2012 Fiscal Year Research-status Report
アゲハチョウ科3種の産卵刺激物質受容メカニズムの解明
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24780053
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Research Institution | JT Biohistory Research Hall |
Principal Investigator |
龍田 勝輔 株式会社生命誌研究館, その他部局等, 研究員 (00565690)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | アゲハチョウ / 産卵刺激物質 / 味覚 / 産卵行動調節メカニズム |
Research Abstract |
アゲハチョウ科の雌成虫はふ節の味感覚子で産卵刺激物質(味物質)を受容、識別し厳密な寄主選択を行う。寄主植物葉に含まれる産卵刺激物質は同定されているが、複数の物質が混合して初めて産卵刺激活性を持ち、その受容メカニズムは謎である。申請者は、アゲハチョウ科3種の化学情報受容メカニズムを解明するため、電気生理学的手法による雌成虫ふ節感覚子の産卵刺激物質受容機構の解明を目指してきた。 申請者はすでに、ナミアゲハふ節感覚子の産卵刺激物質に対する電気生理学的応答を調べ、感覚子内の3種類の味細胞が産卵刺激物質に特異的に応答し、それらの味細胞が同時に興奮することが産卵行動誘発に必要であることを解明した(Ryuda et al. 2013)。本申請では、他の2種のアゲハ(クロアゲハ・シロオビアゲハ)のふ節感覚子の産卵刺激物質への応答を調べ、アゲハチョウ科3種の寄主選択機構の共通性もしくは多様性を明らかにし、寄主選択機構による種分化の過程を考察することを試みた。 該当年度の研究成果として、2種のアゲハ(クロ・シロオビ)の産卵刺激物質受容機構を解明するため電気生理学的解析を行った結果、2種のアゲハともに、電気生理学的応答を示す産卵刺激物質、味物質として認識されていない産卵刺激物質が存在することがわかった。応答が確認できた産卵刺激物質のスパイク解析により、2種のアゲハ(クロ・シロオビ)ともに産卵刺激物質に応答するふ節感覚子内の味細胞数は3つである可能性を示す結果を得た。 本研究成果によって、アゲハチョウ科3種は、産卵刺激物質の受容の特化した3種類の味細胞(神経細胞)を持ち、それらの味細胞の同時的発火(興奮)により産卵行動を制御するといった共通の制御機構を持つ事が示唆される。また、本研究成果は、これまで昆虫の味覚研究では見つかっていない新規の味覚を介した行動調節メカニズムを提示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アゲハチョウ科3種の電気生理学的解析により、ふ節感覚子内部の3種類の味細胞が産卵刺激物質を受容し、その3種類の味細胞が同時に発火(興奮)することが産卵行動誘発に必要であることを示唆する結果を得た。よって、電気生理実験によるふ節感覚子機能解析および産卵メカニズムの再構築に関しては、現在までの達成度は高いと言える。しかし、クロ・シロオビアゲハの産卵刺激物質以外の味化合物(水、糖、塩、苦味物質)に対する電気生理学的応答を取得できていない。また、クロアゲハ、シロオビアゲハの電気生理学的応答および産卵行動実験の解析は、ナミアゲハで取得したものより完成度が低く、試行数を増やす必要がある。また、得られたサンプルを電気生理実験に使用したため、ふ節感覚子の形態分類に関してはほぼ未達成である。 ナミアゲハのふ節感覚子内部の3つの味細胞が産卵刺激物質に特異的に応答することは概要で述べたが、その3細胞と異なる細胞の機能解析を行った結果、一般的な苦味物質(カフェインなど)に応答する1種類の味細胞が存在した。さらに、ほぼ100%の産卵行動を誘発するミカン葉抽出溶液に苦味物質を加えると産卵行動が抑制されることがわかった。これらの結果により、ふ節感覚子内の4つの味細胞のうち、3つの味細胞からのシグナルは産卵促進へ、残り1つの味細胞からのシグナルは産卵抑制に作用し、産卵行動を調節していることが示唆された。研究計画に記載していない研究であるが、アゲハチョウ科昆虫の味覚による産卵行動調節機構を解明する上で重要な研究成果であると言える。 ナミアゲハのOBP・CSPの機能推定に関わる実験は、一部のOBP・CSPのdsRNAを作製し、注射によって目的遺伝子の発現を抑制させた。OBP・CSPのdsRNA注射個体を用いた電気生理実験、産卵・摂食実験などのin vivo系のアッセイを行ったが成果は得られていない。
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Strategy for Future Research Activity |
アゲハチョウ科2種(クロアゲハ、シロオビアゲハ)の電気生理学的解析および産卵行動実験を引き続き行い、初年度に得た研究成果を補足していく。さらに、採集が容易であるアゲハ2種(ジャコウアゲハ、ナガサキアゲハ)電気生理学実験、産卵行動実験を行う。ナガサキアゲハの産卵刺激物質は同定されていないが、昨年度の予備実験により、ナガサキアゲハがナミ・クロ・シロオビアゲハの産卵刺激物質に応答し、さらにそれらのうち数種類の化合物の混合液によってナガサキアゲハの産卵行動が誘発されることを確認している。よって、申請時の目標した3種に上記2種を加えた合計5種のアゲハチョウ科昆虫における産卵刺激物質受容機構の解明を目指し、寄主選択機構による種分化の過程を考察する予定である。 また、「現在までの達成度」欄で述べたように、ナミアゲハふ節感覚子において苦味物質を受容する味細胞が存在し、苦味物質によってナミアゲハの産卵行動が阻害されることを明らかにした。本研究成果はアゲハチョウ科昆虫の味覚による産卵行動調節機構を解明する上で重要であると判断したため、研究計画を一部変更し、様々な苦味物質の電気生理学的応答および産卵行動実験によって苦味物質受容による産卵阻害効果について詳細な実験を行う。 本年度(平成25年度)から、申請者はJT生命誌研究館から佐賀大学の総合分析実験センターに異動した。佐賀大学には電気生理関連の機器は設置されていないため、電気生理実験は共同研究者である九州大学理学部、谷村禎一准教授が所有する電気生理機器を使用する。実験に使用する昆虫(シロオビアゲハを除く)は佐賀県および福岡県にて採集する。 また、OBP・CSPの機能推定においては異動に伴う実験器具、研究費の不足により、一部の研究(バキュロウイルス発現系など)が困難であると判断した。御了承いただきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請者が本年度より佐賀大学に異動したため、実験計画を遂行するにあたり研究器具を購入する必要がある。直接経費の物品費の購入内容を一部変更し、本研究推進のために必要な基礎的実験機器を購入する。また、実験材料のサンプリングのための捕虫道具(捕虫網、三角ケース、三角紙など)、実験に使用するアゲハチョウ科昆虫を飼育・管理するため、飼育道具・機器(飼育ケース、シャーレ、インキュベーターなど)を購入する。さらに、飼育に必要な飼料の調達(無農薬ミカン葉を農家から購入)および作製するための機器(ポットミル、ミル回転台)の購入を予定している。また、産卵行動実験に必要な寄主植物葉のメタノール抽出液を作製するために必要な、試薬および機器(ガラス機器、エバポレーター使用料等)また、電気生理実験、産卵行動実験に必要な試薬(糖、苦味物質、産卵刺激物質など)・器具(ガラス管など)を購入する。 本年度の電気生理実験は九州大学の谷村禎一准教授の機器を使用するため、同氏との研究打合せのために申請した旅費分を出張費として計上する。 なお、その他の旅費および直接経費のその他については予定通り使用する。
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