2012 Fiscal Year Research-status Report
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24760533
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤平 哲也 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00463878)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 透過型電子顕微鏡 / 複合酸化物 / 強誘電体 / ドメイン構造 / 第一原理計算 / DyInO3 / YMnO3 |
Research Abstract |
本研究では,新しいタイプの強誘電特性の発現が期待される非ペロブスカイト型六方晶LuMnO3構造を呈する希土類複合酸化物RMO3化合物(R:希土類, M:Ga,In,Mn)の系について,セラミックス試料の合成および強誘電的分域構造を中心とする微構造の電子顕微鏡観察・分析を系統的に行うことを目的としている.本年度は,同構造を有する一連のRMO3化合物のなかでは最も大きな構造歪みが予測されているDyInO3化合物を主な対象とし,固相反応法によるセラミックス試料の合成および透過型電子顕微鏡(TEM)法による微構造観察を行った.DyInO3焼結体試料のTEM観察結果より,焼結体は粒径数百nmの結晶粒からなり,粒界にアモルファス相などの第二相は観察されなかった.また,本焼結体において結晶粒の形状などの組織に顕著な方向性は認められなかった.TEM暗視野像において,強誘電性六方晶YMnO3化合物において観察されているのと同様の特徴的なクローバーリーフ・ドメイン模様が観察され,従来の典型的強誘電体とは異なった起源の強誘電性分極および分域構造が本系においても実現している可能性が示唆された.さらに,球面収差補正走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた結晶構造および分域壁近傍の局所構造の高分解能観察を試み,分極反転領域の原子分解能像を本系ではじめて得ることに成功した.原子構造の理論解析に関して,DyInO3化合物の結晶構造および分域構造モデルを検討し,構造最適化計算および直接法によるフォノン状態計算を行い,いくつかの基本的構造モデルについての結果を得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,まず本課題での中心的な研究対象となるDyInO3化合物について試料合成および透過型電子顕微鏡観察を確実に行うための基礎的実験方法および条件の確立を目指した.本研究で用いた固相反応法の条件で,目的化合物単相の粒径数百nmの緻密焼結体が得られることが確認された.TEM試料作製に関しては,機械研磨と低加速アルゴンイオンミリングを併用する方法と,精密機械研磨機によるくさび形機械研磨法を試み,いずれの方法においても広い範囲にわたって厚みが薄くダメージが少ない良好なTEM試料を得られることがわかった.これにより,本研究で目的とするドメイン構造のTEM暗視野像観察(比較的低倍率で広い範囲の観察が必要)と,結晶構造および分域構造の高分解能(S)TEM観察(非常に薄く低ダメージの薄片化領域が必要)のいずれもが可能なTEM試料調製法を確立できた.これまでに報告例の無いDyInO3化合物のドメイン構造および分域壁近傍の原子構造について,TEM観察にはじめて成功した.これらの試料合成方法およびTEM試料調製法は,今後の周辺化合物の系統的観察・分析においても適用可能であると考えられる.理論解析においては,第一原理計算による構造最適化計算およびフォノン状態計算を,DyInO3化合物の基本的構造モデルに対して行い,STEM像シミュレーション用の安定原子構造およびデバイ・ワラー因子の算出を行った.これらの実験および理論解析の進展により,本年度の研究計画はおおむね達成されたと考える.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に確立したセラミックス試料合成およびTEM試料調製,観察・分析の方法にもとづき,目的化合物について引き続きより詳細な電子顕微鏡観察および解析を行っていく.対象の化合物として,DyInO3に加え,YMnO3化合物も主要な対象とし,試料合成および電子顕微鏡観察を行っていく.YMnO3は同型(LuMnO3構造)の化合物として最も精力的に研究されている系であり,一部ドメイン構造の電子顕微鏡観察も報告されているが,本系における最も顕著な特徴となっているクローバーリーフ・ドメインの中心近傍における原子構造やメカニズムはいまだ明らかとなっていない.ドメイン壁を含めた原子構造モデルに関していくつかの提案がなされているYMnO3と,同様の構造が期待されるがより大きな構造歪み,原子変位が予想されるDyInO3を主な二つの観察対象とし,より精密な微構造,原子構造観察および理論計算を併用した解析を進めていく.また,結晶方位の制御された試料を用いることで観察の効率を大きく向上させることができるため,単結晶試料合成の試みも並行して進めていく.いくつかのドメイン壁構造の原子モデリングは,非対称粒界構造のモデリングと同様,スーパーセル内に非等価な二つの界面が含まれるモデルとなり,周期境界条件下での計算の際に通常とは異なった取り扱いが必要となる.ドメイン壁原子構造について最適なモデリング方法を検討し,ドメイン壁を含めた原子構造モデルについて,安定原子構造およびフォノン状態計算の計算を行う.これにより求められた構造および原子振動パラメータを用いた定量STEM像シミュレーションと実験STEM像を合わせて解析を行い,未解明のドメイン壁構造を含む詳細原子構造の解明を目指す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題で対象とする六方晶希土類複合酸化物RMO3のうち,本年度は同型の化合物の中で最も大きな構造歪み(原子変位)および強誘電性分極が期待されるDyInO3に的を絞り,セラミックス試料合成および電子顕微鏡観察を行った.そのため,いくつかのRMO3化合物のセラミックス試料合成のための原料試薬および坩堝に計上していた初年度の研究費の一部を次年度に使用することとした.次年度においては,DyInO3以外の組成を有するRMO3化合物のセラミックス試料の合成を進めていく.さらに,本研究の主要な目的であるドメイン構造の電子顕微鏡観察をより効率的に行うために,当該化合物の単結晶試料の合成も試みる.観察対象のドメイン構造が数百nmからμmオーダーのサイズを有する一方で,本研究でこれまでに得られている多結晶試料の平均粒径は数百nm程度となっており,TEM試料内で電子顕微鏡観察に適したドメイン領域を探すのに時間がかかり,観察・分析を進める上でのボトルネックとなっている.方位が特定され,たくさんのドメイン壁領域を含む単結晶試料を得ることができれば,電子顕微鏡による本系のドメイン観察の効率は飛躍的に向上すると期待される.過去に単結晶作製の報告があるYMnO3をまず主な対象として,単結晶合成を試みる.上記の状況を踏まえ,本年度の研究費の一部を,目的化合物のセラミックス試料および単結晶試料合成実験のための経費として,次年度に使用する予定である.
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Research Products
(7 results)