2012 Fiscal Year Research-status Report
土壌における硝酸からアンモニウムへの異化的還元反応の実態解明
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24780055
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
磯部 一夫 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (30621833)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 硝酸還元 / DNRA / アンモニウム生成 / 脱窒 / 水田土壌 |
Research Abstract |
新潟県農業総合研究所の水田土壌および転換(ダイズーイネ)畑土壌取得された硝酸還元細菌、合計約156株を対象に系統分類群の同定ならびに硝酸還元能および最終産物の検定を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。 1. 硝酸還元の最終産物は細菌の属レベルの系統分類で異なる傾向が見られた。特に取得された硝酸還元細菌の中で優占していたBucillus属はアンモニウムを、Pseudogulbenkiania属細菌はN2を、Ralstonia属細菌はN2Oを最終産物とした。Bucillus属細菌は土壌においても優占して存在しており、土壌中でアンモニウム生成を担っている可能性が高い。多数の細菌を扱い、窒素安定同位体を用いて代謝産物を詳細に解析することで、このような傾向を明らかにすることができた。計画している土壌から直接抽出したDNAを扱う実験においては、属レベルの系統情報は得られるが、硝酸還元に関わる生理情報を得ることは困難である。しかし、これまでの実験において系統分類と生理特性との関係が明らかとなっているために、土壌DNAを用いて得られる系統情報から土壌中の窒素代謝機構を推察することが可能となった。 2. 多くの細菌が亜硝酸を培地中に蓄積した。このことは培地および培養条件の検討を要することを示唆しているが、同時に硝酸還元反応によって土壌中に亜硝酸が蓄積しうることを示している。亜硝酸は反応性が高く、土壌では一般的に亜硝酸濃度が小さい。しかし常に生成され、ほぼ全ての窒素変換反応に関わっている。本実験の結果は、亜硝酸の生成反応として硝酸から亜硝酸への還元が極めて重要であることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水田土壌および転換畑土壌から取得された多数の硝酸還元細菌の系統分類群の同定ならびに硝酸還元能および最終産物の検定を行うことができた。また硝酸からアンモニウムへの還元反応を主な対象にしていたが、脱窒の最終産物についても重要な知見を得ることができた。またBucillus属細菌など限られた細菌群がアンモニウムを生成することから、今後これらの細菌群を対象に土壌中での活性を検証していく方針を立てられた。世界的なヘリウム不足という不測の事態によりGCMS測定において多少の不都合が生じたが、上述のような新規な知見も得られ、おおむね順調に進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 水田土壌におけるDNRA反応の速度論的解析:山形県農業総合センターと新潟県農業総合研究所の水田土壌を用いて硝酸からアンモニウムへの異化的還元反応(DNRA)速度とともに、脱窒・無機化(有機態窒素からのアンモニウム生成)速度を算出し、アンモニア生成および硝酸還元におけるDNRA反応の寄与を明らかにする。具体的な操作は以下の通りである。嫌気条件において土壌に15NO3―あるいは15NH4+を添加し培養する。経時的に、土壌中の15NO3-、15NO2-、15NH4+および気相中の15N2O、15N2を定量し、15NO3- → 15NH4+ からDNRA速度を、15NO3- → 15N2O、15N2から脱窒速度を、有機態窒素 → 14NH4+ から無機化速度を算出する。 2. 水田土壌におけるDNRA反応を担う微生物群の解析:上記の実験系において、全細菌を対象とした16S rRNA遺伝子とともにDNRA反応のNO2― → NH4+を担う酵素遺伝子nrfAをターゲットに、土壌中でDNRA反応を担っている微生物群を特定する。具体的な操作は以下の通りである。土壌からDNAを抽出する。新規に作成するnrfAプライマーを用いて、PCR、シーケンス、系統解析を行う。15NO3-を添加していない土壌におけるnrfAの組成と比較し、DNRA反応を担っている微生物群を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では下記の目的のため次年度の研究費を必要とする。本実験では(1)山形県農業総合センターと新潟県農業総合研究所の水田土壌を用いるために土壌のサンプリングを行う必要がある、(2)多数の分離菌株および土壌を用いた実験に多数のバイアルビン、ブチルゴム栓、アルミキャップを必要とする、(3)硝酸還元の代謝産物の測定および土壌中の窒素変換反応の解析に安定同位体試薬、安定同位体ガス、ヘリウムガスを必要とする、(4)分離菌株の系統分類の同定ならびに16S rRNA遺伝子およびnrfAの系統解析のための大量シーケンスを行うための分子生物実験試薬、シーケンス委託費を必要とする。
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