2013 Fiscal Year Research-status Report
昆虫の摂食行動を支配する生体アミン受容体の網羅的薬理解析と創農薬への展開
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24780113
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
太田 広人 熊本大学, 自然科学研究科, 助教 (60450334)
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Keywords | 昆虫 / 摂食行動 / 生体アミン / 受容体 / 農薬 / カイコ / GPCR / 制御剤 |
Research Abstract |
カイコを用いて、摂食行動を支配する生体アミンの未同定受容体の遺伝子クローニングを行った。前年度までに、オクトパミン受容体BmOAR3、ドーパミン受容体BmDopR4、セロトニン受容体2種類(Bm5HTR2及びBm5HTR3)、オーファン受容体2種類の計6種類の遺伝子をPCRで増幅させることができた。塩基配列を精査した結果、BmOAR3遺伝子は偽遺伝子であることが分かった。Bm5HTR2のレポーターアッセイ系を構築したが、十分な応答が得られなかったため、多検体処理できるcAMPアッセイ系を構築し、機能を調べた。その結果、セロトニン濃度依存的にcAMPが抑制された。Bm5HTR3の塩基配列を精査した結果、2種類のスプライスバリアントが存在することが示唆された。BmDopR4は、全長を一度にPCR増幅させることができず、引き続き単離を進めている。2種類のオーファン受容体の構造を推定した結果、昆虫では未同定のヒスタミンとメラトニンのGPCRである可能性が出てきたため、解析を進めている。 同定済みのオクトパミン受容体BmOAR1とドーパミン受容体のBmDopR2の薬理解析をレポーターアッセイで行った結果、両者のアゴニストに対する薬理学的性質は大きく異なる点に加え、約40種のアンタゴニストを用いた解析の結果、それぞれの受容体にある程度選択的に作用する化合物もいくつか発見できた。BmOAR1に強く作用する化合物の合成と構造活性相関、結合部位の同定も行った。その結果、高活性に必要な置換基の特徴に加え、その置換基の影響によって、BmOAR1への結合配向性がTM7を介して変化することが分かった。さらに高活性なアゴニストの合成と結合部位の詳細な解析を行っている。 以上の受容体を中心に、高活性アゴニストとアンタゴニストのスクリーニングを進め、実際にカイコに投与し、摂食行動への影響を調査していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
中国のグループによる詳細なアノテーション解析(Fan et al., 2010)を踏まえると、カイコには16種類の生体アミン受容体が存在することが予想された。同定済みの7種類の受容体(BmOAR1-2, BmTAR1-2, BmDopR1-3)に加え、本研究において、未同定だった6種類(BmOAR3, BmDopR4, Bm5HTR2-3, オーファンアミン受容体2種類)の遺伝子を取得することができた(BmDopR4は全長断片をクローニング中)。以上を合計すると13種類になる。残り3種類の遺伝子のうち、BmEcDopR(エクジステロイド応答型のドーパミン受容体)遺伝子以外の2種類は偽遺伝子またはリガンド・受容体機能が全くの未知のオーファン受容体遺伝子であったことから、本研究の対象から除いた。BmEcDopR遺伝子は、他の研究機関でクローニングされたものを入手することができた。ここまでのクローニングに予想以上の時間がかかってしまったが、網羅的薬理解析に用いることのできる遺伝子として12種類を取得することができた。 上記12種類のアミン受容体の網羅的薬理解析を進めるために、各受容体の機能やアッセイ条件の検討を行ってきたが、レポーターアッセイでは評価できない受容体、スプライスバリアントやオーファン受容体の存在などの理由から、薬理解析が遅れているが、cAMPアッセイやCaアッセイなどを利用することで解析できる受容体も出てきたので、引き続き検討を進める。一部のオクトパミン受容体及びドーパミン受容体については、レポーターアッセイによって、高活性アゴニスト・アンタゴニストのスクリーニングまたは摂食行動実験まで進めることができた。チラミン受容体やセロトニン受容体の薬理解析と摂食行動実験が遅れているので、順次進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
ドーパミン受容体に作用する薬剤がカイコの摂食行動を制御するのに有効であることが分かってきたので、BmDopR4の全長クローニングを行い、機能・薬理解析と摂食行動解析を実施する。 オーファンアミン受容体の中にヒスタミンとメラトニンのGPCRが含まれている可能性があることが分かった。これが事実であれば、昆虫生理学上極めて重要な知見であるため、急ぎリガンド同定・機能解析を進める。 レポーターアッセイのみならず、cAMPアッセイ(Bm5HTR2の解析のために構築した多検体処理が可能なcAMPアッセイ)やエクオリンを利用したCaアッセイなども駆使して、それぞれの受容体に対して、市販品の生体アミン関連化合物の中から、高活性なアゴニスト及びアンタゴニストをスクリーニングし、高活性化合物が見つかれば、カイコに投与し、摂食量・排糞量・行動リズムなどに対する影響を調べる。スクリーニングが難航する場合も予想されるので、既知のアゴニスト・アンタゴニスト(他の昆虫生体アミン受容体に作用することが分かっている化合物など)を用いた摂食行動解析も並行して進めておく。 すでに、レポーターアッセイによってある程度リガンド探索が進んでいるBmOAR1とBmDopR2に関しては、高活性化合物を合成するとともに、化合物結合部位の構造をポイントミューテーションによって明らかにする。さらに、当初の研究計画にはなかったが、計算化学的手法も導入し、高活性化合物の構造を合理的に設計することも試みる。BmOAR1及びBmDopR2に対して高活性・高選択的な化合物がバーチャルスクリーニングできれば、その化合物の合成にも挑戦する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
未同定の受容体遺伝子のクローニングはほぼ完了したが、BmDopR4遺伝子の全長クローニングが残った。高品質のmRNAやcDNAを合成するためのキット、さらに未解読領域を解読するための専用キット(RACEキット)などを購入してのクローニングまでは着手できなかった。また、レポーターアッセイでは解析ができない受容体(例:Bm5HTR2)も出てきたため、レポーターアッセイキットの使用量も予定より少なかった。スクリーニング実験も限られた受容体でしか実施できていないため、購入した化合物も限定的であった。以上の理由によって、753,937円が残り、その分を最終年度に繰り越した。 繰り越し分と平成26年度請求額110万円(直接経費)を合計した1,853,937円を、BmDopR4の全長クローニング、レポーターアッセイでは解析が困難な受容体のcAMPアッセイやCaアッセイ、オーファンアミン受容体の機能解析に加え、網羅的薬理解析のためのレポーターアッセイキット、アッセイ化合物の購入、活性化合物の合成にかかる費用、摂食行動解析に必要な器具・装置の購入、カイコの飼育費用などに充てる。
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