2012 Fiscal Year Research-status Report
粘土鉱物に吸着したセシウムイオンの構造解明と脱離法の探索
Project/Area Number |
24760688
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
森本 和也 愛媛大学, 理工学研究科, 助教 (10565683)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | セシウムイオン / 粘土鉱物 / 汚染土壌 / 除染 / イオン交換反応 / マグネシウムイオン |
Research Abstract |
平成24年度は、粘土鉱物に強く吸着したCsイオンを環境への負荷が小さい簡便な条件で脱離することを目的とし、バーミキュライトに吸着させたCsイオンの溶液化学的手法による脱離とそのメカニズムの解析を試みた。 まず、バーミキュライトへのCsイオン吸着実験を行った。南アフリカ産バーミキュライト100 mgに濃度の異なる硝酸セシウム水溶液10 mLを添加し、室温で24時間振とうした。遠心分離後の上澄みをろ過し、ろ液に含まれるCsイオン濃度をICP-MS分析により測定した。Csイオン脱離実験は、予め0.1 mmol/gのCsイオンを吸着させたバーミキュライト100 mgに各種陽イオン溶液10 mLを添加し、室温で24時間振とうして行った。また、Csイオン吸着および脱離後のバーミキュライト試料についてXRD分析を行った。 吸着実験で得られたH型吸着等温線より、Csイオンはバーミキュライトに対して高い親和性を有することが確かめられた。様々な陽イオン試薬を用いたときのCsイオン脱離率を比較すると、硝酸マグネシウム水溶液を使用した場合の脱離効率が最も良いことが分かった。この硝酸マグネシウム水溶液の濃度を変化させてCsイオン脱離を行った結果、溶液濃度が高いほど脱離能は大きく、3 mol/L以上の溶液により90 %のCsイオン脱離が可能であった。Csイオン吸着量の異なる試料に対し3 mol/Lの硝酸マグネシウム水溶液を用いて脱離実験を行ったところ、Csイオン吸着量が少ない場合でも70 %程度の脱離ができた。バーミキュライト試料のXRD分析では、Csイオン吸着により消失したMgイオン水和層のピークが脱離実験後に再び確認された。以上のことより、CsイオンとMgイオンのイオン交換反応は可逆的に起こることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画は次の二段階で進めることを目標としていた。 (1)第一段階として、バーミキュライトなどの粘土鉱物を取り上げ、Csイオンの吸着構造を明らかにすること。ここで特に着目した点は、従来の研究からCsイオンの吸着は吸着量によって著しく吸着力が変わることである。特に微量吸着(陽イオン交換容量(CEC)の1 %以下)において極めて強く吸着する。現在の土壌汚染の主因はこのように強く吸着したCsイオンによると考えられ、汚染浄化にはこの状態での吸着構造の解明が不可欠と考えられた。広い範囲のCsイオン濃度における吸着実験、それに並行して電子顕微鏡、X線構造解析を行い、吸着量によって異なる粘土鉱物中のCsイオンの存在状態を解明した。具体的には、粘土層間のMgイオンと交換したCsイオンが粘土層の底面酸素が作る六員環に上下から挟み込まれ固定されていることを明らかにした。 (2)第二段階は、粘土鉱物に強く吸着したCsイオンの効率的な脱離方法を見出すために、申請者らが今まで行ってきた鉱物に対する溶液化学的手法による研究を行うこと。各種陽イオンによる除去(陽イオン交換による除去を目指して、Csイオンに特異的に作用する条件を探索する)を試みた結果、硝酸マグネシウム水溶液を用いた場合にバーミキュライトからのCsイオンの脱離率が高いことが明らかとなった。 申請書に示した研究計画はほぼ達成できている。特にCsイオンの脱離方法に関しては、当初予想していた手法よりもより簡便で実施において現実味のある手法を発見することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画は、平成24年度の研究成果を踏まえ、申請時の研究計画通り推進していく予定である。 研究の最終段階として、現地汚染土壌のサンプリングを行い、これまでに見出したCsイオンの溶出方法を実際に試行する。まずは小容量の試料を用いて、実内実験レベルでのCsイオン脱離の検討を行う。用いる脱離試薬は、これまでの成果から効率の高かった硝酸マグネシウム水溶液を用いる。また比較のためにマグネシウムと質量数の近いナトリウム試薬として硝酸ナトリウムを用いる。溶出したイオン濃度の測定には、ICP-MSを用いる予定であるが、極微量濃度の測定が困難な場合には放射線量測定器を用いて行う。続いて、土壌の採取、前処理(水簸による粘土画分の分取)、Csイオンの溶出操作、溶出したCsイオンの固定(沈殿剤を用いたCs化合物の生成)などを行う一連のシステムを小規模モデルとして組み立てる。最終的には開発した溶液化学的除去処理システムを現地にて適用し、粘土鉱物中に含まれるCsイオンの少なくとも8割以上を除去し、放射性Csとして考えた場合、人体に影響のない程度(許容水準: 年間1 mSv)まで除染できるよう安定的に抽出できる手法を確立する。現地での処理システムの試験および微量の放射性Csの検出などは物質・材料研究機構との共同実験で行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究計画において主となるのは、放射性Cs汚染土壌の現地での採取と土壌浄化処理システムの構築である。それに係る旅費と実験器材の購入に研究費の使用を計画している。また平成24年度と同様に、試料の分析に係る諸費用と研究成果の発表のための費用(学会発表および論文投稿)も使用予定である。主要な費用を次に示す。 汚染土壌採取のための福島県への出張(福島2回×1人3泊):20万円、汚染土壌浄化処理ごの試料の分析に係る費用(分析試薬、評価・解析装置の消耗経費、超純水、ICP-MS用のアルゴンガス):40万円、小規模な汚染土壌浄化システムの構築に係る費用(脱離試薬、土壌処理用容器など):40万円、研究成果の発表に係る費用(学会発表および論文投稿):25万円
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