2013 Fiscal Year Research-status Report
収穫後のウンシュウミカンにおいて発生する異味異臭の原因成分の特定と発生機構の解明
Project/Area Number |
24780035
|
Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
松本 光 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所カンキツ研究領域, 主任研究員 (20355407)
|
Keywords | カンキツ / ウンシュウミカン / 貯蔵 / アミノ酸 / オルニチン代謝 / 果実品質 |
Research Abstract |
収穫後のウンシュウミカン果実は、保存条件によっては異味異臭が発生して食味が大幅に低下する場合があるが、原因物質は解明されていない。本研究では、異味異臭の原因物質を特定し発生機構を解明するほか、制御方法を明らかにする。前年度までに、収穫後の果実を約3ヶ月保存すると、10℃では異味異臭が発生しないのに対し、5℃では明らかな異味異臭が発生して食味が大幅に低下し、ウレアサイクルのアミノ酸の一種であるオルニチンが顕著に集積することを明らかにした。そこで本年度は、収穫直後と5℃で保存した果実についてCE/MSによるメタボローム解析を行い、オルニチンから派生する代謝物の変動を調査した。その結果、5℃で保存した果実ではオルニチンから派生するポリアミンの一種が集積する傾向が見られた。次に収穫直後の果実と5℃で保存した果実の遺伝子発現をマイクロアレイで解析した。その結果、オルニチン代謝周辺の生合成遺伝子の発現は、オルニチン生合成およびオルニチンからポリアミンへと代謝を促進する酵素群(3種類)が上昇する傾向(Log2 ratioで1.3以上の発現差)を示し、ポリアミンの分解に関与する酵素群(4種類)が下降する傾向(Log2 ratioで-1.3以下の発現差)を示した。この結果から、ウンシュウミカンを低温(5℃程度)で長期貯蔵すると、オルニチンが集積するとともに、集積したオルニチンの代謝が進み、オルニチンから派生するポリアミンの一種(腐敗臭の成分のひとつ)が集積しやすい可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、収穫後のウンシュウミカンにおいて発生する異味異臭の原因物質を特定し、異味異臭の発生機構および制御方法を解明することを目的とする。本年度は、メタボローム解析やマイクロアレイ解析などを用いて、ウンシュウミカンを低温で長期貯蔵した際に見られる異味異臭の発生に関与する酵素群を特定し、異味異臭の原因成分の特定と発生機構を解明することを研究目標としている。 本年度の研究から、5℃保存により異味異臭が発生した果実では、オルニチンから派生するポリアミンの一種が集積する傾向が見られ、マイクロアレイ解析結果からも、異臭物質であるポリアミンを集積しやすい遺伝子発現プロフィールになる可能性が示された。異味異臭の原因成分の特定については、ポリアミンは有力な候補成分のひとつではあるが、近年、ポリアミンのさらなる分解代謝経路が報告されているため、今後、検証が必要である。以上の理由から、本年度の研究目的である、異味異臭の発生に伴い変動する酵素群の特定(オルニチン代謝およびポリアミン生合成系)と発生機構の解明(ポリアミン集積の可能性)が達成されているため、研究はおおむね当初の計画通り進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度までに、ウンシュウミカンを低温(5℃程度)で貯蔵するとオルニチンが集積し、さらに代謝が進んでオルニチンから派生するポリアミンの一種(腐敗臭の成分)が集積する傾向があり、これらの代謝変化が異味異臭の発生に寄与している可能性を見いだした。異味異臭の原因成分としてポリアミンは有力な候補成分のひとつではある。しかし近年、米などの作物において、ポリアミンの新たな分解代謝経路が解明され、ポリアミンの分解産物である香気成分が米の香りの原因成分であることが報告された。このことから、ウンシュウミカンにおいても、ポリアミンの分解産物である香気成分が異臭の原因物質である可能性が考えられる。また、本年度実施したメタボローム解析を用いたスクリーニング結果から、ポリアミン以外にも異味異臭の発生に伴い集積する代謝物がある可能性を見いだしている。 このため、次年度はこれらの香気成分を含めた代謝産物および代謝系の変動を、GC-MS等による分析や遺伝子発現解析等を用いて調査し、ポリアミン以外に異味異臭の原因となる成分があるかどうかを検討する。さらに、異味異臭成分(ポリアミン等)の集積を制御する収穫後要因のほか、収穫前に散布する薬剤処理の効果を明らかにする。具体的には、異味異臭の発生抑制に効果的な果実の貯蔵条件(温度、湿度、空気組成等)や収穫後処理条件を解明する。また、収穫後の異味異臭の発生を低減させる可能性のある薬剤(植物ホルモン剤等)を収穫前に散布して、貯蔵中の異味異臭の発生抑制効果を検証するとともに、メタボローム解析やマイクロアレイ等を用いた遺伝子発現解析等により、異味異臭の発生抑制メカニズムを解明する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度、異味異臭の発生果実と非発生果実のCE/MSによるメタボローム解析(受託解析)を実施したが、受託解析業者がキャンペーン価格で解析を実施したため、解析費用を当初の予定価格より大幅に削減できた。このため、本年度は当該助成金に残額が生じた。 次年度は、異味異臭の発生抑制メカニズムの解明を目的として、CE/MSによるメタボローム解析とマイクロアレイ解析を受託解析により実施するため、研究費を使用する。さらに、異味異臭成分を特定するための分析に必要な消耗品(分析カラムや分析装置の部品等)や、果実試料から成分を抽出する為に必要な試薬等の消耗品の購入のほか、異味異臭の発生機構解明を解明するために必要なマイクロアレイ等を用いた遺伝子発現解析に研究費を使用する。また、これら実験を補助する人員に対する賃金として、研究費を使用する。得られた成果を、国内外の学会での口頭発表や論文発表を行うために必要な旅費および論文校閲費用として、研究費を使用する。
|
Research Products
(2 results)