2012 Fiscal Year Research-status Report
強化と弱化をもたらすラス組織に着目した高クロム系フェライト系耐熱鋼のクリープ機構
Project/Area Number |
24760576
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
光原 昌寿 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (10514218)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 高Crフェライト系耐熱鋼 / クリープ変形 / 強化機構 / ラスマルテンサイト / 転位 / 電子顕微鏡 / 結晶方位解析 |
Research Abstract |
本研究は、焼き戻しラスマルテンサイトを母相とする高 Cr フェライト系耐熱鋼において、強化と弱化に働くという相反的な性質を持ち、その高温変形挙動を支配していると考えられているラス組織の強化機構と弱化機構の素過程を微細組織解析からそれぞれに解明し、クリープ変形に対するラス組織の役割について統一的な見解を得るとともに、耐熱性向上のための新たな組織設計を提案することを目的とする。平成24年度では、「1.高Crフェライト鋼の時効材とクリープ試験材の作製」と「2.転位とラス境界の相互作用モデルの立案と抵抗力の算出」を行った。その成果として、まず、クリープ変形に伴ってラス組織が粗大化していく様子を結晶方位解析から定量的に評価し、そのときのラス幅が変形のひずみ速度の3乗に比例することを示した。次に、超高圧電子顕微鏡内でその場高温引張試験を行い、転位とラス境界の相互作用を直接的に観察し、その様子からラス境界が転位運動に与える抵抗力を数式化することに成功した。この結果から、クリープ変形に伴うラス組織の粗大化から見積もられる抵抗力の減少値が実際のクリープ試験から得られるひずみ速度の上昇と良い対応を示した。さらに、平成25年度計画の一部である「3.ラス組織の動的・静的観察挙動とその素過程の解明」についても実験を進めており、その中で、ラス境界を構成する転位が粒内に放出されることで境界がほどけるように消滅し、隣接する結晶粒が合体する新たな粗大化機構を発見した。これら当該年度の成果から、高Crフェライト鋼のクリープ強度向上には変形中のラス組織の安定性、すなわちラス幅を狭いままで長時間保つことが最重要であり、その役割を持つブロック境界、パケット境界および旧オーステナイト粒界と、それぞれの境界・粒界上に分布する炭化物に着目した解析が必要であることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載のとおり、高Crフェライト鋼のクリープ強度に対するラス境界の役割について、特に強化機構の素過程である境界と転位の相互作用について明らかにすることができており、当該年度の計画は概ね達成されている。また、当初、平成26年度の計画としたラスの粗大化プロセスの解明についても、ラス境界の消滅による新たな機構を発見するに至った。したがって、自己評価としては、「(2)おおむね順調に進展している」が妥当であると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の成果から、高Crフェライト鋼のクリープ強度向上には、ラス境界の粗大化抑制が重要であることが示唆された。したがって、H25年度では、当初の計画通り、「3.ラス組織の動的・静的観察挙動とその素過程の解明」について研究を進める。特に、ラス境界の移動や消滅に関わる境界上炭化物の役割について検討する。具体的には、時効材またはクリープ変形材において、電子顕微鏡観察と結晶方位解析を組み合わせて、炭化物が分布する境界・粒界を判別しながら、その被覆率やサイズ変化を定量評価する。この結果をもとに、ラス境界、ブロック境界、パケット境界および旧オーステナイト粒界の内で、どの境界・粒界上炭化物が組織の熱的安定性に寄与するのかを明らかにする。次に、異なる鋼種についても、同様の実験を行い、添加元素の影響について調査する。ここでは、炭化物の主要な構成元素であるCrの添加量が、炭化物の被覆率やサイズ変化に与える影響と、その結果としてのラス組織の熱的安定性の違いについて考察する。さらに、平成25年度は本研究の最終年度であるため、「4.クリープ変形に対するラス組織の包括的役割の明確化と高強度化への指針提示」としてこれまでの成果をまとめ、クリープ試験から得られるマクロな特性、すなわちクリープ曲線を、微細組織変化の観点から数式として記述する方法を検討するとともに、高強度化に向けた組織デザインの提案を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|
Research Products
(1 results)