2012 Fiscal Year Research-status Report
乳抗菌タンパク質と腸上皮由来レクチンの協調的作用による乳児腸内細菌定着制御の解析
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24780126
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大島 健司 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90391888)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 食品機能 / 腸内細菌 |
Research Abstract |
本申請では、食品として摂取されたミルク中の抗菌タンパク質ラクトフェリン(LF)が腸上皮由来レクチン「インテレクチン(ITLN)」と乳児消化管内で結合し、協調的に細菌生着の促進と抑制のバランスをとりつつ乳児の初期腸内細菌叢形成を制御するというモデルを提唱し、その検証を行うことを目的として大きく分けて3つの研究を遂行している。 1)ITLNと結合したLFが腸上皮細胞に取り込まれることにより細胞内シグナルが伝達されるか解析するため、ITLN発現細胞およびITLN非発現細胞へと取り込ませたLFの細胞内局在を比較した結果、それぞれの細胞種によってLFの細胞内局在が異なる事が明らかとなった。また、ITLN結合タンパク質をアフィニティー精製するために用いるリコンビナントITLNを培養細胞で過剰発現し、大量に精製する条件を確立した。 2)高感度に内在性ITLNの検出・定量する系を確立するため、マウスおよびウサギを用いて特異的にITLNを認識する抗体を作製した。 3)腸管組織の上皮層は、主に吸収上皮細胞と分泌上皮細胞の二種類により構成されている。腸内細菌と腸上皮細胞のin vitro共培養モデルに用いる細胞として、吸収上皮様の形質を持つ細胞に加え、分泌細胞様の形質を持つ細胞を得るため、ヘテロな細胞集団である事が知られている腸上皮細胞株HT29から、薬剤選択により分泌上皮様細胞の選択を行っている。また、腸内細菌の代表的な嫌気性菌であるビフィズス菌の培養および生育速度の測定条件を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べた3つの研究について評価する。 1)腸上皮細胞によるITLN-LFの取り込み機構の解析・・・初年度にはITLN-LF複合体の細胞内局在を解析するため、エンドソームマーカーを作製し、これを用いて観察する事を計画しており、実際にこれらを用いてLFの細胞内局在を検討した。そのため、研究の進捗は計画通りだと言える。 2)内在性ITLNの高感度検出系の確立・・・初年度にはマウスを用いてヒトITLNに対する抗体の作成を計画しており、達成されている。また、ウサギからも抗体を作製する事が出来ている。高感度検出系には、2種類以上の動物種由来抗体が必要なサンドイッチELISA法を用いる事を計画しており、そのための材料を得る事ができた。そのため、進捗は計画以上に進んでいると思われる。 3)腸上皮細胞と腸内細菌の共培養系の確立・・・初年度には腸内細菌と腸上皮細胞の共培養系を確立することを目標としたが、それに先立ち培養系に分泌上皮細胞を加える事により生体の腸上皮細胞層により近い環境を再現する事を目指す実験を行った。そのため初年度に計画していた細菌と腸上皮細胞の共培養実験の検討は、次年度にずれ込む事となった。計画とは異なる実験を実施したが、目的達成に向けての研究は順調に進められていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策についても、上記3つの研究計画に分けて述べる。 1)腸上皮細胞によるLFの取り込みにおけるITLNの作用メカニズムを明らかとするため、ITLNの局在をエンドソームマーカーを用いて解析する。また、初年度に精製方法を確立した組換えITLNを大量調製し、これを用いて研究計画に従いITLN結合タンパク質の精製を試み、マススペクトル解析により同定を行う予定である。 2)実験計画に従いITLNのサンドイッチELISAアッセイ系を確立するため、初年度に得られた抗血清から抗ITLN抗体を精製する。サンドイッチELISAアッセイ法が確立した後は、これにより内在性ITLN量を測定する。また、精製抗体を用いて蛍光免疫染色法やウェスタンブロット解析でも内在性ITLNの検出を試みる。 3)研究計画に従い腸上皮細胞と腸内細菌の共培養を行い、生育できる菌種を16SリボソームRNA配列を解析することにより同定する。またこれまでに培養可能となったビフィズス菌について、LFおよびITLN存在下での菌の増殖速度の変化を解析する。LFおよびITLN存在下で細菌と腸上皮細胞との共培養を行い、腸管内での細菌の定着に重要な腸上皮細胞への結合性や腸上皮細胞の遺伝子発現変化を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度で計画していた細菌と腸上皮細胞の共培養実験を次年度に持ち越したため、共培養実験に必要な機器・消耗品の購入に必要な研究費を翌年度に繰り越す事とした。以下、上記同様3つの研究計画に分けて計画を述べる。 1)ITLN結合タンパク質の精製のため、細胞の大量培養およびマススペクトル解析を行う。そのため、大量培養用の培地類およびマススペクトル解析に必要な試薬・消耗品を購入する。 2)抗体精製のため、精製ITLNを固定化して抗原カラムを作製する。そのために必要な試薬・消耗品を購入する。 3)細菌と腸上皮細胞の共培養実験および細菌種同定解析のために必要な実験装置を購入する。またLFおよびITLN存在下で細菌と腸上皮細胞を共培養した場合の腸上皮細胞における遺伝子発現変化を解析するため、外部委託によりマイクロアレイ解析を行う。 上記の他、全ての研究において初年度と同様細胞培養や分子生物学・生化学的解析のため、消耗品に多くの研究費を使用する。
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