2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24770090
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西田 紀貴 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (50456183)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 核磁気共鳴法 / 電子顕微鏡 / 分子モーター |
Research Abstract |
細胞質ダイニンは微小管上を移動する分子モーターであり、細胞内輸送や細胞分裂の際の染色体分配などを司る。ダイニンの微小管上の連続的な運動性(processivity)は、ATPase ドメインのATP 加水分解と連動して、微小管結合ドメイン(MTBD)が高親和性状態と低親和性状態の間をスイッチすることに由来する。しかし、ATPaseドメインとMTBDは15nmの長いコイルドコイル鎖によって隔てられており、ダイニンの微小管親和性を制御する構造メカニズムは不明である。本研究では、コイルドコイル鎖にS-S結合を導入してMTBDの構造を低親和性および高親和性状態に固定した変異体を用いて、これらの立体構造および微小管との複合体構造をNMR 法とクライオ電子顕微鏡法によって解析し、ダイニンの微小管親和性制御機構を明らかにすることを目的とする。 本年度は、分子内S-S結合を導入して、高親和性状態・低親和性状態を模倣したMTBD-High, MTBD-Lowの構造をNMR法により決定した。その結果、MTBD-High, MTBD-Lowはともに6本のへリックス(H1-H6)と逆平行コイルドコイル鎖(CC1・CC2)からなる構造をとることが明らかとなった。両者の構造を比較すると、顕著な構造変化がS-S結合を導入したC末端側のコイルドコイル領域、H1へリックスの領域に存在することが分かった。また、転移交差飽和法により、MTBD上の微小管結合部位を同定した。その結果、MTBD-LowではH1, H6のみが相互作用していたのに対して、MTBD-HighではH1とH6に加えてH3を含めたより広い結合界面が形成されていることが明らかとなった。以上より、MTBDはコイルドコイル鎖の会合状態の変化に伴って、微小管結合部位の構造が変化し、微小管に対する親和性が制御されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度までに、実施計画通り、高親和性および低親和性状態のMTBDの立体構造の決定と、微小管結合部位の同定を行なうことができた。NMR構造決定の収束度を示すRMSD値(主鎖)は、MTBD-Lowで0.6Å、MTBD-Highで0.9Åであり、十分収束している。しかし、今後より詳細な比較を行なうために、さらに構造決定の精密化を行っていく予定である。また、MTBD-HighとMTBD-Lowの微小管結合界面についても、転移交差飽和法により決定することができた。今後は、MTBD微小管複合体の構造を電子顕微鏡により解析し、H24年度のNMR解析の結果とあわせることで、MTBDの微小管認識機構を解明するという目的が達せられると見込んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度は電子顕微鏡を用いたMTBD/微小管複合体の構造解析を進める。より高い分解能の立体構造を得るため、単粒子解析法を利用した再構成法を採用し、10Å以上の分解能の複合体密度マップを得ることを目指す。また、これまでにMTBD-Highの溶液構造については、Pf1ファージなどを用いた配向媒体中で残余双極子相互作用を観測して構造計算に組み入れることにより、より精度の高い構造決定を行なう。得られた複合体マップと単独のMTBDおよび微小管のPDB構造を用いて、複合体のドッキングモデルの構築を行ない、高親和性状態におけるMTBDの微小管認識機構を明らかにする。加えて、全長ダイニンのコンストラクトを用いた変異実験を行なうことにより、明らかにした複合体モデルの妥当性を評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、複合体モデルの妥当性を評価する目的で、全長ダイニンおよびその変異体の構築・発現を行なう。そのために、遺伝子操作試薬、タンパク精製のためのカラム担体などを購入する。また、構造決定の際に残余双極子相互作用の情報を組み入れることで、MTBD-High、MTBD-Lowの構造をさらに精密に決定する。そのために、安定同位体標識試薬や配向媒体(Pf1ファージ)を購入する。
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