2012 Fiscal Year Research-status Report
霊長類の社会進化に対する選択圧としての寄生虫の役割
Project/Area Number |
24770232
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 霊長類 / 社会構造 / 進化 / 寄生虫感染 / 社会的ネットワーク / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
本年度は、まず、昨年までに行われた屋久島ザルにおける社会的ネットワークを介した寄生虫の伝染に関する研究をまとめ、国際誌「PLoS ONE」、および第24回国際霊長類学会にて発表した。これらの研究は現行の研究の基礎をなすものである。 本年度は、以下の二つの活動を中心に行った。ともに、過去に類する研究報告はなく、科学的意義および、霊長類の保全と管理において、重要な知見を提供しうるものである。 まず、宮崎県幸島のニホンザルを対象に、寄生虫の感染状況と除去の効果について調べた。 11個体のメスを対象に駆虫薬を投与し、前後に計400以上の糞の採取と150時間以上の行動観察を行った。現在まだ分析途中ではあるが、体内の寄生虫を一部でも除去することで、サルの栄養状態が向上するという予備的な結果が得られている。 今後は、宿主の健康状態に加え、社会的ネットワークとの関連も要因に入れて詳細に分析する予定である。 二つ目に、社会構造の違いが集団内の寄生虫感染にもたらす影響を分析するため、マレーシア・サバ州のキナバタンガン川周辺において、異なる社会構造をもつマカクザル二種を対象に試験的な調査を開始した。しかし、現地でのマカクザルの詳細な行動観察や個体ごとの糞の採取は予想以上に困難であったことから、当初の予定を変更し、今後はサバ野生生物局と共同で、分子生物学的手法を用い、霊長類全体のコミュニティと寄生虫感染の関係に焦点を当てることにした。これにより、霊長類の種を超えた感染の共有の程度や、霊長類のコミュニティの違いが寄生虫コミュニティにもたらす影響について明らかにしたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度予定していた3つの計画のうち、2つについては順調に進展している。特に、宮崎県幸島での調査についてはすでに論文を執筆中である。また残りの2年間で更なる分析を進めるのに充分な量のデータが収集できた。また、本年度は、海外から学生をインターンとして受け入れた(Cecile SarabiaとElodie Thomas)。今後も継続して学生やポスドク研究員を受け入れることで幸島での研究をさらに拡大する(今後の研究の推進方策を参照)。 また、マレーシア・サバ州における試験的な調査では、必要に応じ、当初の計画から手法や分析対象等に変更を加えたものの、当初の研究目的を充分に達成する目処がつき、進捗状況は大変順調だといえる。 一方で、比較文献調査や、仮想霊長類社会集団における寄生虫感染のモデリングも本年度に実施予定であったが、これについては共同研究者のCharles Nunn博士が所属大学を変更したことに伴い実施が遅れている。しかし次度中には開始できる見込みである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、幸島での調査を中心に進めていく。ストラスブール大学高等研究所(仏国)のCedric Sueur博士のもとからインターン(Guilhem Vaissiere, Solene Sacreら)やポストク研究員 (Dr. Julie Dubosq)を受け入れ、プロジェクトの拡大および国際共同研究を推進する。具体的には、1)サルへの駆虫薬処理、2)駆虫薬処理個体と未処理個体で寄生虫の感染状況の比較、3)糞のホルモン分析および免疫学的分析(岡山大学の清水慶子教授、愛知医科大学の伊藤誠教授と共同)、4)集団内の社会構造や社会的ネットワークに関する行動分析、を予定している。そのため、4月、6月、10月、2月の4回にわたって幸島で調査を行うとともに、並行して実験室での作業を行う。 9、10月にはマレーシア・サバ州での調査を行う。そこでは、キナバンタンガン川周辺に生息する、少なくとも6種類の霊長類から糞の採取を行う。また、サバ野生生物局、カーディフ大学、および霊長類研究所の研究者らと共同で、コタキナバル市内に新設された実験室において、採取したサンプルを分子生物学的手法によって分析する。 さらに、世界動物寄生虫データベース(www.mammalparasites.org)を利用し、霊長類における寄生虫感染に関する文献収集を行う。単一の宿主種内の社会集団や、複数の宿主を含む霊長類全体のコミュニティを通した寄生虫感染について、理論的な側面から分析を行う。同時に、NetLogoというソフトを用い、寄生虫感染についてエージェントベースのシミュレーションを立ち上げる。これらのシミュレーションには、自身の研究から得られたニホンザルのデータ、および文献から得られたデータを用いて行う。また、Charles Nunn博士を霊長類研究所に招聘し、調査を共同で行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の予算は、大きく分けて、下記の4点に集約できる。すなわち、1)幸島での研究遂行にかかわる経費、2)マレーシアでの研究にかかわる経費、3)Charles Nunn博士を招聘し、共同でおこなう比較文献調査および、仮想霊長類社会集団における寄生虫感染のモデリング研究にかかる経費、4)研究室の備品整備、である。特に額の大きな最初の2点について下記により詳細な説明をおこなう。 1)幸島での研究遂行にかかわる経費: 予算の一部を学生やポスドク研究員(Guilhem Vaissiere, Solene Sacre, Julie Dubosqら)の協力を得て本研究を推進するためにもちいる。具体的には、彼らの国内の移動費(霊長類研究所の所在する愛知県犬山市と、調査地である宮崎県幸島の間)および霊長類研究所の実験室での調査を行う際の宿泊費を支払う(H25年度の予算の5分の1(約20万円)以内)。また自身の幸島への渡航費にも5分の1(約20万円)の使用が見込まれる。さらに、宮崎県本土から幸島への往復には小型船を用いるため(今までは京都大学野生動物研究センターにより賄われていた)、そのための費用として予算の6分の1(約15万円)程度を計上する。 2)マレーシアでの研究にかかわる経費: 4分の1(約30万円)程度をマレーシア・サバ州での調査に用いる予定である。内訳としては、現地での移動にかかわる費用や、調査の補助員に支払われる給料などがあげられる。
|
Research Products
(9 results)