2013 Fiscal Year Research-status Report
粘土鉱物に吸着したセシウムイオンの構造解明と脱離法の探索
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24760688
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
森本 和也 愛媛大学, 理工学研究科, 助教 (10565683)
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Keywords | セシウムイオン / 粘土鉱物 / 汚染土壌 / 除染 / イオン交換反応 / マグネシウムイオン |
Research Abstract |
平成25年度は、平成24年度に実施した溶液化学的手法を用いたセシウムイオン吸着粘土鉱物(バーミキュライト)からのセシウム脱離実験において、高い脱離効果が認められた硝酸マグネシウム水溶液による処理に注目し、セシウムイオンの吸着・脱離メカニズムを反応速度論的に解析することに取り組んだ。 バーミキュライトに対するセシウムイオンの吸着量の時間変化を追跡する実験と、セシウムイオン吸着バーミキュライトに対して濃厚な硝酸マグネシウム水溶液を用いてセシウム脱離を試みたときの脱離量の時間変化について追跡する実験を行った。 バーミキュライトへのセシウム吸着実験は、100 mgの粉末バーミキュライトに1.0 mmol/Lの硝酸セシウム水溶液10 mLを添加して室温で振とうすることで実施した。吸着実験開始後、わずか10分でセシウム吸着率が99 %に達しており、10分以内には既に吸着反応がほぼ平衡状態に至る結果が得られた。 セシウム脱離実験は予め0.1 mmol/gのセシウムイオンを吸着させたバーミキュライト100 mgに対して3.0 mol/Lの硝酸マグネシウム水溶液10 mLを添加し、室温で振とうすることで行った。その結果、脱離実験開始後10分ではセシウムの脱離率はおよそ45 %に留まり、2時間後におよそ70 %、24時間後に約90 %の脱離率となり平衡状態に達した。 セシウムイオンの吸着・脱離それぞれの実験結果に対して、modified Freundlich modelによる解析を行い、各反応における速度定数を算出して比較を行った。解析結果から、セシウムイオンの吸着反応と脱離反応には速度論的に大きな差異があり、セシウムイオンとマグネシウムイオンの濃度勾配から考えても、セシウムイオンの脱離反応には単なる化学平衡論では解釈できない反応の阻害因子が存在することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度に得られた研究成果として最も重要であったのは、セシウムイオンの粘土鉱物に対する吸着反応と脱離反応は可逆的反応ではあるが、反応速度を比較すると大きな違いがあり、吸着反応に比べて脱離反応は非常に起こり難いという非平衡な反応であることを実証できた点である。このメカニズムの違いについてより詳細に考察すると、粘土鉱物の積層シートの間へのセシウムイオンの吸着過程は元々粘土鉱物層間に含まれるマグネシウムイオンとのイオン交換反応を通した静電吸着であるが、セシウムイオンの脱離過程は競合するマグネシウムイオンとの交換反応だけでなく、セシウムイオンが吸着している粘土表面の六員環構造サイトでの物理吸着効果の障壁を乗り越える必要があることから、セシウムイオンの吸着と脱離では反応素過程が異なっているものと考えられる。この知見は、粘土鉱物からセシウムイオンの脱離をおこなうための処理システムを設計する上でも非常に重要であり、反応温度を高めるなどすることでより脱離の効率を高めることができるかもしれない。 さらに平成25年度の研究計画の中では、福島県内の放射性セシウム汚染土壌を実際にサンプリングし、室内予備実験で有効性が認められた溶液化学的除染方法を適用して除染効果を評価することも予定していたが、福島県内のサイトの選定やそれに伴う地元自治体との交渉、除染試験を行うための施設の確保など、実施環境を整えるために当初の予想以上に時間を要してしまった。さらに実施環境整備の遅れから現地が冬季を迎え降雪の影響が出たこともあり、平成25年度内に福島県で汚染土壌のサンプリングを行うこと、そして除染試験を実施するところまでは達することができなかった。この除染試験に関しては既に調整を終えており、次年度において試験実施が可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた研究成果を踏まえ、本研究課題の最終段階として、福島県内の現地汚染土壌のサンプリングを行い、放射性セシウムイオンの脱離・溶出試験を実際に試行する。具体的には、まず小容量の汚染土壌試料を用いて、室内実験レベルでの放射性セシウムイオンの脱離を検討する。溶液化学的手法による脱離を試行し、脱離試薬にはこれまでの実験から効率の高かった硝酸マグネシウム水溶液を用いる。また脱離効率の比較のために、マグネシウムと質量数の近いナトリウム試薬も用いて同様の試験を行う。極微量濃度の放射性セシウムイオンの脱離効率を評価するために、ゲルマニウム半導体検出器によるγ線スペクトロメトリ法を用いた測定を行う。 溶液化学的手法による土壌の除染効果を精査したうえで、最終的には汚染土壌の採取から前処理(水簸による粘土画分の分離や磁力選別など)、セシウムイオンの溶出操作、溶出したセシウムイオンの固定化(沈殿剤を用いたセシウム化合物の選択的な生成)などを行う一連の処理システムを小規模モデルとして組み立てることを試みる。 現地での土壌サンプリングや放射線量の精密測定、処理システムの試験等に関しては、独立行政法人日本原子力研究開発機構や独立行政法人物質・材料研究機構との研究協力を得て実施していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究計画の中では、福島県内のセシウム汚染土壌を実際にサンプリングし、溶液化学的除染方法を適用して除染効果を評価するという項目も設定していたが、福島県内のサイトの選定や地元自治体との交渉、除染試験を行うための施設の確保など、実施環境を整えるために当初の予想以上に時間を要してしまったため、また現地が冬季を迎えたため、本年度中に福島県でサンプリングをすること、除染試験を実施することができなくなった。したがって、当該助成金が生じるに至った。 福島県での土壌試料のサンプリングと除染試験の実施に関しては既に各方面との調整は終えており、平成26年度において試験実施が可能である。平成26年度助成金の使途は、福島県への出張費用、土壌サンプリング装備、放射線量計測器具の準備、試料前処理器具・除染試験試薬・器具(密閉ボトル・スターラー)の購入、イオン分析に用いる超純水・アルゴンガスなどの消耗費、学会参加費、論文校正・印刷費用等に充てる予定である。
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