2012 Fiscal Year Research-status Report
熱帯性カッコウにおける軍拡競争と同所的種分化:寄生雛に見られる視覚擬態の役割
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24770028
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
田中 啓太 立教大学, 理学部, ポストドクトラルフェロー (30625059)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / ニューカレドニア(フランス特別共同体) / オーストラリア |
Research Abstract |
研究実施計画にもとづき,ニューカレドニアにおいて野外調査を行った.その結果,宿主の繁殖巣を22巣発見し,うち10巣において托卵が確認された.また,カッコウ成鳥を捕獲し,3羽から血液採取を行うことができた.また,宿主雛7羽から分光計による反射光の測定を行った.ただし,孵化したカッコウ雛は全て捕獲前に宿主によって排除されたため,分光計測や血液採取は行えなかった.このカッコウ雛の排除により,調査地域においてカッコウ-宿主の軍拡競争が雛排除の段階に到達していることが確実になったが,必要なデータを収集するためには何らかの対策を講じる必要性があることも明らかになった. カッコウ-宿主における雛の色彩の不一致がカッコウの不適応をもたらし,それが生殖隔離要因になっているというのが本研究の中核概念であるが,そのためには実際に雛の色彩が宿主による識別を引き出す刺激になっていることを実証する必要がある.生きた雛に彩色を施し,親による排除行動を誘引することは倫理的な問題が生じうるため,シリコン製の模型雛を作成し,巣に導入する実験を行った.宿主は非常に小型であるため,巣に入るサイズの模型の作成には試行錯誤を要したが,導入された模型雛に対し,餌を運ぶ行動と,巣から排除する行動が確認された.今後は対象巣を増やし,統計的に解析可能な例数を確保する. 寄生者集団内で多型が維持されうる遺伝メカニズムの特定と進化可能性の評価のための集団遺伝学モデルを,米Cornell大学の山道 真人研究員と共同で構築している.これは本研究の中核となる理論であり,また,業界内においてそのような可能性が現時点では認識されていないという点で非常にユニークである.複数の遺伝子発現メカニズムについて単純な進化動態を推定した結果,予測通りの結果が得られた.今後は進化可能性の評価に焦点を当て,より精巧なモデルを構築する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画通りニューカレドニアにおいて野外調査を行い,一定の成果を得た.まず,行動実験については実施可能なプロトコルを確立することができた.今後必要とされているのは例数を増やすことである.つぎに,調査地および方法も確立する見通しがたったと言える.確かに当該年度においては,発見された宿主の巣はあまり多くない.しかし,その原因を特定できた意義は,計画の進捗を考える上で大きい.というのも,調査地であるファリノはニューカレドニアの中でも降雨量が比較的多く,植生も多雨林に近い.一方,試験的に行った調査地は乾燥地帯に位置しており,巣の発見が非常に容易であった.当該年度において重点的に調査を行ったのはファリノにおいてのみであり,乾燥地帯における調査は宿主の繁殖期のピークを過ぎてからであったため発見した巣は既に使われておらず,研究に用いることはできなかった.【今後の研究の推進方策】で詳述するが,次年度以降はこれらの情報を踏まえて調査地の拡充を行う予定である.また,他にも克服すべき問題が明らかになった.こちらも生物学的に不可避的な問題だが,宿主によるカッコウ雛の排除率が高すぎるために,雛の測定が行えないことである.ただし,この問題も回避するべく現地研究協力者であるJorn Theuerkauf博士の協力の下,対策を進めている.詳細は同様に後述する. また,研究実施計画通り,集団遺伝学モデルの構築を開始した.現時点では当初の予測通りの結果を得られており,今後はより目的に合致するよう,精緻化していく予定である. なお,業績にあげた発表などは,本研究の主題との関係は薄いものの,野外調査により副産物的に得られたデータや,購入した機材を用いて得られたデータなどにより作成されたものである.
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請後の情報収集により,ニュージーランドでの実地調査は得られるデータが少ないことが明らかになった.一方,ニューカレドニアにおいては研究計画における仮説について,予想以上に適合している可能性が浮上したため,ニュージーランドでの調査は行わず,野外調査はニューカレドニアで重点的に行う方が効率よく目的に到達できると考えられる.そのため,平成25年以降に予定していたニュージーランド渡航は取りやめ,平成25年度までの予定であったニューカレドニア調査を26年度まで延長する.また,オーストラリアでの調査はタウンズビルで行うと予定していたが,キャンベラのほうが条件が整っているため,少なくとも今年度においてはキャンベラに変更する. 一方,ニューカレドニアにおいて調査はファリノだけで行う予定であったが,本島南部のドゥンベアや本島中部ブーライユで予備的に行った調査の結果,調査地として好適であることが判明したため,これらの地においても調査を行う.また,現時点では調査地がニューカレドニア本島の中南部に限られているため,北部地域においても新たな調査地を開拓する予定である.当該年度の問題点であった宿主巣の発見の困難さはこれで克服できると考えられる. もう一点,当該年度の調査において明らかになった問題点は宿主の排除率の高さにより,カッコウ雛の計測が行えないことであった.そこで,今後は托卵された巣を発見した際,孵化直前のカッコウ卵を回収し,市販の孵卵器を使用して人工孵化させ,分光計則および採血を行う.その後は速やかに元の宿主の巣に戻す.自然状態での雛排除率の高さを考えれば,たとえその個体が宿主によって排除されたところで,人為的な操作の影響である可能性は低く,倫理面での問題は生じないだろう.現在,必要な許可申請を研究協力者に依頼している. 上記以外ではとくに大きな変更点はない.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
8月に1~2週間ほどオーストラリアに渡航し,キャンベラにおいて当地の研究者との研究交流および野外調査を行う.また,10月から12月にかけてニューカレドニアに渡航し,野外調査を行う.ただし,他業務との兼ね合いから長期滞在は困難であり,渡航は複数回に分けるか,研究協力者を派遣するという形で行う.研究費の大部分はこれらの渡航費用に当てられる.また,調査に必要な映像用・記録用機材を購入する.
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