2012 Fiscal Year Research-status Report
眼形態多様性を生み出す遺伝子発現ネットワークの分子進化
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24770002
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
小倉 淳 徳島大学, 疾患プロテオゲノム研究センター, 講師 (60465929)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 進化 / 眼の多様性 / 比較トランスクリプトーム / 次世代シーケンス |
Research Abstract |
視覚情報の入力器官として、また脳神経系の末端組織として非常に重要でありながら、形態多様性を保持する眼の形態形成ネットワークに関する研究を行った。24年度は、脊椎動物と相同なカメラ眼を持つ軟体動物・頭足類のヒメイカと同じ軟体動物・頭足類でありながらレンズが存在しないピンホール眼を持つオウムガイにおいて、眼の発生過程における遺伝子発現ネットワーク比較を次世代シーケンサーを用いた比較トランスクリプトームにより解析を行った。その結果、オウムガイにおいては、レンズ形成に必須なLhx2遺伝子及びその下流遺伝子は発現していたものの、Six3遺伝子及びPax6/Six3複合体が発現制御する一連の遺伝子発現ネットワークが失われていることを発見した。この発見の意義として、様々な生物に広範に保存されている最上流の転写因子であっても動物によってはそれを失うことで眼の形態を大きく変えうることがあげられる。この研究成果に関しては、Scientific Reports 3:1432において第一著者兼責任著者として発表した。ほかにも、眼の重要な発生調節因子であるPax6がヒメイカには複数の転写産物として存在し、発生過程において重要であることを発見し論文投稿中である。他に、24年度研究計画に挙げた項目に関しては、軟体動物の眼における発現遺伝子のデータベース化、脊椎動物を始め他の生物における相同遺伝子の取得を行い国内外の研究者とデータ共有化及び共同研究の推進を行っている。また、マイクロアレイに関しては、異種間で発現プロファイル比較可能なプローブデザイン手法開発を行い論文発表を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請書における「研究の目的」の達成度として、 1. 眼の発生を調節する転写因子群(EFTF)が軟体動物においてどれほど保存されているか? 2. どのような遺伝子の獲得・消失・機能変化が眼の形態多様化をもたらしたか? 3. EFTFがどのように眼の形態多様化に関わるか? というポイントを設定したが、ヒメイカとオウムガイにおける眼の発生過程における比較トランスクリプトームにより、EFTFは動物によっては必ずしも全て保存されている訳ではなく (1)、特定の遺伝子・オウムガイにおいてはSix3の消失がレンズ形成能力の消失につながり (2)、カメラ眼からピンホール眼への進化(退化)をもたらした (3) ということが、研究により示された。この研究成果に関しては論文発表まで行われており、初年度における目的達成度としては当初の予定以上であったと考えられる。また、国内外の研究者との共同研究も、頭足類ゲノムコンソーシアムの立ち上げ(理事として関与)、オウムガイの眼の発生プロセスに関する発生学的研究、EFTF遺伝子群の構造進化などが進展しており、次年度における研究成果につなげることが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はヒメイカとオウムガイの比較だけではなく、ほかの軟体動物の眼の遺伝子発現ネットワーク比較を行う。具体的には、様々な動物門における眼の発生を調節する転写因子群(EFTF)の構造進化を解析することで、遺伝子の消失だけでなく機能変化がどのような眼の形態形成に関わってきたかを調べる。そのための計画・手法として、Reciprocal blast hit法とReconciled tree法によるEFTF遺伝子群の探索とデータベース化、祖先配列推定による構造変化配列の特定とホモロジーモデリング手法による配列変化の構造への影響解析を行う。また、こうした解析結果を裏付けるために眼の発生過程に発現する遺伝子のRNA-seqによる網羅的取得と発現プロファイル解析による発生への関与の解析、in situ hybridizationを用いた生体内における遺伝子の挙動の検証などを行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度には、上記研究を推進するためのコンピュータ環境の整備、次世代シーケンス解析のためのシーケンス費用、研究を潤滑に推進するための補助員の雇用、研究成果の発表のための学会参加費および論文投稿費を計上している。次年度の繰越額はこのうち、コンピュータ環境の整備と、次世代執権ス解析のためのシーケンス費用の一部に使用する予定である。24年度は年度途中で職場の移動が入ったため研究費使用スケジュールが計画通りにならなかったが、25年度は研究費を有効に活用して成果を上げる万全の体制を整える。
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