2012 Fiscal Year Research-status Report
脆性き裂伝播抵抗予測のためのミクロスケールき裂伝播現象のモデル化
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24760568
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柴沼 一樹 東京大学, 工学系研究科(工学部), 助教 (30611826)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 脆性破壊 / へき開 / 破面単位 / 鋼 / 拡張有限要素法 / き裂伝播抵抗 |
Research Abstract |
脆性破壊は突発的に発生し,甚大な被害を与える可能性があるため確実に防止する必要がある.しかし,脆性き裂の伝播を防止するための設計基準は経験的な評価に基づくものであるのが現状である.従来からミクロ組織と脆性破壊には密接な相関があることが知られているが,それらの関係は統計的・経験的な取り扱いにとどまっており,特に脆性き裂伝播抵抗を定量的に予測するための理論的研究は遅れている.そこで本研究では,ミクロスケールでの脆性き裂伝播による破壊形態を詳細に把握するための系統的な実験・計測を行い,その微視的メカニズムを考慮して,き裂伝播抵抗を定量的に予測可能なモデルの構築を行うことを目的とする. 平成24年度では,まず,フェライト鋼を対象に,単一の結晶粒内のへき開面の形成形態に着目した系統的な実験・計測を行った.試験温度をパラメータとした破面観察および計測を行った結果,SEM画像を用いて計測した破面単位は低温ほど細分化する傾向が定量的に示された.また,破面の形成形態を詳細に調査するために破面直下の結晶方位計測を実施した結果,高温の場合では従来の知見通り破面単位は結晶粒とほぼ1対1で対応するが,低温の場合では1個の結晶粒において複数のへき開面が複雑に形成されることが明らかとなった. 次に,破面形成を評価する着目結晶粒とそれに隣接する結晶粒を含む局所領域を定義し,粒界突破条件として限界破壊応力説に基づく局所アレスト靱性を仮定して,結晶粒内部のへき開面形成を幾何学的に再現する簡易的な数値モデルを構築した.本モデルを用いたシミュレーションの結果,局所アレスト靱性が小さいほど,結晶粒の内部において複数の破面単位が形成される割合が高くなり,破面単位はより小さくなる傾向が得られた.したがって,局所アレスト靱性を変化させることで実験において試験温度が破面単位に与える影響と同様の傾向を再現することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度では,まずフェライト鋼を対象に,単一の結晶粒内のへき開面の形成形態に着目した系統的な実験・計測を行った.この結果,評価の指標として用いた「破面単位」に関して,同一の材料では低温,すなわち,靱性が低くなるほど破面単位が細分化されるという結果が得られた.これは靱性が高くなるほど細分化されるとした従来の知見とは異なるものであり,鉄鋼材料の靱性の評価に関わる新たな知見である. 次に,上記で得られたフェライト鋼における破面単位の温度依存性の実験結果を再現するための数値なモデルの開発を行った.本モデルでは3個の立方体の結晶粒に対し結晶方位を乱数で与え,破面の形成パターンにより破面単位の評価法を定義した.本モデルを用いることで,実験において試験温度が破面単位に与える影響と同様の傾向を再現することができた.このため,同一鉄鋼材料において,脆性破壊の破面を構成する破面単位が試験温度が低温となるほど細分化する現象の物理的な根拠を示すことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の次のステップとして,連続的にへき開面が形成するより複雑なき裂形状に対して破壊力学パラメータを評価するために,段階的に拡張有限要素法による解析コードの開発を行う必要がある. 現状の拡張有限要素法では,き裂先端周りの自由度の大幅な増加が必要となることから,まずこの課題を解決するための新たな定式化の提案を行う.次に,提案した定式化を2次元の破壊力学問題に適用して基本的な破壊力学パラメータの精度評価などにより,その有効性の評価を行う.最後に3次元問題へ拡張し,多結晶体中の連続的なへき開面形成伝播モデルの構築を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度に関して,当初の予定では国際会議に1度参加する予定であったが,破壊力学を専門に扱う13th ICF (International Conference of Fracture)と船舶海洋工学分野の代表的な国際会議ISOPE 2013 (International Ocean and Polar Engineering Conference)に参加するために,昨年度予算の一部を次年度使用額として繰り越した.
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Research Products
(3 results)