2012 Fiscal Year Research-status Report
鉄酸化独立栄養細菌が優先する微生物群集は深海底下に存在するか?
Project/Area Number |
24770032
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
加藤 真悟 独立行政法人理化学研究所, 微生物材料開発室, 基礎科学特別研究員 (40554548)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 海底下微生物圏 / 鉄酸化独立栄養細菌 |
Research Abstract |
海洋性の鉄酸化独立栄養細菌を含む微生物分類群Zetaproteobacteriaが2007年に新たに提唱された。この分類群は、巨大海底下微生物生態系の成り立ちや、地球規模での物質循環を理解する上でのキープレーヤーとされている。しかしながら、その代謝機能や海底下における分布範囲などの具体的な情報は皆無に等しい。本研究では、(1)海底下におけるZetaproteobacteriaの分布範囲および存在量、(2)Zetaproteobacteriaに属する微生物種の生理学的特徴、の2点を明らかにすることを目的とする。 平成24年度に行ったことは以下の通りである。南部マリアナトラフ海底熱水域にて海底掘削装置を用いて採取した岩石コアを分析試料とし、各岩石コア試料の深度方向に適宜間隔をあけ、それぞれの一部分からDNAを抽出した。抽出したDNAを鋳型として、バクテリア及びアーキアを標的にした16S rRNA遺伝子プライマーを用いてPCRを行った。いくつかの試料において、遺伝子断片の増幅が確認された。1つのコア試料に焦点を絞り、3つの異なる深度の部分から得られたPCR増副産物をクローニングし、塩基配列決定まで行った。その結果、深度ごとに異なる微生物群集が存在することが明らかとなった。Zetaproteobacteriaは深度1m以上からは検出されなかった。海底下のZetaproteobacteriaの分布範囲を知る上で重要なデータである。この結果はAGU Fall Meeting 2012でポスター発表し、現在論文を投稿中である。また、岩石コア試料に鉄酸化菌がいるかどうかを視覚的に確認する必要がでてきたため、米国デラウェア大学のChan研究室に短期留学し、岩石コア試料の電子顕微鏡観察を行った。その結果、鉄酸化菌が産出したと予想される構造体の観察に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
既に一年目にして、一部のコア試料の16S rRNA遺伝子解析結果がまとまっており、学会発表および論文投稿までこぎ着けた。この解析結果から、海底下におけるZetaproteobacteriaの分布範囲に関する重要な知見を得ることができた。DNA抽出はほぼすべての岩石コア試料について完了し、バクテリアとアーキアの16S rRNA遺伝子のPCR増幅までは完了しているが、配列決定まで進められたのは一部の試料にとどまっている。炭酸固定遺伝子を標的にしたPCRまでには至っていない。培養においては、現在までのところGammaproteobacteriaのHalomonasやMarinobacterの増殖は確認できたが、Zetaproteobacteriaの増殖は確認されていない。よって、当初の予定からはやや遅れていると判断せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、16S rRNA遺伝子解析および炭酸固定遺伝子解析を完了させる。そのために、次世代シーケンサーを用いた配列解析を新たに取り入れる。その後、定量PCRおよびFISHを行い、Zetaproteobacteriaの存在量と分布範囲を決定する。平成24年度で得られた結果から、分離培養は深度の深い岩石コア試料からは難しいと判断し、海底面付近の試料に限定して培養を試みる。既に端緒的ではあるが、鉄酸化菌に特徴的ならせん状の構造体を産出する微生物の集積培養に成功しているため、この微生物の分離にまずは集中する。分離できた場合は、次世代シーケンサーを用いたゲノム解析まで行うことで、定量PCRやFISHで用いるプローブ・プライマーの設計に必要な配列情報を得る。標的とする遺伝子は、炭酸固定遺伝子と鉄酸化酵素遺伝子である。分離の生理学的特徴も合わせて決定する。また培養には新鮮な試料が必要であるため、海底面の試料を新たに採取して、Zetaproteobacteriaの分離培養を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度未使用額が生じたのは、本年度において研究室の移転があり、実験室の環境が整うまでしばらく時間がかかり、その間は研究を進めることができず、当初の予定通りに実験を行うことができなかったためである。 平成25年度の研究費は、(1) 従来通りのPCRクローン解析に必要となる試薬及び機器使用料、(2) 次世代シーケンサー解析を用いた個々の遺伝子解析およびゲノム解析に必要となる試薬及び機器使用料、(3) 定量PCRおよびFISHで用いるプライマーやプローブの作成料、(4) 分離培養に必要となる試薬や消耗品、(5) 試料採取および研究成果発表に必要となる旅費に用いる予定である。
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