2013 Fiscal Year Annual Research Report
農地景観の生物多様性を左右する土地利用の時空間変化に関する景観生態学的研究
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24780026
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
黒江 美紗子 九州大学, 持続可能な社会のための決断科学センター, 助教 (30612965)
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Keywords | 耕作放棄 / 水田生態系 / 中山間地 / カエル / 安定同位体 / 土地利用変化 / 里山の生物多様性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、農業生態系で急増する耕作放棄地が、これまで維持されてきた野生生物の種多様性に及ぼす影響を明らかにすることである。耕作放棄は、日本の農地景観の特徴である水田、林、水路などが入り混じる複合景観に時空間変化をもたらす。これらの土地利用変化が水田生物の生息密度に及ぼす影響を明らかにし、放棄水田が水田を利用する野生生物に餌資源を供給するプロセスに着目した予測モデルを構築した。 本研究は、秋田平野に広がる農地景観で、爬虫類、哺乳類、鳥類など上位捕食者の生息状況を調べ、これらの種数と最も相関の高かったカエル類を対象に行った。水田でのカエル密度を予測する統計モデルから、農地に含まれる畔密度、水田周辺の森林面積がカエル密度に正に影響していることが明らかとなった。さらに耕作放棄がカエル密度に及ぼす影響を明らかにするため、放棄地面積の異なる複数地域を対象に生息数調査を行ったところ、放棄面積が中程度時にカエル密度が最も高くなる一山型の関係にあるという非線形な関係性が明らかとなった。カエル密度増加の仕組みには、個体の行動観察や栄養段階を推定する安定同位体比分析を行い、カエルが日常的に放棄水田に入りこみ放棄水田由来の昆虫を採餌していること、放棄水田の影響が及ぶ空間スケールを明らかにした。さらに、最終年度に実施した生産者へのインタビューやと土地利用調査から、周辺に耕作水田が多い平野部では草刈頻度が高く、耕作面積の少ない中山間地では低いことを明らかにした。 これらの結果から、中山間地域では今後も放棄地が増加し、現農地の約8割でカエル密度の低下が進むと予測された。本研究は、耕作放棄がもたらす種多様性の低下がどのような景観特性をもつ地域で顕在化しやすいかを明らかにしたことから、水田耕作が生物多様性維持にどの程度寄与しているかについての評価や多様性保全に有効な地域の特定に役立つだろう。
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Research Products
(2 results)