2013 Fiscal Year Research-status Report
一分子精密定量計測と数理モデル化による細胞極性スケーリング機構の解明
Project/Area Number |
24770221
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
荒田 幸信 独立行政法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 研究員 (40360482)
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Keywords | 細胞極性 / PAR / 1分子計測 / 数理モデル化 |
Research Abstract |
動物の発生を考える上での古典的な問題の一つに「スケーリング」がある。細胞レベル、胚レベルでのタンパク質局在の空間パターンをスケールする機構は胚発生を安定に進行させるために重要であるが、このような発生システムの定量的な特性、安定性を明らかにするためには、精密定量計測技術と数理モデル化が必要である。本研究では、線虫の胚発生において、極性タンパク質PAR-2の局在ドメインの大きさが細胞サイズに合わせて変化(スケール)する現象に着目した。初年度は、1分子観察技術を用い、PAR-2タンパク質分子の動態の解明と定量計測の技術構築と数理モデル化を行った。昨年度までの計測に基づき数理モデルを構築した。数理モデルは実験計測の結果得られた物理パラメーターにより非対称局在を維持することができた。モデル解析の結果PAR-2はそう安定性により非対称局在を維持していることが明らかとなった。このモデルは生細胞内で計測した実際のPAR-2の動態を表す物理パラメーターを基礎としているためin vivoで非対称局在を維持するパラメーターバランスを反映していると考えられる。このモデルを用い、細胞内に存在する濃度ゆらぎに細胞がどのように対応しているかを解析した。数値計算でパターンが定常状態に至った後、ランダムな値を加えることにより定常状態にゆらぎを加え、ゆらぎからの回復過程を解析した。その結果、予想外なことに細胞膜上の密度ゆらぎはすぐに細胞質に受け渡された上で、細胞質の早い拡散により一様分布に戻される回復過程の流れが明らかになった。In vivoの非対称局在においてもゆらぎからの回復に早い解離と細胞質の早い拡散が利用されている可能性を提示することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、これまでの成果を国際紙に発表するために、データの再現性、検証を行った。合わせて、数理モデル解析に取り組んだ。その結果、1分子の動態を観察することにより、新たに発見した膜からの解離が早い成分の働きにより、膜上の非対称局在の安定性が維持されていると言う予想外の結果を得ることが出来た。この、早い解離をする成分は、低重合度でさらにリン酸化されているformのPAR-2タンパク質であると予想された。これにより、分子1つのリン酸化修飾および重合度制御によって、異なる動態を示す複数のformのPAR-2が生み出され、結果として細胞スケールのパターン形成が可能になるという、分子から分子集団の動態が決定すること、分子集団の動態が細胞スケールのパターン形成に寄与することという階層を超えた細胞極性形成メカニズムを明らかにすることが出来た。以上のことから、発生システムに対する1分子観察技術の応用は、これまでに分子遺伝学的手法により予想されるタンパク質動態を追認して速度定数を定量計測するにとどまらず、タンパク質動態の新しい経路を同定する手法としても有効である具体例を示すことが出来た。また、非対称局在を形成するタンパク質分子を1分子解像度で観察することにより、発生システムの統計物理学的性質についても明らかにする切り口が出てきた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、細胞極性のスケーリング機構に関して研究を行う。線虫の生殖系列の細胞に対して、これまでに受精卵に行った計測とモデル化の手法を適用し、卵割によって細胞サイズが小さくなった細胞においてどのように非対称局在が形成されるかを明らかにする。具体的には、単離P細胞の計測を行う前に、発生過程の胚内で最も計測しやすいP1細胞について計測を行う。受精卵と同様に、高リン酸化または低リン酸化を模倣した点変異PAR-2を用いることにより、正常PAR-2と分子修飾を受けたPAR-2の挙動についても計測を行い、モデル化を進める。これらの解析を通じて、PAR-2が非対称に局在するための動態制御を1分子解像で明らかにしていく。P1細胞のモデルを受精卵のモデルと比較することにより、サイズ変化に対するシステムの応答(サイズ不変性)を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、実験計測にかける時間が計画より短く、数理モデル解析に多くの時間をかけた。実験消耗品購入のための費用などが予定より節約できた。 最終年度では、計測によって膨大なムービーデータを取得したためこれを保存するHDDを購入し、データ保全につとめる。また、計測を行うための消耗品購入に充てる
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