と力情報両方を用いた上であきらかにすること、である。 第一の目標の外骨格型ロボットの製作については、平面三自由度を有し、人間の腕の平面運動を抽出可能な機構を完成させた。具体的には、肩・肘・手首関節に電気アクチュエータを有するシリアルリンクロボットとし、各リンク長を人間の体格に合わせて調整可能な機構とした。特に、ハンマを用いた環境との衝突動作の解析を目指し、手先リンクにハンマを固定できる機構とした。よって、第一の目標については完全に達成された。 第二の目標である人間の技術の抽出を目指し、その前段階として人間の動特性を同定する技術をまず確立した。位置情報と力情報を両方取得できる外骨格ロボットを用いたため、非常に容易に高精度な同定が可能になった。特に慣性行列を同定できたことは人間の技術の抽出において重要なことであり、ハンマを用いた釘打ち動作中に、人間が慣性行列の非対角項を陽に用いて、肩から肘、手首へとエネルギーを伝達していることをあきらかにした。人間の動特性の同定が可能であることは当初に想定していた以上の結果であり、人間の技術を抽象化させるための一つの重要なパラメータが慣性行列という知見を得た。一方、技術を座標変換として抽象化するアルゴリズムを開発した上で、非ホロノミックな動作の抽出をも可能にする拘束を見出すことが可能ではないかと当初予測していたが、本年度は新たに有用性を見出した動特性同定の研究に重点を置いたため、人間の技術の座標変換や拘束としての抽象化は慣性行列が鍵で有るとの知見を得たにとどまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究は、平成24年度に製作したロボットや同定結果を基に、技術を座標変換として抽象化することより開始する。本ロボットは平面三自由度ロボットであるため冗長系であり、タスクの空間と関節空間が一対一に対応しない。よって、その冗長性に対応する部分空間こそが人間の技術であるとし、抽象化することを目指す。これまでの研究において、慣性行列が人間の技術の鍵となることがあきらかになっているので、慣性行列までも考慮に入れた座標変換、すなわちただの幾何学変換ではなく動力学の変換までも含めた座標変換技術を開発する。また、非ホロノミックな動作の抽出が必要であるかも含めて検討し、座標変換をホロノミックな拘束として内包したより一般的な概念である拘束を導入する必要があるか再度吟味する。 人間の技術が抽出された後に、その技術をロボットへと転写することを目指す。ロボットは衝突を含むような動的な接触制御を苦手としているため、本研究課題の手法により人間の技術を応用することで動的接触制御が可能になることを実証する。しかし、これまでの研究成果において、タスクを座標変換として抽出してしまえば、それを容易に転写可能であることは実証されているため、比較的容易に実現されると予想される。 最終的に、熟練技術者の技術を初学者へ教示することを目指す。熟練技術者から抽出した座標や拘束に対して倣うように、適切なインピーダンス制御を設定すれば実現できると考えられる。これまでにも、実空間における熟練技術者の作業軌道に対してインピーダンス制御をかける手法などは存在しているが、位置情報のみに着目していた。一方、タスクを座標変換や拘束として抽出すれば、人間の力制御情報までも抽出できるため、より高度な教示が実現できると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(7 results)