2012 Fiscal Year Research-status Report
ベナール対流を利用した新規な酸化物薄膜パターニング技術の開発
Project/Area Number |
24760554
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
内山 弘章 関西大学, 化学生命工学部, 助教 (10551319)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 自己組織化 / ゾル-ゲル法 / パターニング |
Research Abstract |
本研究では「ベナール対流を利用した新規な酸化物薄膜のパターニング技術」の確立を目指している。H24年度は、SiO2薄膜を対象として、ベナール対流によりゾル-ゲル薄膜表面に生じる「セル状パターン」の「高低差・幅の制御」を主な目的として検討を行った。 温度を25~100℃の範囲で変化させて薄膜を作製し、セル状パターンのサイズに「コーティング時の温度」が与える影響を調査した。その結果、「コーティング時の温度」が上昇するとベナール対流の原因である溶媒蒸発が促進され、パターンの高低差が増大することが分かった。従来の室温でのコーティングではパターンの高低差が50~200 nmに限られていたのに対して、「コーティング時の温度」の調整により50 nm~1.5μmまでの高低差制御が可能になった。また、対流が促進されたことで、単位面積あたりの対流数が増え、パターン幅が減少することが分かった。 また、コーティング液中の「溶媒量」および「有機高分子量」を変え、「溶液粘度」を変化させて薄膜を作製した。その結果、「溶液粘度」が上昇することで ディップコーティング中にゾルが下方向へ安定に流動するようになり、より配列性の高い「セル状パターン」が得られることが明らかになった。 以上のように、「コーティング時の温度」および「コーティング液組成」の制御によって、「ベナール対流によって生じるセル状パターン」のサイズ・配列性がコントロールできることが明らかになった。これらの結果は「自己組織化を利用した新規な酸化物薄膜のパターニング技術」の確立を目指す上で重要な知見である。 以上の成果をまとめ、日本セラミックス協会2013年年会において口頭発表を行った。また、次年度に開催される国際会議(XVII International Sol-Gel Conference)においての発表を予定している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初のH24年度の目的であった、「コーティング時の温度」および「コーティング液組成」が「ベナール対流によって生じるセル状パターン」のサイズ・形状に及ぼす影響の調査については、SiO2薄膜を対象として、十分な知見を得ることができたといえる。得られた結果を基に薄膜の作製条件を調整することで、より広い範囲で精密な「セル状パターン」の高低差・幅の制御が可能となった。また、SiO2薄膜において得られた知見はTiO2薄膜においてもほぼ同様の結果が得られることが確認できている。したがって、次年度に予定している、セル状パターンを有する薄膜の「親水性・撥水性」「回折・反射特性」の評価へスムーズに移行できると考えられる。 一方で、現在までに作製できている「セル状パターンを有する薄膜」は膜厚が数μmとかなり大きいため、熱処理することで亀裂発生や膜の剥離が生じやすいことが確認された。そのため、「セル状パターンを有する薄膜」に結晶性を付加することには成功していない。今後、「ベナール対流を利用した新規な酸化物薄膜のパターニング技術」の確立を目指す上では、薄膜の機能性の検討は重要であり、「膜の結晶化」は高い機能性を発現させるためには必須な要素である。したがって、「セル状パターンを有する薄膜の結晶化の検討」は、次年度以降に取り組まなければならない新たな課題といえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
H24年度に得られた結果を基にして、院生1名が①「セル状パターンを有する薄膜」の「親水性・撥水性、回折・反射特性の評価」を行う。また、各特性の向上を目指して、「セル状パターンを有する薄膜の結晶化」についても合わせて検討を行う。また、H25年度より、院生1名が②「セル状パターン(凸型)の作製および新規パターンの探索」について研究を進める。 ①「表面パターンをもつ薄膜」の「親水性・撥水性」「回折・反射特性」の評価 「ベナール対流由来のセル状パターンを有する酸化物薄膜」において、 (i) 特異なパターンによる周期的な「親水性・撥水性」、(ii) 高屈折率薄膜に形成された規則的なパターンによる特定波長の光の反射・回折の発現の可能性を検証する。また、熱処理やソルボサーマル処理による「セル状パターンを有する薄膜の結晶化」についても合わせて検討を行う。 ②セル状パターン(凸型)の作製および新規パターンの探索 流体中に生じる熱対流であるベナール対流には、「ベナール-マランゴニ対流」の他に、液体内部に生じる熱勾配が原因となる「レイリー-ベナール対流」が存在する。「レイリー-ベナール対流」が生じた場合、凸型のセル状パターンが表面に形成されることが知られている。溶液において「ベナール-マランゴニ対流」と「レイリー-ベナール対流」のどちらの対流が支配的になるかは、「溶媒の揮発性」「膜内の温度勾配」が影響する。ここでは、静止基板上に滴下したSiO2前駆溶液のその場観察を行い、「前駆溶液組成」「基板温度」「液滴の厚さ」が「セル状パターンの凹凸形状」に与える影響を調査する。また、セル状パターン以外の「新規パターン生成の可能性」についても検証する。 2年間で得られた成果を取りまとめ、年度末の学会(国内:1件、海外:1件)で成果の発表を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
<設備備品費>:「ベナール対流」により発現する表面パターンの評価は、現有設備(FE-SEM、デジタルマイクロスコープ、表面粗さ計)で対応可能である。また、H25年度より検討を行う「親水性・撥水性」「回折・反射特性」の評価についても、現有の吸光光度計、接触角計によって対応可能である。したがって、新規の装置購入は予定していない。 <消耗品費>:原料試薬:80万円、基板(Siウェハ、石英ガラス):50万円、*原料に用いる金属アルコキシドは種類によっては高価である。また、基板に用いるSiウェハや石英ガラスは高価であり、消耗頻度も高いことが予想される。 <国内旅費・外国旅費>:国際会議(アメリカ):30万円、国内学会(東京):5万円、*国際会議1件(アメリカ)、国内学会1件(東京)の学会発表を予定している。そのための国内旅費・外国旅費が必要である。 <その他>研究成果投稿料:5万円、*研究成果を英語論文としてまとめ、海外学術雑誌への投稿を予定している。
|
Research Products
(13 results)