2012 Fiscal Year Research-status Report
細胞内エネルギーセンサーAMPKよる糖脂質合成制御機構の解明
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24770198
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
石橋 洋平 独立行政法人理化学研究所, 神経膜機能研究チーム, 基礎科学特別研究員 (90572868)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | グルコシルセラミド / スフィンゴ糖脂質 / セラミド / AMPK / エネルギー代謝 / 脂質代謝 / リソソーム病 / 糖ヌクレオチド |
Research Abstract |
グルコース1分子とセラミドから構成される糖脂質グルコシルセラミド(GlcCer)の過剰蓄積はゴーシェ病、パーキンソン病、インスリン抵抗性など様々な病態を引き起こす。その一方でGlcCer合成酵素欠損マウスは胎生致死であり、生命には必要不可欠な分子である。過度な量的変動が及ぼす影響を考慮すると、細胞内にはGlcCer量を適切に制御する機構があると考えられるが、その詳細は不明である。AMP-activated protein kinase (AMPK)は細胞内のエネルギーセンサーとして、ATP量を保つために糖および脂質代謝を制御しているセリンスレオニンキナーゼである。本研究の過程で、AMPK活性化剤であるAICARおよびMetforminを細胞に添加すると、濃度依存的にGlcCer合成酵素活性およびGlcCer量が減少すること、そしてAMPK阻害剤およびAMPK遺伝子のノックダウンによりGlcCer量が回復することを見出した。この結果より、AMPKは細胞内GlcCer合成量を負に制御する因子であることが判明した。詳細なメカニズムを追及した結果、AMPK活性化時にGlcCerの前駆物質であるUDP-グルコース量が減少することで、GlcCer合成量の低下を引き起こす事が分かった。AMPKの基質となりUDP-グルコース量に影響を及ぼす因子を探索した結果、Nudt14というUDP-グルコースに作用しUMPとグルコース1リン酸に加水分解する酵素が、AMPKによりリン酸化されることが判明した。また、このリン酸化によりNudt14は活性化されることが分かった。本研究によりAMPKがNudt14のリン酸化を介してUDP-グルコースの量を減少させ、GlcCer合成量を低下させるという新しい経路が発見された。GlcCerの過剰蓄積を原因とする様々な病気の、新規薬剤ターゲットとなる事が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は、AMPKからGlcCer合成制御に至るまでの経路を明らかにすることを目標とした。AMPKはセリンスレオニンキナーゼである。しかしながら、GlcCer合成酵素はAMPKによるリン酸化を受けないため、AMPKによってリン酸化される何らかのタンパクを介して、GlcCer合成量が制御されている可能性が高いと考えていた。よって、AMPKの基質となり、GlcCer合成に影響を与えるタンパクの探索が第一目標であった。AMPK活性化によってGlcCerの前駆物質であるUDP-グルコース量が有意に減少することが判明したため、UDP-グルコース量に変動を与える可能性のあるタンパクを中心に、AMPK活性化によってリン酸化レベルが変動するか、を指標にして目的タンパクのスクリーニングを行った。グルコース6リン酸を1リン酸に変換するalpha-D-Glucose 1-phosphate 1,6-phosphomutase、グルコース1リン酸とUTPからUDP-グルコースを合成するUTP:alpha-D-glucose-1-phosphate uridylyltransferaseなどを含む、様々な候補タンパクを調べた結果、ようやくNudt14というUDP-グルコース分解酵素を探し当てることが出来た。この酵素はAMPKによるリン酸化によって活性化されることが判明した。Nudt14の生成産物であるUMPによって、Nudt14はフィードバック阻害を受ける。AMPKによるリン酸化は、このUMPの阻害効果を抑制することが明らかとなった。AMPKの基質の同定、そしてリン酸化による活性化メカニズムの解明に成功したので、初年度としての目標は完全に達成されたと思っている。
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Strategy for Future Research Activity |
AMPK活性化によって、UDP-グルコースが減少し、それに伴いGlcCer量低下が引き起こされる。現在、この新知見を論文にまとめているところであり、本年度はリバイスに対応する実験を行う必要がある。このGlcCer量制御機構を利用することで、GlcCer過剰蓄積を原因とする病気に対する新しい治療法に繋がる可能性がある。代表的なリソソーム病であるゴーシェ病は、GlcCer分解酵素の欠損によって、GlcCerがリソソームに過剰蓄積することで発症する。予備実験として、ゴーシェ病患者由来の線維芽細胞にAMPK活性化剤としてMetforminを添加した結果、GlcCer合成量が有意に減少するという結果を得ている。現在この病に対してはGlcCer分解酵素補充療法が主な治療法となっているが、非常に高価であり、血液脳関門を通過出来ず神経疾患を伴う症状に対しては効果が無い事などが問題となっている。Metforminは2型糖尿病の第一選択薬として、年間1億人以上の患者に処方されている薬剤である。高い安全性とリーズナブルな薬価を誇り、脳にも行き届くことが分かっている。ゴーシェ病モデルマウスを使用し、Metformin投与によるGlcCerの減少と諸症状の緩和が観察されれば、臨床への応用も夢ではないだろう。さらに、AMPK活性化によってUDP-グルコースだけでなく、その他の糖ヌクレオチドも同様に減少することが分かってきた。つまりGlcCerだけでなく、様々なスフィンゴ糖脂質を減少させることが出来るのである。これらの糖脂質の分解酵素が欠損すると、ゴーシェ病とは別の、様々なリソソーム病が引き起こされる。その中には未だ効果的な治療法や薬剤が確立されていないものも少なくない。現在、AMPK活性化剤の有効性を確かめるべく、ゴーシェ病をはじめとした各種リソソーム病を専門とする研究者との共同研究を開始している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
パソコンおよびデータ解析ソフト、その他論文作製関連ソフト:400,000円 一般試薬:1,000,000円 旅費:300,000円 H25年度への繰越額:2,207円 生じた状況:この価格内で購入でき、かつ必要と思われるものが見当たらなかった為。無駄遣いするわけにもいかず、繰り越すことになった。この繰越金は、本年度の一般試薬購入費に使用する予定である。
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Research Products
(6 results)