2013 Fiscal Year Research-status Report
イモリの性フェロモン、ソデフリンの受容機序とその個体群差に関する研究
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24770061
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
中田 友明 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (50549566)
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Keywords | フェロモン / 両生類 / 繁殖行動 / 個体群差 |
Research Abstract |
性フェロモンが動物の繁殖に関わる重要な因子の1つで、産業的運用が模索される一方、その作用機序や、性フェロモン自体の個体差、系統差がいかなる生物学的機序によっているかは未解明の課題であります。代表者は両生類で性行動を直接誘起する性フェロモン(ソデフリン)に、地域変異があり、その差異が配偶者選択に影響することを見出しました。これはフェロモンの分子進化が生殖隔離ひいては種分化の主な原因となり得ることを示唆する初めてのデータでした。本研究は、性フェロモンによる生殖制御・隔離機構を解明するため、主に以下の3つの研究項目について遂行しました。 A. 性フェロモン受容体の分子生物学的同定と発現調節機構の解明: フェロモン応答細胞のライブイメージング技術を開発し、フェロモン受容のシグナル伝達機構とホルモンによるフェロモン応答細胞数の調節を解明し、論文として発表した。また、複数のフェロモン受容体候補遺伝子を同定した。 B. フェロモン作用中枢の神経回路の組織学的解明: フェロモン受容系を含む嗅覚系の組織学的な解析を行い論文発表した。フェロモン受容細胞の位置する鋤鼻器と腹側嗅上皮にはそれぞれ2型鋤鼻受容体と特異共役するGタンパク質(Gαo)の発現が確認され、その軸索が副嗅球のみへ投射していることを明らかにした。 C. フェロモンの種間・個体群間での解析: 性フェロモンに地域差を認める奈良地域以外の九州、東北、関東個体群では、ソデフリン遺伝子のみが確認された一方で、ソデフリンと相同なフェロモンである「シレフリン」を発現するとされていたシリケンイモリにおいて、奄美大島産の亜種ではシリフリンの発現が認められず、これまでアカハライモリ特有と考えられてきたソデフリンの遺伝子が発現しているのと同時に、これまで知られていなかった新規のソデフリン相同ペプチドをコードする遺伝子が発現していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、筆頭著者として2報の論文を研究成果として学術誌へ発表することができました。 一報目は、前年度までに開発したフェロモン受容細胞のライブイメージング技術を用いて、フェロモン受容細胞内のシグナル伝達機構と、ホルモンによるフェロモン受容応答性の調節機構を明らかにしたものであり、二報目は、フェロモン受容細胞の組織内局在と脳内への投射回路を解析したものであります。これら両論文の内容を合わせて、性フェロモンの受容神経系におけるリガンド受容から一次感覚中枢までの情報処理の流れを明らかにすることに成功したと考えられます。 一方で当該年度においては、個体郡間でのフェロモンの地域性に対しても新たな発見がありました。奄美大島(鹿児島県)に生息するシリケンイモリでは、沖縄県産のシリケンイモリにみられるシレフリンとよばれるソデフリン相同フェロモンの前駆体遺伝子を発現しておらず、アカハライモリにみられるソデフリンと同じペプチドをコードする遺伝子に加えて独自の相同ペプチドを持つ可能性が見出されました。このことは、性フェロモンの分子進化と種分化の関連性を考察する上で、新たな発見を導く事象であろうと考えております。 上記のような成果を鑑みて、当該年度における達成度は概ね順調に進展したと考えています。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は最終年度の研究総括へ向けて、これまでの研究を通じて生じた新たな疑問や、更なる性フェロモン受容機序の解明を目的として、主に以下の3点において研究を進める方策である。 A. 性フェロモンの脳内作動回路の解析: フェロモンの一次感覚中枢である副嗅球へ伝達された性フェロモンの受容情報が最終的に雌個体の性行動を誘起するまでの道程を、更に高次の脳機能中枢において解析によって明らかにする。具体的には神経活動のマーカーとしてリン酸化ERKに対する抗体を用いて、ソデフリン作動時に活性化される脳神経系、神経細胞の同定を行う予定である。 B. 得られたフェロモン受容体遺伝子の機能とその内分泌学調節機構の解明: イモリのフェロモン受容細胞に発現するフェロモン受容体と目される2型鋤鼻受容体について、イモリゲノムからスクリーニングし、約100個のフェロモン受容体遺伝子の断片長配列を同定しているが、今後in vitroでの結合実験や組織内での発現調節機能を調べる。具体的には2型鋤鼻受容体と共役するGタンパク質を安定発現させたCHO細胞に、同定した受容体遺伝をさらに導入させて、個々のの受容体のリガンドを既存のライブイメージング技術を用いて調査する予定である。 C. フェロモンの種間・個体群間での解析: 新たに奄美大島のシリケンイモリで発見された新規フェロモン候補分子の性フェロモン活性の有無や、アカハライモリと共通に発現するソデフリンが該当個体群において持つ機能を明らかにすることで、更なる性フェロモンの分子進化と種分化の関連性を見出す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当年度末に科学論文の投稿を行い、研究補助金からの論文投稿料の支払いを考えていたが、査読期間が延長し、掲載決定が次年度となったため。 前年度に投稿した論文の投稿および出版に関わる費用を、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する計画である。
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