2012 Fiscal Year Research-status Report
送粉者がもたらす植物の多様化:パターンとプロセスの統合的理解にむけて
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24770018
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川北 篤 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (80467399)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | コミカンソウ科 / ハナホソガ属 / 絶対送粉共生系 / 種特異性 / 多様化 / 分子系統解析 / ニューカレドニア / 種分化 |
Research Abstract |
本研究は,ハナホソガ属との送粉共生を進化させることで多様化が加速したと考えられるコミカンソウ科植物に着目し,それらの系統,地理的分布,生育地の選好性,生殖隔離機構を明らかにすることで,送粉者がどのような状況で,どのように植物の多様性を高めるのかを解明することを目的としている。今年度は,152種のコミカンソウ科植物について分子系統解析を行い,得られた分子系統樹から,コミカンソウ科ではハナホソガ属との送粉共生を獲得したことで多様化が顕著に加速していることを示した。本成果を論文としてまとめ,現在学術雑誌に投稿中である。 また,ハナホソガによる送粉がどのように植物の多様化を促進するのかを明らかにするため,ニューカレドニアで著しい多様化を遂げたGomphidium亜属植物について,生育環境,分布,ハナホソガの寄主特異性を調べた。野外調査では31種のGomphidium亜属植物を採集し,実が得られたものについてはハナホソガも採集した。平成25年度にかけて植物の系統関係を明らかにし,植物における最近の種分化がもっぱら地理的隔離によるのか,生息地の分化を伴うのか,ハナホソガの種分化と並行して起こるのかといった問いを明らかにする。 また,共同研究者である京都大学生態学研究センターのDavid Hembryとともに,東ポリネシア諸島に分布するカンコノキ属植物とハナホソガ属の多様化過程を分子系統解析から明らかにし,植物と送粉者の種分化が必ずしも並行的に起こっていないことを示した。 種特異的な送粉者であるハナホソガは,植物の種分化に直接関わることは少ないが,植物の多種共存には大きく貢献していると考えられる。奄美大島で同所的に生育する4種のカンコノキ属植物に関する開花フェノロジー,異種間授粉実験,微小生育環境についてのデータを解析し,植物の共存に送粉者の種特異性が不可欠であることを見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,ハナホソガがコミカンソウ科植物の多様化を促進していることを分子系統解析から示すことができた。またニューカレドニアの調査で得られたサンプルから,多様化の具体的なプロセスについて,今後より詳細な理解が得られると期待できる。東ポリネシアにおけるカンコノキ属の多様化や,奄美大島のカンコノキ属の生殖隔離の研究からは,送粉者がどのように植物の多様化を促すのかに関する知見が着実に得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は再びニューカレドニアで調査を行い,より多くのGomphidium亜属の種について植物,ハナホソガ双方の生態や系統に関するデータを得る。この調査から,植物の種分化はもっぱら地理的隔離によって起こり,ハナホソガが植物の種分化に直接関わるわけではないことを示す。 一方,ハナホソガと共生関係にあるコミカンソウ科の種群では,そうでない種群に比べ,一つの地域に共存する植物の種数が多い傾向がある。そこで今後は,種特異性の高い送粉者であるハナホソガが,より多くのコミカンソウ科植物の共存を可能にすることによって,植物の多様性を高めているという仮説を検証する。具体的には,コミカンソウ科でハナホソガとの送粉共生がみられる世界のいくつかの地域において,共存する植物の種数を文献情報から集め,ハナホソガに送粉される種群とそうでない種群で比較する。その一方で,奄美大島で共存する4種のカンコノキ属植物の生殖隔離機構を明らかにし,ハナホソガとの共生が植物の多種共存に不可欠であることを示す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,平成24年度と同様,主に国内外での野外調査と,分子系統解析用の試薬類を購入するために研究費を使用する予定である。
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Research Products
(13 results)