2012 Fiscal Year Research-status Report
放射線環境下での無機吸着剤による水処理を想定した放射線影響の研究
Project/Area Number |
24760721
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
熊谷 友多 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力基礎工学研究部門, 研究員 (70455294)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 放射線効果 / 水の放射線分解 / 固液混合物 / ゼオライト / 水素 / 過酸化水素 |
Research Abstract |
本研究は、放射線環境下での固体材料を用いた水処理における放射線の影響を解明することを目的としている。そのために、水の放射線分解で生じる水素や酸素、過酸化水素の挙動を詳細に研究する。 本年度は、ゼオライト系固体材料を中心として、いくつかの固体材料と水溶液との混合物の照射実験を行い、放射線影響を調べた。まず、水素や過酸化水素の反応の線量率に対する依存性を調べた。その結果、純水に近い希薄溶液では線量率効果が観測されたが、水溶液の組成を調整することで5kGy/h程度の高線量率まで線量率の影響を無視した解析が可能であることが分かった。 次に、水素の発生についての照射実験を行った。その結果、これまで注目されてきた酸化物固体に起因する水素発生量の増大は、ゼオライト系材料では他種酸化物固体での報告と比較して低いことが分かった。この結果から、放射線によるエネルギー付与によりゼオライト中に余剰電子が生成されるが、ゼオライト中に生じた余剰電子による水分子の分解、水素の発生に至る反応の収率は低いと考えられる。したがって、ゼオライト系材料は水素安全の観点から放射線環境下での使用に適した材料であることが言える。 さらに、過酸化水素水溶液を用いた実験により、ゼオライトは照射による過酸化水素の蓄積を抑制する効果を有することを発見した。過酸化水素の抑制はゼオライト細孔内での余剰電子および正孔と過酸化水素との反応によるものと考えられる。過酸化水素がゼオライトに吸着することは確認できており、また照射による過酸化水素の分解挙動も吸着状態における反応を示唆している。過酸化水素は水処理設備の金属構造材の腐食を誘引する恐れがあるため、この点においてもゼオライトは優れた材料であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、本年度は実験系を構築し、次年度以降の実験計画策定のための基礎データを取得することを計画していた。これらの準備作業はおおむね順調に進んでいる。まず、照射後の化学分析の自動化・迅速化を行い、実験方法を確立した。固体材料を含まない水溶液についての実験結果は、既往の報告とよく一致し、数値計算とも整合しており、実験手法の信頼性を確認することができた。固液混合物試料の調製方法については、固体材料の前処理方法を検討し、炭酸系もしくはホウ酸系の中性から弱塩基性緩衝液で洗浄することで、試料調製時の溶出を抑制し、同時に試料液相のpHおよびイオン強度の調整ができることが分かった。 固体材料の照射実験に関しては、当初計画では固液混合物試料を用いた予備実験を行い、線量率等のいくつかのパラメータに対する依存性の概略を調べる計画であった。当初計画は順調に進行しており、加えてこれらの実験により、ゼオライト系材料が過酸化水素の放射線誘起反応に顕著な影響を及ぼすことを発見することができた。 また、照射による固液混合物試料中での過酸化水素の挙動が複雑であったため、当初計画していなかったが、混合物試料中での放射線誘起反応に対する数値解析モデルの検討にも着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は固液混合物試料を用いて広範囲の固液比で放射線影響を調べ、固体側に付与された放射線エネルギーによる反応、液体側へのエネルギー付与による反応、さらにその相互関係と界面に存在する吸着分子の挙動を調べたい。次年度以降の計画について大きな変更はない。ただし、当初過酸化水素についても照射による生成について調べることを考えていたが、上述のとおり、特にゼオライト系材料は過酸化水素を分解する効果を持っていることが分かった。そのため、過酸化水素については照射による分解反応について重点的に調べることとする。また、水の放射線分解で生じる過酸化水素は、この反応のために水と酸素に分解していると考えられる。そのため、放射線による水の分解反応に関しては、水素と酸素の生成挙動から検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
試料や照射実験および照射後の化学分析のための消耗品の購入、旅費等に当てる。
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Research Products
(6 results)