2012 Fiscal Year Research-status Report
炭素源変化により亢進するO型糖鎖の脱離反応はどのような生理機能を持っているのか?
Project/Area Number |
24770136
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
平山 弘人 独立行政法人理化学研究所, 糖鎖代謝学研究チーム, 特別研究員 (50525847)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 遊離糖鎖解析 / 新規遺伝子探索 |
Research Abstract |
タンパク質への糖鎖付加は真核生物に共通の翻訳後修飾であり、様々な生体内プロセスにおいて重要な役割を果たしている。リソソームや細胞質にはタンパク質と結合しない状態の糖鎖(遊離糖鎖)が存在することが知られるが、この遊離糖鎖生成・代謝の生物学的意義については不明な点が多い。そこで我々は出芽酵母をモデル系として遊離糖鎖の構造、および生成・代謝の生物学的意義の解析に取り組んだ。その結果、出芽酵母も高等生物同様、多様な構造の遊離糖鎖を細胞質に蓄積していた。また、酵母細胞内で異常糖蛋白質が合成されてから分解されるまでの一生涯は、生成された遊離糖鎖の解析・定量によりモニター可能であること示してきた。 更に遊離糖鎖生成・代謝の生理的役割について検討するために、出芽酵母を種々の炭素源を含む培地で培養し、遊離糖鎖生成の変化を解析した。その結果、マンノースを炭素源とした培養条件下で出芽酵母は、今まで報告のないようなO-結合型糖鎖と同じ構造を持つ遊離糖鎖を生成することを見出した。この遊離糖鎖は、O-結合型糖鎖の生合成を欠損した変異株では生成されないことから、未知のエンド型 O -マンノシダーゼの働きによりこの遊離糖鎖が生成されている可能性が強く示唆された。マンノースを炭素源とした培養条件へのグルコースの添加が遊離O型糖鎖の生成を阻害すること、グルコース抑制に係るある特定の転写抑制因子の破壊株は、マンノースを炭素源とした培地で野生株の10倍量の遊離O型糖鎖を生成することが観察された。また、この株は遊離糖鎖過剰生成が原因とみられる細胞壁欠損およびそれに起因する生育阻害を引き起した。これらのことから遊離O型糖鎖の生成は転写レベルで厳密に制御されていることが強く示唆された。現在この株の表現型解析に基づいた遊離O型糖鎖生成に関わる因子の探索を試みている
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は新規O-マンノシダーゼのクローニングを、酵素活性を指標にしたタンパク精製によって同定する予定であったが、予想以上に細胞内のプロテアーゼ活性が高く基質が分解しやすく、解析が困難な状況であった。 一方、O-マンノシダーゼの発現・作用の意義の解析を通じて、発現調整に関わる転写抑制因子の同定ができた。この特定の転写抑制因子の機能が損なわれると、細胞内におけるO-マンノシダーゼ活性の著しい上昇と、それに伴う遊離O型糖鎖の著しい細胞内への蓄積が観察された。さらに、タンパク質上の脱糖鎖反応の亢進から細胞壁の欠損および細胞の生育阻害がみられた。これらのことから遊離O型糖鎖の生成は転写レベルで厳密に制御されていることが強く示唆された。この新たな機構の解明により、分子遺伝学的なスクリーニング方法を駆使することで、新規O-マンノシダーゼのクローニングが出来る可能性が出てきた。また、現在行なっている本スクリーニング方法を用いた実験の進展も順調であることから上記のような達成度であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
グルコース抑制に係る、ある特定の転写抑制因子の破壊株は、マンノースを炭素源とした培地で野生株の10倍量の遊離O型糖鎖を生成することが観察された。この株における遊離O型糖鎖生成の劇的な増加は、細胞内糖タンパク質上のO-結合型糖鎖の減少を引き起こし、最終的には細胞壁欠損に起因する生育阻害を引き起した。これらのことから遊離O型糖鎖の生成は転写レベルで厳密に制御されていることが強く示唆された。この生育阻害という表現型を利用して、この表現型を抑圧するような変異株を探索中である。 取得できた抑圧株群の中にO-マンノシダーゼをコードする遺伝子への変異を持った株が存在する可能性が高く、現在、取得できた変異株の変異点同定を行なっている段階である。この遺伝子スクリーニングによる遺伝子同定後は、コード遺伝子産物の試験管内での酵素の解析、細胞内での本酵素の生物学的な役割(意義)の解明に向けた解析を行なっていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究概要欄に前述のように、当初は生化学的な手法のみで目的遺伝子の同定を行う予定であり、多くの費用がかかると予想した。従って、初年度の研究費使用額を次年度に比べて多めに要求したが、分子遺伝学的な手法を用いて目的遺伝子を同定する方法へとアプローチの変更を行ったために、分子生物学実験に必要な実験試薬の購入のみで実験が済むことになった。その結果、H25年度への繰越額107,403円が生じた。H25年度は前年度より多くの生化学的な実験および分子生物学的実験をおこなう計画であるので、両手法の実験遂行に必要な試薬購入に研究費を使用する予定である。
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