2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24760407
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
及川 康 東洋大学, 理工学部, 准教授 (70334696)
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Keywords | 避難行動 / 国際比較 / 洪水 / タイ |
Research Abstract |
本研究では,洪水発生時における人的被害の軽減を目的とした住民の緊急避難の促進方策について,先進諸国と開発途上国との国際比較研究(日本とタイ)を行った.その結果,主として以下のような検証仮説について,日本およびタイ・バンコクにおいて最終年度に実施した調査により確証を得るに至った. まず,開発途上国における住民避難の促進要因および阻害要因については,先進諸国におけるものとは様相を異にする側面が存在する様が確認された.すなわち,開発途上国においては,自宅を離れて避難を行うことは半ば「家屋・家財などの私財を盗難のリスクに曝すこと」に等しいという側面があり,このような盗難リスクへの社会不安の払拭が図られない限りは,より迅速な避難行動は望むべくないという傾向が示唆された.さらには,災害の発生により私財を失うということは,その後の生計の不安につながることは先進諸国と同様ではあるものの,生計再建の支援・保証に関する社会システムへの信頼度という観点では先進諸国と開発途上国とでは大きく異なり,開発途上国におけるそれは半ば“死”を意味すると言っても過言ではないという側面が示唆された. このような知見を踏まえるならば,先進諸国のみを対象とした従来研究における示唆は,言わば「盗難リスクへの社会不安」や「災害後における生計再建の支援保証に関する社会システムへの信頼」といった要因は既にある程度まで改善された状況下でのものであるとも捉え直すことが出来よう.とりわけこのような物的被害に関する心的ダメージが人的被害(自らの命を失うこと)と等価ないしはそれよりも卓越するような状況が開発途上国を中心として広く存在するとするならば,もはや「避難しない」という行動形態の原因を単に「危機意識の低さ」に求めるような従来研究の主流的考え方は短絡的であると言わざるを得ず,再検討を迫られることとなろう.
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