2012 Fiscal Year Research-status Report
プロトン駆動型細菌べん毛モーターのメカノケミカルサイクルの分子機構
Project/Area Number |
24770141
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 修一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90580308)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 分子モーター / べん毛モーター / メカノケミカルサイクル / 一分子計測 / 回転ステップ |
Research Abstract |
本研究では、水素イオン駆動型細菌べん毛モーターにおけるエネルギー変換機構の解明を目的として、高輝度な金属ナノプローブと超高速センサーを組み合わせた一分子ナノ計測システムを構築し、べん毛モーターのエネルギー変換素過程(回転ステップ)の検出を目指す。24年度は、べん毛モーターの高速回転ステップを検出するための顕微計測システムの構築と予備的計測を目標とした。 <顕微計測システムの構築>He-Neレーザーによって照明された直径60 nmの金ナノ粒子の散乱像を、対物レンズ(100倍)を通して高速4分割センサー表面に投影したところ、センサー面(直径1 mmの円形)に対する散乱像の拡大が不十分であることが分かった。そこで、カメラポート付近の1次結像面で得られる散乱像を10倍拡大する光学系を構築した。 <予備的計測>べん毛モーターには通常10個程度の固定子が存在する。エネルギー変換の素過程を検出するには、固定子数を1個まで減らす必要がある。そのため、固定子を欠損した突然変異型サルモネラ菌に固定子蛋白質MotA/MotBをコードしたアラビノース誘導型プラスミドを導入し、アラビノースの添加量によって固定子発現量を制御した。本研究では、べん毛ロッドまたはフックを金属ナノ粒子で標識することを最終目標としているが、本年度は、べん毛繊維を金または銀のナノ粒子で標識して予備実験を行った。サルモネラ菌のべん毛繊維に付着して回転する金ナノ粒子または銀ナノ粒子の散乱像をセンサー表面に投影し、1μ秒の速度で、ナノ粒子の変位に依存した電圧変化を検出することに成功した。最高300 Hzで回転するべん毛モーターの回転原理を解明するにはマイクロ秒での計測が必須であるが、これほどの時間分解能で計測が行われた例はほとんどない。本年度の成果を足掛かりに、これまでにない計測データが高精度に収集できることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、計測システムの構築と、生物試料(サルモネラ菌)を用いた予備実験を目標とした。実験開始前の懸念事項として、べん毛繊維を金属やポリスチレンなどの微小プローブで標識したサルモネラ菌を一般的な暗視野照明法で観察すると、菌体由来の前方散乱のため、金ナノ粒子の散乱検出が妨げられることが挙げられた。しかしながら、レーザーを用いた斜光照明を行うことにより、CCDカメラによる観察では、シグナルが飽和するほどの高輝度な金ナノ粒子の散乱を得ることができた。高速4分割センサー設置のために本年度作製したCマウントアダプターは、顕微鏡のタイプによらず、センサーをカメラポートに直接設置できる点で非常に利便性が高く、今後の計測実験(特に0.5~1μmのプローブを用いた回転計測)でも大いに役立つことが期待される。これらの点で、当初の計画を上回る成果が得られたと言える。また、べん毛繊維に付着させた金または銀のナノ粒子の変位を、高速センサーを通し電圧変化として検出することに成功した点は、計画通りの進展である。アラビノースを用いた固定子発現量の制御についても、様々な検討実験を通して最適な条件を決定することができ、予定通り進展したと言える。一方、本年度はべん毛ロッドまたはフックへの標識実験を行うに至っておらず、この点は計画よりもやや遅れている。 以上の進捗状況を総合的に判断し、本年度の達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に構築した顕微計測システムを用いて、サルモネラ菌べん毛モーターの回転ステップ計測を行う。初めに、100 Hz以上で回転するべん毛モーター(固定子数は1個に制御)のべん毛繊維に直径60 nmの金ナノ粒子を付着させる条件で、回転ステップ検出を行う。本実験で得られるデータを解析することによって、野生型べん毛モーターのエネルギー変換に関する基本的な情報が得られると期待できる。その後、標識部位をロッドまたはフックに変更し、同様の計測を行う。標識部位の変更にあたっては、分子生物学的実験(変異体の作製)が必要になる。 25年度は、べん毛モーターのエネルギー変換モデル(Nakamura et al., 2009)で仮定される反応プロセスに異常が生じた突然変異型べん毛モーターの計測にも着手する。計測予定の変異型モーターの第一候補として、プロトンの透過活性が低下したMotA(P173A)株(Nakamura et al., 2009)が挙げられる。MotA(P173A)モーターの解析によって、水素イオンの結合反応と解離反応のいずれが律速段階であるかが明らかになると期待される。 24年度には、金ナノ粒子と銀ナノ粒子をそれぞれプローブとして用いた。銀ナノ粒子のほうが金ナノ粒子よりも高輝度な散乱を得ることができたが、銀ナノ粒子は粒径にかなりばらつきが生じることが分かった。25年度は、金と銀の合金ナノ粒子の作製を試み、両方の金属の利点を兼ね備えた金属ナノプローブを用いて計測することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度は、遺伝子操作に関する実験が予定よりも少なかったため、試薬購入のための費用が若干残ることとなった。当該研究費は、25年度に行う予定の「金属ナノ粒子の標識部位の変更」に際しての遺伝子実験のために、25年度申請の研究費(酵素・試薬分)と合わせて使用する予定である。
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