2012 Fiscal Year Research-status Report
キュウリモザイクウイルス感染による宿主代謝遺伝子の発現制御と退緑病徴発現との対応
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24780041
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
望月 知史 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (30469837)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | タバコ / キュウリモザイクウイルス / クロロシス / トランスクリプトーム / 葉緑体 |
Research Abstract |
キュウリモザイクウイルス(CMV)変異体が感染したタバコのクロロシス組織における網羅的な遺伝子発現解析では,退緑の激しさが異なる3種のCMV株を用いてトランスクリプトーム解析を行った.タバコマイクロアレイ(アジレント)を用いて解析を行い,健全タバコと比べて発現量が2倍以上増減している遺伝子をCMV株間で比較したところ,CMV株間で発現が質的に異なる遺伝子はなく,発現量増減の量的違いのみ認められた.このことは,毒性が異なるCMV株間でもタバコ応答機構が類似していること,CMV株間の毒性の違いは退緑組織におけるタバコ遺伝子発現の量的差違が関係していることを示唆している.遺伝子オントロジー解析の結果,発現量が増加している遺伝子では核局在遺伝子が最も多く(約30%),次いで葉緑体,細胞質,細胞膜(それぞれ約10%)局在遺伝子であり,発現量が減少している遺伝子では葉緑体局在遺伝子が最も多く(約35%),次いで核局在遺伝子(約20%)であった.また,発現量が増加している遺伝子には非生物ストレス応答遺伝子が多く,減少している遺伝子には光合成や葉緑体形成に関与している遺伝子が多く含まれていた.抗酸化酵素遺伝子では,APXは全てのCMVに共通して発現量が増加していたが,CATとSODは退緑が激しい変異株でのみ発現量が増加していた. 光合成遺伝子の発現を誘導するシロイヌナズナ転写因子atGLK-mycを導入した組換えタバコについて,カナマイシン培地による選抜により18のT1ラインを得た.抗myc抗体を用いてatGLK-mycが明瞭に発現している9ラインを選抜し,さらに各種光合成遺伝子の発現量が非組み換えタバコより増加している2ラインを得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トランスクリプトーム解析により,CMVに感染したタバコのクロロシス組織では毒性の激しさに相関して各種葉緑体/光合成関連遺伝子の発現量が減少していることが網羅的に明らかになった.さらに,退緑症状との関連が示唆されている抗酸化酵素遺伝子の発現量について,アスコルビン酸/グルタチオンサイクルはCMV感染に対する一般的な応答であり,カタラーゼとSODは激しいクロロシス組織でのみ発現誘導されることが示され,ウイルス感染による酸化ストレス応答の順番は,各種葉緑体/光合成関連遺伝子の発現量減少→抗酸化酵素遺伝子の発現増加,であることが考えられた.以上のように,当初の予定通り,CMV感染によるタバコ遺伝子発現パターンと病徴との関連を示すことができた.また,当初の予定通り,各種葉緑体/光合成関連遺伝子の発現量が野性型タバコより増加しているatGLK発現組換えタバコを得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度に得られたatGLKタバコのT2ラインに各CMV変異株を接種し,その後atGLKタバコがクロロシス症状を示すのかを観察する.さらに,atGLKタバコにおけるCMV蓄積量,および各種光合成関連遺伝子のmRNA発現量をノーザン法あるいはリアルタイムPCR法により解析する.GLKタバコ葉がクロロシス病徴を示さなければ,光合成関連遺伝子の発現量減少がCMV感染によるクロロシスの直接的な原因と証明される.一方で,GLK恒常発現のために光合成関連遺伝子の発現量が減少しなければ,活性酸素種が多量に蓄積して細胞死(えそ症状)を示すことも予想される.この場合,タバコ葉細胞はCMV感染ストレスによる細胞死から回避する応答により,能動的に光合成能を低下させていることが証明される. さらに,光合成関連遺伝子mRNAの蓄積量減少と活性酸素種の蓄積との関係を明らかにするために,野性型タバコとatGLKタバコ間で活性酸素種の蓄積量を比較する.活性酸素種(過酸化水素とスーパーオキシドアニオン)の検出はCMV感染したモザイク葉のDABおよびNBT染色により行う.CMV感染葉における活性酸素種の分布と蓄積量に加えて,細胞内分布の観察を行い活性酸素種生成の由来(細胞質か,あるいは葉緑体か)を解析する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当無し
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Research Products
(2 results)