2013 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子転写領域におけるDNAメチル化の役割と制御機構の解析
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24770009
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
藤 泰子 国立遺伝学研究所, 総合遺伝研究系, 特任研究員 (10623978)
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Keywords | エピジェネティクス / DNAメチル化 |
Research Abstract |
活性化状態にある遺伝子転写領域におけるDNAメチル化の機能を解明するため、遺伝子転写領域のDNAメチル化を消失するシロイヌナズナmet1遺伝子変異体を用いたゲノムワイドな発現解析および公開データを利用した情報学的解析を行った。その結果、遺伝子転写領域におけるDNAメチル化が、単に転写量や転写恒常性を制御するのでなく、転写と関連する何か別の制御を担うこと、また転写領域が長く、恒常的に発現する遺伝子および分裂細胞で発現する遺伝子に多く認められることが示された。 これらの結果や既知の情報をもとに、「遺伝子転写領域上のDNAメチル化がDNA傷害を抑制する」と仮説をたてた。実際にDNA傷害応答遺伝子の発現解析を行った結果、met1変異体において幾つかのこれら遺伝子および細胞周期マーカー遺伝子が高発現していた。また、トポイソメラーゼIの阻害剤に対してmet1変異体が強い感受性を示した。一方、これらの表現型および発現異常は、トランスポゾン特異的にDNAメチル化を消失するddm1変異体では見られなかった。以上より、遺伝子転写領域のDNAメチル化が、分裂細胞におけるDNA傷害を抑制する可能性を示唆する。 さらに遺伝子転写領域上におけるDNAメチル化制御機構に関与する新規因子を同定するため、遺伝子転写領域DNAメチル化が減少する遺伝子変異体の探索も進め、いくつかの候補変異体の単離に成功している。中には、MET1遺伝子変異体が複数含まれていた。既知met1変異体はトランスポゾンのメチル化も一様に消失することが知られるが、本研究で単離した新規MET1アリルでは、遺伝子転写領域にかなり偏ってメチル化を消失する。その形態学的表現型は強く、変異箇所は機能未知のBAHドメインにあることが明らかとなり、MET1タンパク質のBAHドメインが、遺伝子転写領域のDNAメチル化制御に関係する可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
シロイヌナズナmet1遺伝子変異体を用いた発現解析および情報学的解析および分子生物学的解析をもとに、「活性化状態にある遺伝子転写領域におけるDNAメチル化の機能解明」の端緒となる、新たなモデルを提唱することに成功した。ほ乳類と異なりDNAメチル化の変異体が致死性を示さないモデル植物シロイヌナズナを用いた本研究の成果は、遺伝子転写領域におけるDNAメチル化が、分裂細胞におけるDNAの傷害抑制に機能することを強く示唆する重要なデータである。 さらに、遺伝子転写領域上のDNAメチル化量が減少する遺伝子変異体の単離に繋がる基礎的データの取得や研究材料の整備を進めている。ところが、遺伝子転写領域のDNAメチル化を特異的に消失する変異体の出現頻度が非常に低く、その遺伝子変異体単離に遅延が生じている。しかしながら、一方で、このことは遺伝子転写領域上のDNAメチル化の重要性を強く示唆する。さらに、本研究により同定した、遺伝子転写領域に偏ってDNAメチル化を消失する新規MET1アリルが強い表現型を示すことも、遺伝子転写領域上のDNAメチル化の重要性を示唆する。従って、本研究の進展はやや遅延しているが、今後の研究の発展が期待されると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果は、遺伝子転写領域のDNAメチル化が、分裂細胞におけるDNA傷害を抑制する可能性を示唆する。そこで、遺伝学的および分子生物学的手法を用いて、遺伝子転写領域のDNAメチル化の消失がDNA傷害およびDNA修復に与える影響を調べる。 また一方で、遺伝子転写領域のDNAメチル化が有する生理学的機能として、上記のDNA傷害の抑止以外に、転写スプライシングの制御や遺伝子内部からの異常な転写の抑制など、様々な可能性が考えられる。そこで、遺伝子転写領域のDNAメチル化がもつ機能として考えうるその他の可能性を、多角的に考察し、情報学的手法および分子生物学的手法を用いて検証する。 さらに本研究において、遺伝子転写領域上のDNAメチル化消失変異体の探索により同定した新規MET1アリルは、これまでの解析により、変異個所を機能未知のBAHドメインにもち、遺伝子転写領域に偏ってDNAメチル化を消失する傾向を示すことが明らかとなった。また、この変異体は形態学的にも強い表現型を示す。この新規MET1変異体を用いて、ゲノムワイドにDNAメチル化および転写解析を行い、遺伝子転写領域と転写、表現型の関係を分子生物学的に詳細に解析し、トランスポゾンのメチル化も消失する既知MET1変異体と比較解析することで、遺伝子転写領域のDNAメチル化の減少が植物の転写や形態に与える影響を考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に、変異体探索により得られた変異体を用いてゲノムワイドなメチル化解析および発現解析を行うとともに、その成果について学会発表を行う予定だったが、変異体探索が遅延しているため、本年度中に終了することが出来ず、未使用額が生じた。 このため、ゲノムワイドなメチル化解析と発現解析および学会での発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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