2013 Fiscal Year Research-status Report
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24770081
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
菊地 賢 独立行政法人森林総合研究所, 森林遺伝研究領域, 主任研究員 (10353658)
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Keywords | 交雑種分化 / ヤナギ / 核遺伝子 / 網状進化 / EST |
Research Abstract |
雑種由来の系統が種として進化する「交雑種分化」は、近年、植物の種分化を促す重要な要因のひとつとして注目されている。本研究では、こうした雑種種分化のメカニズムの解明を目指し、種間交雑を頻繁に生じるヤナギ属植物のうちから、ネコヤナギとエゾヤナギの中間的な形質を持つ本州北部固有の絶滅危惧種ユビソヤナギ(Salix hukaoana)を選び、ユビソヤナギの雑種起源仮説の検証と種分化メカニズムの解明を試みることを目的としている。 本年度は、Populus 属のEST から設計されたプライマ36 組を用い、ユビソヤナギ・エゾヤナギ・ネコヤナギに加え、キツネヤナギ・バッコヤナギ・オノエヤナギを含むヤナギ属植物で系統解析を行い、系統樹を構築した。さらに、こうして得られた多数の系統樹を統合して網状系統樹(Split network)を構築した。 その結果、エゾヤナギ・ネコヤナギ・ユビソヤナギの3種は互いに近縁であり、種分化時において種間の遺伝子流動が生じた可能性が示唆された。しかしこれら3種の系統的独自性は高く、ユビソヤナギがエゾヤナギとネコヤナギとの二倍体雑種起源であるという仮説は否定された。一方、キツネヤナギ・バッコヤナギ・オノエヤナギは、種としての系統的類似性を保持しているが、複雑なネットワークを形成し、種分化後の頻繁な種間交雑によって網状進化を遂げている可能性が示唆された。 このように、ヤナギ類をはじめ、種間交雑を生じやすい植物において、その進化史や分類学的位置づけを解明するうえで、ゲノム情報を利用した複数核遺伝子の解析による網状系統樹の作成が有効な手段であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究においては、ユビソヤナギという材料を用い、それがエゾヤナギとネコヤナギの雑種種分化により進化したことを実証し、そのうえで、そのメカニズムを解明することを目標としている。しかし、研究の結果、ユビソヤナギはエゾヤナギとネコヤナギと交雑を繰り返している者の、独立した種であり、両種の雑種種分化によるものではないことが示唆された。そのため、研究対象の範囲をヤナギ属全体に広げ、雑種種分化や交雑が種分化にもたらした影響について、解明をこころみている。
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Strategy for Future Research Activity |
ユビソヤナギは、当初の仮説とことなり、エゾヤナギとネコヤナギの交雑種分化に由来するものではなかったが、ユビソヤナギ・エゾヤナギ・ネコヤナギの3種は互いに近縁であり、また、種間の交雑も示唆された。また、ヤナギ属では、広範な網状進化が示唆された。そこで本年度では、ヤナギ属全般における網状進化に焦点をあて、多数の核遺伝子を用いたネットワーク解析によって、網状進化様式の解明をおこなう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度は、前年度の実験データの解析に時間を費やしたため、予想よりも試薬等の消耗品に使用した額が少なかった。 次年度においては、ユビソヤナギ・エゾヤナギ・ネコヤナギを含めたヤナギ属植物について広くサンプリングを行う必要があり、また、それらについてDNA抽出や遺伝子配列解析をおこなう予定である。
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Research Products
(1 results)