2012 Fiscal Year Research-status Report
精製タンパク質を用いた染色体の再構成:凝縮メカニズムの包括的理解を目指して
Project/Area Number |
24770172
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
新冨 圭史 独立行政法人理化学研究所, 平野染色体ダイナミクス研究室, 研究員 (60462694)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 染色体 / 再構成 / コンデンシン / トポII / ヒストン |
Research Abstract |
染色体凝縮は遺伝情報の正確な分配に必須のプロセスである。この20年の間、染色体凝縮に必要な因子が同定されるといった大きなブレイクスルーがあったが、どのようにして長大なゲノムDNAが染色体内に折り畳まれるのかという細胞生物学のおける往年の問題は依然として謎に包まれたままである。私は、この問題を解決するためには、より洗練された新規の実験系の構築が不可欠であると考え、可能な限り少ない種類の精製タンパク質を用いて試験管内に染色体を再構成する試みに着手した。これまでの研究から、主要な染色体構成タンパク質である、コアヒストン、II型DNAトポイソメラーゼ(トポII)とコンデンシンIをゲノムDNA上で正常に作用させることが、染色体再構成への第一歩になると考えた。まず、各々の精製標品を調製する方法を確立した。次に、それらの精製タンパク質をカエル精子由来のゲノムDNAと混和し、光学顕微鏡下で観察されるクロマチンの形態を指標に再構成の成否を検討した。様々な反応条件の検索を行った結果、上記の3つのタンパク質因子のみで「染色体様」構造を作り出せる条件を見出した。興味深いことに、もっとも有力な反応条件は、クロマチンに含まれるコアヒストンのテイル領域をプロテアーゼで切断することであった。コアヒストンのテイル領域は、ヌクレオソーム間の物理的相互作用に調節的な役割を持つことが知られているので、本研究の結果より、この相互作用が染色体凝縮に重要な役割を果たすという、これまで想定されていなかった仮説が提唱された。現在、この仮説を検討するために、様々なヒストンの変異体、バリアントの精製標品をを再構成系に導入する試みを行っており、いくらかの予備的な知見が得らつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初、染色体を再構成する際の最大の懸念はいったい何種類のタンパク質が必要なのかということであった。昨年度の研究では、この疑問に対して概ねの解答が得られたことが大きな成果である。すなわち、ヒストン、トポII、コンデンシンIが染色体凝縮に必要かつ十分な因子であることが強く示唆された。また、タンパク質に様々な精緻な実験操作を施すことができるという再構成系の最大の強みを活かした結果も得られつつある。とくに、コアヒストンからテイル領域を欠失させることによって「染色体様」構造が再構成できたと言う事実から、ヌクレオソーム間の物理的相互作用が染色体凝縮に重要な役割を果たすという興味深い可能性が示唆された。この結果は、従来の解析法では十分に検討されてこなかったヒストンが染色体凝縮に果たす役割について、再構成系が有力な解析手法となることを示すものでもある。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに精製タンパク質のみを使って「染色体様」構造を再構成することに成功しているので、この構造をより染色体に近づける試みを通じて、染色体凝縮の分子メカニズムを理解することを目指す。具体的には、分画した細胞抽出液やポリエチレングリコールなどを再構成系に添加することで、染色体凝縮に不可欠な物理的条件(イオン強度、分子混雑度)、さらに(もし未同定のものがあれば)凝縮を推進するタンパク質因子について多角的に検討する。また、コアヒストンのバリアントや変異体を再構成系に導入することによって、ヌクレオソーム間の物理的相互作用がどのように染色体凝縮に貢献するのかについても詳細な検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究計画は概ね順調に進捗し、本研究にかかわる物品購入、旅費などを当該研究費から支出した。ところが、所属研究室に配分された他の種目の研究費を本研究にかかわる物品購入にも充てる必要が生じたために(高額、かつ最終年度だったったため)、結果的に本種目の研究費を使い切れず、次年度に繰り越すこととなった。今後の実験における研究費の使用に関しては、内訳は申請当初予定していたものと大きく変更せず、繰り越し分を各項目に上乗せして使用する。機器に関しては現有のものを使って遂行できるので新規購入は行わず、大半は試薬や消耗品の購入に充てる。その中でも、カスタム抗体の作製、市販の酵素の購入など、比較的な高額の費用が必要となるものを優先して使用したい。また、平成25年度は本課題の最終年度となるので、研究成果の発表を積極的に行いたい。その際、必要に応じて出張旅費、論文掲載料にも使用する。
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