2012 Fiscal Year Research-status Report
衝突輻射過程を考慮した非平衡プラズマ流の統合解析コード開発とその応用
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24760657
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
荻野 要介 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90586463)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 衝突輻射非平衡 / 高エンタルピー流 / 原子・分子過程 |
Research Abstract |
本課題の目的は、非平衡原子・分子過程と流れ場の統合数値計算コードの開発である。従来の熱化学非平衡流体解析では、励起状態分布をBoltzmann平衡分布関数によって平均化するが、本手法では流体要素内部に自由度を導入し、励起状態ごとの保存則を解くことで状態分布を決定する。このようなマルチスケールな計算手法は、局所的に非平衡な原子・分子過程を伴う非定常プラズマの大域的な運動を記述する。そのため大気圏突入物体まわりの極超音速流れだけでなく、レーザーやマイクロ波を利用した推進技術、大気圧グローやストリーマ放電に代表される大気圧非平衡プラズマなど多くの先進的な応用技術に対しても適用可能であり、従来法よりも格段に正確な数値解析が可能である。これまでの研究結果からも言えることであるが、原子・分子過程の非平衡性が流れ場に及ぼす影響は非常に大きい。現在、大気圏突入問題を想定した原子・分子過程の非平衡数値計算コードがNASAやESAの研究チームによって開発が進められているが、それらの実験データはもちろん、計算コードも一般公開されていない。こういった現状を打破し、プラズマ流れ場の実験、数値解析を更なる高みへと引き上げる礎を築くためには、より高温・低密度な領域まで網羅した統合計算コードの構築が不可欠である。本計算コードは、気体駆動型レーザー推進装置におけるレーザー誘起ブラスト波の形成と伝搬過程、放電現象を利用したマイクロ波推進やプラズマアクチュエータなどの数値解析にも適用可能である。 非平衡原子・分子過程を考慮した輻射冷却率が流れ場に及ぼす影響について着目し、得られた結果を纏め、学術誌Journal of Physics: Conference Seriesに投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地球大気組成種の非平衡原子・分子過程と高エンタルピー流の結合計算コードの開発を行った。本計算コードは、プラズマ内部の原子・分子励起状態間の遷移過程を直接解き、非平衡状態分布を計算する。考慮した遷移過程は、電子・原子・分子間衝突による励起、電離、解離過程、重粒子間衝突による化学反応、輻射の放出・吸収過程である。真空紫外から近赤外までの主要な発光スペクトルを解析できるように、各化学種の電子励起状態を選定してある。得られた状態分布から、比熱比や化学組成、輻射放出・吸収率などの巨視的物理量を計算し、流れ場の保存量にフィードバックさせる。従来の熱化学非平衡流体解析では評価することが出来なかった、励起種による流れ場への影響を正確に見積もることができる。また、時々刻々変化するプラズマ流れ場の大域的な変動を追跡しながら、任意の時空間における発光スペクトルを数値データとして記録できる。分光装置により測定された発光スペクトルとの直接的な比較が可能となるため、プラズマ内部状態をより精緻に解析することができ、高エンタルピー流実験との非常に密な連携を実現する。プラズマ内部の状態を特定することのできなかった高エンタルピー流研究において、今までになかった新たな視点を与えることとなる。原子・分子過程と流れ場を結合した非定常解析は世界的にも未だ行われておらず、基礎的な物理過程と工学応用とを結びつける研究成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
大気圧ストリーマ放電における、初期電子の形成、電子雪崩からの分岐構造形成への一連のシナリオは未だ解明されていない現象であるが、原子・分子過程が決定的な役割を担うであろうと予想されている。そこで、粒子法の一つであるPIC-MCC 法と原子・分子過程の統合計算コードの開発を行う。PIC(Particle-In-Cell)法では多数のプラズマ粒子を代表する超粒子を考え、荷電粒子と電磁場の相互作用を解く。超粒子に働く電磁場は粒子同士のクーロン力を直接計算するのではなく、空間格子上に配分した電流密度や電荷を基にMaxwell 方程式を用いて更新する。本手法では、粒子間衝突による速度の時間更新をBoltzmann方程式の解法であるMCC(Monte Carlo Collision)法で行う。ストリーマ構造の時間発展を調べる際に、最も重要な原子・分子過程は荷電粒子の生成消失を伴う反応である。反応断面積と平均自由行程を考えると、電子衝突電離と光電離が該当する。MCC 法により得られた自由電子の非Maxwell 速度分布から衝突遷移反応定数を算出することで、励起・電離状態分布を決定し、局所電場をもとに光電離率を求め、荷電粒子の生成過程を調べる。 強輻射場とプラズマ電離過程の相互作用は、レーザー推進におけるプラズマの生成過程や、マイクロ波推進実験で確認されているフィラメント構造の形成を説明するのに不可欠であり、より高い推力を引き出すために最も重要な鍵となる現象である。ストリーマの解析から得られた知見を基に、流体計算用の巨視的な電離反応モデルを構築し、両推進装置におけるプラズマ流れ場の数値解析を最終目標とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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