2012 Fiscal Year Research-status Report
チオレドキシンによる光合成生物のニトロゲナーゼの活性制御機構の解明
Project/Area Number |
24770040
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
野亦 次郎 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (40583216)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 窒素固定 |
Research Abstract |
Trxはほぼ全ての生物に普遍的に存在し様々な代謝系を触媒する酵素(蛋白質)の活性を調節する重要な蛋白質である。Trxは、その活性部位にある2つのシステイン残基のチオール基(-SH)によって標的蛋白質のジスルフィド結合(S-S)を還元する『ジチオール-ジスルフィド交換反応』を触媒する。この反応により標的蛋白質の活性が調節される。最近、私達は、窒素固定性ラン藻、Anabaena sp.PCC7120(A.7120)において、Trxが窒素固定酵素ニトロゲナーゼと相互作用するという興味深い結果を得た。ニトロゲナーゼは分子状窒素(N2)をアンモニアに還元する複雑な金属酵素であり、この地球上における全窒素固定量の50%を占めるなど、窒素動態において極めて重要な酵素である。ニトロゲナーゼは還元コンポーネント(NifHホモ二量体)と触媒コンポーネント(NifD-NifKヘテロ四量体)から構成されるが、そのいずれも『金属中心』を保持しているため、分子状酸素に触れると数分で不可逆的に失活する。本研究では、ニトロゲナーゼについて嫌気条件下での生化学的解析の研究基盤の構築およびTrxによる活性制御機構の解明を試みている。申請者はこれまで、大腸菌を用いた発現系を構築し、ニトロゲナーゼの活性型発現を試みてきた。分子シャペロンとの共発現系の構築により、可溶化したタンパク質を得ることが出来たが、金属中心の形成が行われなかった。そこで、新たに紅色細菌を用いた発現系の構築を行い、A.7120に由来するニトロゲナーゼの活性型発現を試みた。嫌気チャンバーを利用し紅色細菌の細胞抽出液からニトロゲナーゼの精製を試みたところ、金属中心の形成されたNifHタンパク質を得ることに成功した。現在、NifD-NifKタンパク質についても検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度の目標は(1) ニトロゲナーゼの大量発現系および活性測定系の構築と(2) Trxとニトロゲナーゼの分子間相互作用の検討である。(1)について、申請者は大腸菌を用いた分子シャペロンとの共発現系により、NifHタンパク質を可溶性画分に発現させ、精製することに成功したが、精製タンパク質は還元活性に不可欠な[4Fe-4S]型鉄硫黄クラスターを保持していなかった(apo型)。そこで、新たに窒素固定能をもつ紅色細菌を用いた発現系の構築を行い、A.7120に由来するニトロゲナーゼのNifHおよびNifD-NifKタンパク質の活性型発現を試みた。紅色細菌の発現株を培養後、嫌気チャンバー内で紅色細菌の細胞抽出液を調整し、アフィニティータグを利用して精製を試みたところ、金属中心の形成されたNifHタンパク質を得ることに成功した。一方、NifD-NifKタンパク質は、紅色細菌を用いた発現系でも大量発現および精製することが出来なかった。 (2) について、申請者はTrxAとNifHタンパク質の相互作用を様々な実験から検討中である。TrxAによるニトロゲナーゼ活性の制御を検証するためには、精製したNifHタンパク質とNifD-NifKタンパク質の両方を用いたin vitro活性再構成系によって評価する必要がある。NifD-NifKタンパク質の活性型発現と精製が必須である。現在、窒素固定細菌Azotobacter vinelandii (A.vinelandii) を用いた大量発現系、およびラン藻A.7120を用いた大量発現系を構築し、NifD-NifKタンパク質の活性型発現を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まずNifD-NifKタンパク質の活性型発現を目指す。現在、(1)窒素固定細菌Azotobacter vinelandiiを用いた大量発現系、および(2)ラン藻A.7120を用いた大量発現系を構築している。Azotobacter vinelandiiにおいて、窒素源の欠乏がシグナルとなりニトロゲナーゼおよびその成熟化酵素群が発現しNifD-NifKタンパク質の活性化が促進されることが知られている。そこで、窒素欠乏時に誘導がかかるプロモーターによってA.7120のNifD-NifKタンパク質を発現させる。また、A.7120において、ニトロゲナーゼはヘテロシストと呼ばれる窒素固定に特化した細胞内で発現することが知られている。そこで、ヘテロシスト形成を促進する転写調節因子HetRも共発現させ、NifD-NifKタンパク質の大量発現を促進させる。また、(2) Trxが標的とするシステイン残基の同定を行う。NifHタンパク質とNifD-NifKタンパク質の構成アミノ酸残基のうち、TrxAがどのシステイン残基を標的としてジチオール-ジスルフィド交換反応を行うのかを調べる。各蛋白質を酸化剤またはTrxAを用いて処理したのち、ペプチダーゼ処理により断片化し、逆相高速液体クロマトグラフィーによって断片を分離する。得られた配列情報に基づいて、TrxAが標的とするシステイン残基を同定する。さらに、(3) A.7120において、TrxAがニトロゲナーゼ活性を制御することの生理的な意義を調べるため、TrxAがターゲットとするシステイン残基をアラニンに置換した変異型NifHタンパク質およびNifD-NifKタンパク質をニトロゲナーゼ構造遺伝子の破壊株に導入する。これらの変異型蛋白質を発現するラン藻を、様々な酸化還元条件下で生育させ、野生株と比較して窒素固定能にどのような変化が現れるかを調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当無し
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