2015 Fiscal Year Research-status Report
横須賀製鉄所のフランス語資料分析による建築技術史的研究
Project/Area Number |
24760530
|
Research Institution | The Yokosuka City Museum |
Principal Investigator |
菊地 勝広 横須賀市自然・人文博物館, その他部局等, その他 (80321892)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 横須賀製鉄所 / 横須賀造船所 / 耐震 / 破壊強度試験 / ヴェルニー / フロラン / フランス / 建築技術史 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、横須賀製鉄所における耐震への意識とその検討の元となる建築や材料の強度の把握方法を中心に研究を進めた。その結果、横須賀製鉄所における耐震の課題は、首長ヴェルニーと幕府の担当役人がフランス出張中の1865年10月には既に日仏双方で認識され、対策が実施されていたのに加えて、建築課長フロランは、材料の強さと耐震への意識を有しており、横須賀製鉄所での土木・建築物の設計では、建設開始の草創期から耐震が意識されていた事が確認された。耐震の検討の前提となる材料の強度の把握については、少なくとも木材では、破壊検査の結果を含む本格的かつ、当時の日本では先進的な取り組みが行われていた事が確認できた。しかしながら、首長ヴェルニーは明治9年の帰国時、船台とドックは「好結果を呈し」と評しつつも、木骨煉瓦造の課題を指摘するなど、建築構造技術への課題認識はその後も持たれ続けた課題であった。 また、当年度は、横須賀製鉄所起工の150年目にあたり、当該研究事業の成果を交えた特別展示を筆者所属の博物館で実施し、展示解説書(『横須賀製鉄所(造船所)創設150周年記念展「すべては製鉄所から始まった-Made in Japanの原点」』,171ページ)を刊行した。同書では、当該研究課題の申請書でも記したように、今後の研究進展に資するために、フランス語の原文と訳文の対訳を多く載せる事も一部実践した。一般向けの刊行物であるので、その試みは、写真の題目を中心に行い、特に、首長ヴェルニー家に伝来の横須賀製鉄所記念アルバムでは、その全写真について、注記を含む一切のフランス語表記の原文と直訳を採録した。写真題目には、史実と異なるものを訂正したものも含まれており、建築年代判定に資する情報なども新たに得る事が出来た。 その他、現時点でも建築技術史上で研究を進めるべき資料の出現が続いており引き続き分析を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画に対しては、成果の活字発表も重ねて実施しているなど、概ね順調に推移しているが、フランス語資料の追加の収集作業や補足調査が諸般の事情により実施し得ていないために、やや遅れている側面もある。加えて、収集済みの資料が膨大な量に登るため、研究当初から横須賀製鉄所の建築技術史に関連する資料を中心に研究を進めてきたが、これらの資料の中には、同じくフランス系の技術を導入した施設の建築技術史的資料が含まれるなど、資料分析の進捗に伴い、建築技術史的に研究して成果を位置付けるべき課題が次々と顕わになった。収集と分析を重ねてきた横須賀製鉄所のフランス語資料については、研究の推進が求められる内容全体に対して本事業ではその成果化が一部に留まっている状況にあり、この点においても、やや遅れている側面もある。平成28年度も研究の進展と成果発表を続けて、善処の予定であるが、その後の成果発表にもつながるような重要資料の出現があり、今後の更なる発展と展開につながるような新たに生まれ続けるという研究状況が続いている。この点では、当初計画以上の成果も内包している状況とも捉えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
フランス語資料の追加収集や補足調査以上に、収集済みのフランス語資料の解読に重点を置いて、研究成果をまとめる予定である。更に、横須賀製鉄所の建築技術史的特色をより明らかにするべく、対比的研究にも力を入れて、資料解析上の着眼点を広げると共に、より深く掘り下げて各資料の考察を進めて、成果を増やす考えである。
|
Causes of Carryover |
フランス語資料の追加収集と補足調査業務を現地情勢の変化等の理由にて延期したのが大きな要因で、その旅費や資料整理費用の支出計画に大幅な変更が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
収集済みの資料分析の進展に伴い、分析すべき対象となる資料が増加しており、フランス語資料の追加収集と補足調査事業以上に収集済みの資料の整理・分析の推進と比較調査の実施に力点を置き、支出計画を見直して研究作業を遂行する予定である。
|
Remarks |
(1)の横須賀市自然・人文博物館HPにて、研究成果をまとめた『横須賀市博物館研究報告』の目次と頒布案内を掲載。
|
Research Products
(2 results)