2012 Fiscal Year Research-status Report
新規診断酵素開発を目指したフラビン酵素の立体構造と機能に関する研究
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24780106
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
中嶋 義隆 摂南大学, 理工学部, 准教授 (80372770)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | タンパク質工学 |
Research Abstract |
FAD依存型D-グルコース脱水素酵素(GDH)と同酸化酵素(GOX)は、いずれもD-グルコースからD-グルコノ-1, 5-ラクトンへの酸化反応を触媒する酵素であるが、FADの再酸化機構が異なる。血糖値のモニタに広く利用されているGOXであるが、酸素による再酸化を受けるためバイオセンサへの応用に不利である。一方、GDHは酸素への応答性が低いためバイオセンサへの応用が期待されているが、グルコースだけでなくキシロースにも弱い活性を示す。そこで新規機能を有する酵素創製を目指すために、構造未知であったGDHの立体構造を決定し、基質認識機構を解明する研究を行った。 当該年度では、酸化型GDHと阻害剤グルカールとの複合体および還元型GDHと阻害剤との複合体の構造を、それぞれ1.80Å分解能と1.40Å分解能で決定した。どちらの活性部位にも、グルカールに相当する電子密度図が観測された。その結合様式は、還元型酵素基質複合体と異なり、グルカールの1位炭素がFADの5位窒素のre面側上部に存在する。ここに基質を重ね合わせると反応進行に適した配置となることから、この阻害剤複合体は基質との反応中間体を模した構造だと考えられる。グルカールの3位と4位のヒドロキシル基は、基質複合体と同様、Tyr54, Glu414,Arg502, Asn504の側鎖で認識されていた。このとき基質複合体と同様にGlu414とArg502が適合誘導されるが、そのコンホメーションに差異がみられた。また阻害剤6位ヒドロキシル基は、FADの4位カルボニル基から3.47Åの距離にあるが、他の水素結合はみつからなかった。これらから、6位ヒドロキシメチル基を持たないキシロースでもGlu414とArg502のフレキシブルなコンホメーション変化で、活性部位へ容易に結合でき、活性が認められると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、次の3点を明らかにすることが目的である。(1) GDHは酸素とほとんど反応しないためバイオセンサへの応用が期待されているものの、グルコースだけでなくキシロースにも弱い活性を示す。一方、GOXの基質特異性は高く、グルコースのみに活性を示す。この両者の基質特異性の違いが、どのような立体構造に由来するのか、GDHの基質類似物複合体の結晶構造の決定から明らかにする。(2) 次いで、GDHの反応機構についての研究を行う。特に酸化酵素と脱水素酵素の違い、すなわち酸素への反応性の違いがどのような立体構造に起因するのか、構造解析の結果を踏まえて変異導入した酵素の速度論解析と結晶構造解析から明らかにする。(3) A. oryzae由来GOXをターゲットとした変異体酵素の速度論解析と結晶構造解析を行う。この研究で得られた知見に基づきGOXに変異を導入し、その速度論解析と立体構造解析からコンホメーション変化の活性へ影響について検証する。(1)については、阻害剤複合体の構造決定から基質認識に関する多くの情報を得ることに成功した。しかしながら、とくに(3)について、遺伝子のクローニングと発現ベクターの構築に成功したものの、これを用いた大腸菌でのタンパク質発現系の条件が確立できていない。現在、研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
GDHの構造解析については順調であるが、とりわけ、A. oryzae由来GOX遺伝子の大腸菌を用いた大量発現系の構築が計画した通りに進んでいないので、今後、発現系の構築に力をいれてゆく。様々な条件検討をおこなったが、現在のところ、多くの場合に沈殿画分に目的タンパク質の発現が認められる。20°Cでのタンパク質発現誘導において、上清画分に若干の発現が認められた。しかしながら、再現性が低いので、その条件の検討を進めている。また除去したN末端残基の長さが異なる2種類のGOXタンパク質発現のプラスミドを構築した。これらを用いて、大量発現系の構築から変異体遺伝子の作製し、それらの解析を遂行する予定である。 また阻害剤複合体の構造解析から、触媒塩基と考えられるHis残基に特徴的なコンホメーション変化が確認された。これは触媒機構の解明に非常に重要な情報をもたらすと考えられる。このHis残基周辺の変異導入を併せて解析をおこなってゆく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
GOXの大量発現系の構築が計画通りに進まなかったので、予定していた試薬、消耗品の購入ができていないのが、主な原因である。今年度では、結晶化の試薬、消耗品と合わせて、培養用試薬、精製用試薬、変異体作製用の試薬とその消耗品、および5Lジャーファーメンタ用の冷却水循環装置が必要となるのでこれらの購入を予定している。
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