2012 Fiscal Year Research-status Report
作物の高二酸化炭素濃度応答に及ぼす無機窒素形態の影響の解明
Project/Area Number |
24780018
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
Principal Investigator |
熊谷 悦史 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター生産環境研究領域, 任期付研究員 (80583442)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 高CO2濃度 / 硝酸 / アンモニア / 光合成 / 窒素吸収 / 窒素同化 |
Research Abstract |
近年、将来の高CO2濃度環境においては、植物による硝酸態窒素の利用が抑制されるため、アンモニア態窒素の重要度が増すと報告された。本研究では、将来のCO2濃度環境に適応する施肥法の方向性を示す為に、異なる作物種における高CO2濃度応答に及ぼすアンモニア、硝酸施用の影響を明らかにする。本年度は、以下の結果を得た。 1)乾物生産・窒素蓄積の高CO2濃度応答に及ぼす無機窒素形態の影響解明: 好アンモニア性のイネ、好硝酸性のダイズ、エンドウおよびホウレンソウを、通常CO2濃度区(AMB、約390ppm)と高CO2濃度区(ELV、約590ppm)、硝酸カルシウムを施用した硝カル区と硫安を施用した硫安区の組み合わせ4条件で栽培し、播種後40~50日目に、地上部重、粗タンパク含量、葉の硝酸濃度を調査した。4種の地上部重は、無機窒素形態に関係なく、ELVで増加し、その増加は、イネ、エンドウでは硝カル区より硫安区で大きかったが、ダイズ、ホウレンソウでは、硝カル区で大きかった。また、ホウレンソウでは、硫安区で地上部重は著しく低かった。粗タンパク含量は、イネ、エンドウでは、窒素形態に関係なく、ELVで低下した。ホウレンソウでは、硫安区でELVの効果は見られなかったが、硝カル区で著しい低下が見られた。ダイズでは、ELVによる増減は見られなかった。イネ、ホウレンソウでは、硝カル区の葉硝酸濃度がELVで増加したが、ダイズ、エンドウでは、反対に低下した。以上のように、ELVで、硝酸利用が阻害されるので、アンモニア態窒素の重要性が増すとは必ずしも言えなかった。 2)窒素吸収、同化および放出の評価法の確立:生葉における光呼吸速度および硝酸還元活性の推定法をホウレンソウに適用できた。葉の硝酸、亜硝酸還元酵素活性の測定条件を決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要にあげた項目1)は、当初の実施計画に予定していたものであり、ここでは、数種作物を用いて、高CO2濃度下では、硝酸窒素利用が阻害されるので、アンモニア態窒素の重要性が増すという説は、必ずしも支持されないことを明らかにし、これから公表していく予定である。項目2)に関しては、当初予定していた窒素吸収や放出の評価法の適用、確立までには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、以下の2項目について実施する。 1) 窒素吸収および放出の評価法の確立 培地窒素濃度あるいは切断茎からの溢泌液中の無機窒素、アミノ酸濃度計測による根の硝酸・アンモニア吸収同化速度評価法、同化箱法による生葉からのアンモニア放出速度の評価法をエンドウ、ホウレンソウに適用できるかを検討する。 2) 作物の窒素同化・吸収の高CO2濃度応答に及ぼす無機窒素形態の影響解明 ホウレンソウでは、硝カル区で、高CO2濃度による粗タンパク含量の低下、葉硝酸濃度の上昇が確認された。一方、エンドウでは、硝酸濃度の上昇は見られなかった。また、硫安区では、CO2濃度に関係なく、生育が著しく阻害された。そこで、エンドウ、ホウレンソウを対象に、通常CO2濃度および高CO2濃度と、硫安区、硝カル区に加え、アンモニアによる生育阻害が少ない尿素施用区を設け、組み合わせ6条件で栽培し、栄養生長期の乾物重、粗タンパク含量、葉の硝酸濃度、葉の硝酸、亜硝酸還元、アンモニア同化活性、根の硝酸・アンモニア吸収同化速度を測定する。ホウレンソウにおける硝カル区の高CO2濃度による粗タンパク含量低下、硝酸濃度上昇の生理的な要因を明らかにする。作物2種の尿素施用下での高CO2応答の詳細を調査し、高CO2濃度下では、硝酸窒素利用が阻害されるので、アンモニア態窒素の重要性が増すかどうかを再検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額42,529円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度の研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。具体的には、着手できなかった窒素吸収評価法としての、培地窒素濃度あるいは切断茎からの溢泌液中の無機窒素、アミノ酸濃度の定量に必要な試薬や実験器具の購入に使用する。また、葉からの窒素放出の測定システムに必要なアクリルチャンバーやナイロンチューブの購入にも使用する予定である。
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