2013 Fiscal Year Research-status Report
黒海周辺地域における中世組積造建築遺産の系譜と保存継承に関する研究
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24760528
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
Principal Investigator |
鈴木 環 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 「文化遺産国際協力センター, 客員研究員 (20523757)
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Keywords | 黒海 / 中世組積造建築 / 教会 / 修道院 / ドキュメンテーション / 保存継承 / 文化遺産 |
Research Abstract |
バルカン半島からトルコ、コーカサスにいたる黒海南岸諸国には、東方キリスト教の教会・修道院建築遺産が数多く分布している。我が国では研究の蓄積が希薄である黒海周辺地域の中世建築を対象に、建築技術の視点で広域的なフィールド調査を行い、その系譜と今日までの継承過程を宗教・民族・イデオロギーに偏らない視点で再構築することを目的とし、またその成果を文化遺産の保存と活用へ還元することを目指す。 1.Balkan Heritage Field School (BHFS)が実施する、中世の教会・修道院建築と壁画のドキュメンテーション活動「Fresco Hunting Photo Research Expedition to Medieval Balkan Churches」と連携し、ソフィア~ドラゴマン地域一帯に分布する組積造教会建築と壁画の調査、および保存修復にむけた基礎資料の整備を目指した調査を実施した。2013年5月の調査では、①カロティナ教会(1331-34)、②バルシャ教会、③マロマロヴォ教会をおもな対象とした。現地・海外のボランティアと連携し、建築の実測調査(簡易測量、写真測量)と壁画の写真撮影を実施し、劣化の分類および保存状態を詳細に記録した現況図面を作成した。 2.組積造教会・修道院建築の調査(セルビア、モンテネグロ、ルーマニア)を実施した。12世紀~15世紀頃の教会建築を中心にフィールド調査(写真撮影、簡易実測)を行い、また各国の研究機関・アーカイブにおいて、図面史料、古写真、絵図等の収集を行った。 3. 中世の岩窟教会堂の保存に関する調査(トルコ・カッパドキア遺跡)を実施した。カッパドキアの岩窟教会堂の建築学的調査を実施した。また、ウズムル教会(レッドバレー)の保存修復にむけた予備調査、資料収集を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下研究計画の項目に沿って、現在までの達成度を示す。 ①「ビザンチンから継承した建築様式と、西欧のロマネスク・ゴシック様式との折衷過程の検証」/③「イスラームの台頭にともなう、キリスト教建築とイスラーム建築の相互影響」については、平成25年、26年にアドリア海~セルビア・ブルガリア西部およびルーマニア東部の教会・修道院建築の調査を実施したことにより、主要な建築遺産の特徴を把握することができ、建設過程における折衷のプロセスの全体像を把握した。②「バルカン半島とコーカサス地方の建築技術、とりわけドーム・ヴォールト架構に見られる技術の共通性に関する解釈と、伝播の過程の検証」については、平成25年の調査により、アルメニアのドーム・ヴォールトとの比較を行った。グルジアにおいても、調査を実施することを検討している。④「山間部に多く見られる木造建築と、組積造建築の構法の技術的な融合」については、平成26年度に実施予定である。⑤「未踏査地域(とくに国境付近)の建築に関する調査と新たな情報の構築」/⑥「歴史的史料を用いた、内戦時に失われた(あるいは調査資料が消失した)文化遺産の情報の復元」については、Balkan Field Heritage Schoolが主催する中世教会建築のドキュメンテーション事業と連携し実施している。現地の学生等ボランティアを指導しつつ保存状態調査とドキュメンテーションを行うことにより、当該地域の建築の建設プロセスの解明につながる貴重な情報が得られたほか、今後の保存修復にむけて密に連携してゆく基盤が整えられた。 以上の通り、広範囲にわたるフィールド調査により、黒海地域における中世建築の再構築にむけたデータ、資史料が得られており、また現場の調査から最新の知見が得られていることから、本研究の目的の達成にむけておおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は研究計画の最終年度にあたることから、これまでの調査における新発見をさらに発展させ、一方で不十分であった点についてフォローを行う。 1)西欧からルーマニア・モルドヴァ地方へのゴシック様式の伝播過程を検証する。トランシルヴァニア地方の都市における石工の成立に関して文献資料から解析し、ゴシック様式の装飾、窓枠、ヴォールト等を有する教会建築を調査し、その技術の変遷を追う。2)マラムレシュ地方の木造建築に導入された上記のゴシック建築技術の造形方法を調査する。3)平成24年度に実施する予定であった、アナトリア地域の後期ビザンチン建築(11世紀~14世紀)については、関連するプロジェクトの進行状況の関係から計画が延期となっていたが、平成25年度に事前調査を行い、今年度カッパドキア遺跡を中心とした調査を行う予定である。4)Balkan Field Heritage School(ブルガリア)との連携における調査では、これまでのドキュメンテーションの結果をまとめ、建築構法と保存状態を示すデータベースを構築し、将来的な保存修復における活用をめざし、その方法を提示する。 以上、平成24年度から26年度の調査を集約し、黒海周辺地域の中世建築において、ビザンチンの形式を土台としとロマネスク・ゴシック・イスラーム・コーカサスの多様な外来様式が折衷してゆく技術交流のダイナミズムを解明する。またその系譜を再整理し、当該地域の文化遺産の保存と継承に貢献することを目指す。
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Research Products
(4 results)