2012 Fiscal Year Research-status Report
リプログラミングを促進するRNA結合タンパク質PpCSPの分子機能の解明
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24770051
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
玉田 洋介 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (50579290)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | リプログラミング / RNA / 植物 / 発生 |
Research Abstract |
これまでに我々は、ヒメツリガネゴケにおいて幹細胞に強く発現するPpCSPがリプログラミングの促進に機能することを明らかにした。さらに、PpCSPは動物における誘導多能性幹細胞化因子の一つLin28のホモログであることを発見した。PpCSPおよびLin28は細胞質に局在するRNA結合タンパク質であることが共通している。しかしながら、リプログラミングを制御するLin28の代表的な標的RNAは植物に保存されておらず、PpCSP/Lin28によるリプログラミング促進の分子機構は動植物間で異なると考えられる。本研究では、PpCSPの (A) 標的RNAおよび (B) 相互作用タンパク質を同定することで、PpCSPによるリプログラミング促進の分子機能を解明することを目的とする。 (A) PpCSP1-YFPノックイン株と抗GFP抗体を用いてRNA免疫沈降法を行い、得られたRNA分子を大規模シーケンスするRNA免疫沈降―シーケンス法 (RIP-seq) により、PpCSPに結合するRNA分子を網羅的に同定することを試みた。まず、免疫沈降の前にpoly A tail精製を行ってmRNAのみを濃縮したmRIP-seqを行ったところ、ネガティブコントロールと比べて明らかに高いmRNAの濃縮が観察された。PpCSPの標的RNAの一部はmRNAであることが示された。また、そのmRNAのパターンはポジティブコントロールであるInputとほぼ同じであった。この結果は、PpCSPがほぼ全てのmRNAと結合していることを示唆している。 (B) PpCSP1-YFP株と抗GFP抗体を用いた免疫沈降法によりPpCSPを含むタンパク質複合体を単離したのち、高速液体クロマトグラフィー―質量分析法 (LC/MS) により複合体に含まれるタンパク質のアミノ酸配列を決定し、PpCSPの相互作用相手を網羅的に同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の当初の研究目的は (A) 植物を用いたRIP手法の確立とPpCSPが標的とするRNA分子の種類の同定、野生株とPpCSP遺伝子欠失株を用いたトランスクリプトーム比較、および (B) PpCSPと相互作用するタンパク質の網羅的な同定であった。 (A) については、現在トランスクリプトーム解析の実験中で当初計画よりやや遅れているが、RIPについてはmRIP-seqに成功するなど当初の計画以上に実験が進展している。また、 (B) については、PpCSPに結合するタンパク質を複数同定することに成功しており、計画通り順調に実験が進展している。以上の状況から、「 (2) おおむね順調に進展している。」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
RIP-seqではPpCSPがほぼ全てのmRNAに結合するという結果が得られたが、特異的に結合するmRNAをうまく単離できていない可能性が考えられた。そのため、現在最も精度よく結合RNAを単離できるとされているHigh-throughput sequencing of RNAs isolated by crosslinking immunoprecipitation (HITS-CLIP) 法を行い、上記の結果を検証する。これまで植物組織を用いてHITS-CLIP法を行った例は存在せず、植物組織を用いた手法の確立から行う。その後、poly A tail精製を行ってmRNAのみを濃縮するHITS-mCLIPや、mRNA、rRNAを除去して低分子RNAを含む非コードRNAのみを濃縮するHITS-ncCLIPを行い、PpCSPの標的RNA分子を解明する。 PpCSPはRNAの成熟、分解、輸送、翻訳などを制御していると考えられる。野生株とPpCSP遺伝子欠失株におけるmRNA、ncRNA、低分子RNAのトランスクリプトーム比較を行うことで、PpCSPが成熟と分解に関与するRNA分子を網羅的に同定する。 以上の解析で同定したPpCSPの標的RNAや相互作用タンパク質がリプログラミングに機能しているか調べるため、標的RNAや相互作用タンパク質をコードする遺伝子の欠失株および誘導過剰発現株を作出し、リプログラミングの表現型を観察する。リプログラミングの遅延や促進の表現型を示した遺伝子については、tagRFP遺伝子のノックイン株を作出し、PpCSP1-YFPと一緒にその発現を観察することで、PpCSPとどのように相互作用しながらリプログラミングを制御しているのかを解明する。以上の実験によって、PpCSPによるリプログラミング促進の分子機構を解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
RIP-seqやトランスクリプトーム解析などのオミクス解析のためには、ヒメツリガネゴケの大量培養と、そうした大量の組織からのRNA抽出が必要となる。また、LC/MS によって得られたPpCSPの相互作用タンパク質は数多く、さらにHITS-CLIPによってPpCSPの標的RNAも複数得られると考えられる。こうしたPpCSPの相互作用タンパク質や標的RNAをコードする数多くの遺伝子について欠失株・過剰発現株の作出を行う予定である。以上の実験を効率的に行うため、ヒメツリガネゴケの大量培養とRNA抽出、また形質転換用DNAの調整を主に行う研究補助員を雇用する。 また、消耗品費として主に次世代シーケンサーの試薬代、ヒメツリガネゴケ培養器具代、形質転換用DNA調整試薬代を計上する。さらに、研究協力者との年数回の研究打合せ、国内学会と海外学会への参加と成果発表を各1回ずつ計画している。そのための旅費を計上した。こうした打合せや成果発表を通じて、本研究へのフィードバックを得ると同時に、積極的に研究成果の発信に努める。
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